16、ブラッディ

 ヴェネが口の端を吊り上げ、彼女が男達の頭上を跳び越えてヴェネの背後に降り立つのは、ほぼ同時だった。


「……目標の救出、完了」


 ふぅ、と1つ溜息。ミオナは腕に抱きかかえていた少女を地面に下ろす。


「捜査官さんに注意を引かせて、上からお姫様を救出……鮮やかだねぇ?」

「……どうも」


 会釈する程度に頭を下げるミオナ。まぁそれも、容易くビルの屋上に上り、地面へ飛び降りれるだけの身体能力があってこそ、ではあるが。


 と、少女がへたりこんだまま、身じろぎする様に僅かに動いた。


長い黒髪に整った顔立ち、そして格調高さの漂う学生服を身に纏っている。確かこの辺りにある、お嬢様と呼べる人種ばかりが通う女子校の制服だ。


「立てる?」

「あ……え、ええ」


 少女はヴェネの差し出した手を数秒見つめてから、ぎこちない手つきで握り返した。ゆっくりと立ち上がり、朱色に染まった顔を伏せて優雅に一礼する。


「た、助かりましたわ……ありがとう、ございます」

「どういたしまして。それより、大丈夫? 変な事とかされなかった?」

「へ、変な事、とは……?」


「ん? んー、例えばエロ」

「ヴェネさん、セクハラで〝大鷲〟に通報しますよ」

「ホントすみませんでした」


 口を噤むヴェネをよそに、ミオナは少女の手を引いて歩き出した。 


「学校まで送ります。学校側への事情説明も必要でしょうし」

「そ、それはダメですわ! こんな事が学校に知れたら……お父様に、叱られます」


「……分かりました。ならば、せめて表通りまでは」

「ま、待てやこら!」


 と、目を丸くしていた男達の威勢が息を吹き返した。


「おい姉ちゃん、女だからって調子に乗ってると痛い目見るぜ?」

「女だから、という短絡的な物言いの方が調子に乗っているのでは?」


 言いつつ、懐から一振りの短剣を覗かせるミオナ。男達は鼻白み、言葉を失った。


 黒い鞘に収められ、柄に土竜の爪の模様。濁った血の様な色をした刀身がちらと覗くそれは、〝赤黒小剣ブラッディ〟の名を与えられた〝土竜〟の捜査証だ。


 動けない男達を尻目に、ミオナはこちらを一瞥する。


「ここは、お任せします」

「りょーかいだよ」


 一つ頷き、少女と共に走り出すミオナ。去り際に少女が何事かを言っていたが、聞こえなかった。


お嬢様ってのも色々大変だなぁ。1つ頷き、ヴェネは改めて男達を見やった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る