9、土竜
「ま、察しはついておるじゃろうが。彼女は〝
やっぱり。ヴェネは心中で頷く。
『羽ばたく大鷲』と対を為す治安維持機関、『抉り出す土竜』、通称〝
〝大鷲〟と〝土竜〟は、捜査官を擁し犯罪捜査に携わる、という点以外では、あらゆる部分において毛色が異なる。
物量にモノを言わせた人海戦術を用いて捜査、犯罪者の取り締まりを行う〝大鷲〟に対し、〝土竜〟は少数精鋭による隠密行動を基本とする。個々の実力を重視し、他人の力を借りる事を前提とした捜査に異を唱え、群れて動く事は少ない。
また〝土竜〟は、〝裏〟の界隈を荒らす者に〝裏〟の流儀で制裁を加える組織、と一般に認知され、〝大鷲〟の正義ともたびたび比較されている。
そして、2つの正義は相容れない、というのが通説だ。それ故に両者は同じ治安維持機関でありながら不可侵規約を設けて一切の交流を絶ち、光と闇のように付かず離れず、互いに融け込まないような立場を貫いていた。
なので、交わるべきではない、という彼女の主張はもっともだ。もっともだが……、
「この事件を〝土竜〟の捜査官が、ねぇ」
メガネを押し上げるヴェネ。と、レミリィがヴェネの腕を取り、開いた拳に何かを握らせた。
「ま、頑張る事じゃな。あのような無差別に暴れるような輩は、私にとっても鬱陶しいのじゃ」
「程々にやらせてもらうよ。善良な一般市民の為にね」
懐から取り出した硬貨を指でピンと弾き、ヴェネは歩き出す。その足先はミオナが去って行った方へと向いていた。
「ほぉ、これは愉快。〝大鷲〟の捜査官が白昼堂々とストーカーかのぉ?」
「人聞き悪いね。僕は事件を解決する為に必要な事をする。それだけだよ」
時間的にまだ遠くには行っていない、追い付けるはずだ。
そっちも仕事、頑張って。言い残し、ヴェネは足を速めた。
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