15、エンブレム
「げっ……マジでなんか来やがったぞ」
彼らの第一声はそんな舌打ち交じりの声だった。いやいや、なんか呼ばわりって。
ゆっくりと歩み寄るヴェネを迎え撃つように、彼らは横一列に展開する。とはいえ、狭い路地裏に8人の男だ。一列に収まるはずもなく、前列と後列に分かれて前列で生まれた隙間に後列が顔を出している。
わざわざ全員の顔が見える様に並ぶとか……はは、記念撮影か何かかな?
「なに笑ってんだてめぇ、舐めてんじゃねぇぞこら!」
と、間髪入れずに怒声が叩きつけられた。前列の中心に立つ、リーダーと思しき大柄な男だ。取り巻き達も口々にはやし立て、狭苦しい路地裏がにわかに騒がしくなる。
「まぁまぁ、落ち着きなよ君達」
ヴェネは怯まない。懐から手帳を取り出して提示する。
黒の革張りの表紙に金糸で鷲の紋様が縫い込まれたそれは、通称〝
「こんなとこに女の子を連れこんじゃうのはダメダメ。分かるかな?」
「あー説教うぜぇ。つーか今流行りの模倣犯と人獣、とっとと捕まえろや。使えねぇ」
男は耳を掻きながら、見るからにめんどくさそうに吐き捨てた。
(ふぅ……相変わらず、こういう輩は〝大鷲〟に対して強気だなぁ)
裏の界隈で容赦なく制裁を行う〝土竜〟は、表で生きる善良な一般市民は勿論、裏の住人も恐れている。だが、表を請け負う〝大鷲〟はその真逆を行く。
国民に寄り添う形で捜査し、国民の意思を尊重して立ち回りを決定し、犯罪者ですら国民の1人として扱い、不殺の理念に基づいて職務を全うする。それが〝大鷲〟だ。
市民第一と言えば聞こえはいいが、その市民を危険に晒す犯罪者にまで弱気な立場を貫く現状、〝腑抜け〟の烙印を捺されても仕方ないか。
ま、いつもの事だけどね。ヴェネは構わず歩み寄る。
「ほらほら、話の続きはこの辛気臭い場所から出てからにしよっか? ジュースぐらいなら君ら全員分、奢ってあげるからさ」
「あ? てめぇ……マジで舐めてんだろ。いい加減に」
「ひゃっ!?」
男達の背後から、か細い悲鳴が起こった。
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