【短編】群青(From 銃砲×少女アンソロジー)

 赤い光線が性欲の染み着いた男の頭を通り抜けると、小さな破裂音がして、あとには静寂だけが残った。あたしは極めて無表情に光線銃を下ろすと、か細い太股をきつく締め付けているバックルに取り付けた。かちり、という機構が咬んだ音が、薄い緑色で彩られた空間に響く。

 華奢で薄い身体にはもったいない、軽薄な黒いランジェリーはもはや必要ないし汚れてしまっているから今すぐにでも捨てたいけれど、焼却処分はおろかここで脱ぎ捨てるわけにもいかなかった。プロ意識って、こういう判断のことをいうのだろうと思う。

 さっきまで生きていた、ホログラムのお化けみたいなだらしない中年男は、破裂して跡形もなくなった頭以外であればまだそれなりに人間としての形を残している。床や壁の一部には、この化け物が生きていた証拠として赤い血飛沫がしっかりと染みになっていた。死ぬ直前まで楽しんでいたんだし、きっと彼は感謝しながら果てただろうな、などとあたしはいつものようにほんの少しだけ標的について考えてみたりする。

 死体を視撮し、クライアントに暗号化して送信する。暗号化と言っても、変なパターンで明滅する手の甲を見つめるだけ。でも、これを通さないと、クライアントと意志の疎通もろくにできない。どういう仕組みなのかは良くわからないけど、未だに不思議に思う。

 そして何のねぎらいもなく、視界の端で口座の桁が繰り上がったのを確認したら光が消えた。手の甲から薄い膜がひらり、とはがれ落ちる。契約成立。時すでに遅し。

 あたしはそそくさと服を着て、ただの肉となった彼をもう一度だけ見た。

 なんとなく満足そうだったから、

「よかったね、ちゃんと逝けて」

 と、気まぐれに声をかけて、部屋をあとにした。


 群青色の空と薄汚れた空気は、人間が居住するこの層だけのものだと聞いた。内側は屋内だし機械しか住んでいないから、そもそも空気が汚れない。そんなことを言っていたのは奴隷商人だったか。数日前に同業者に殺された彼は、出会った時点で左手首から先と二本の前歯が欠けていた。なんでこんなにどうでもいい男を殺さなくてはならないのか、正直のところわからない。けれど、殺せと言われたら殺さないといけないのがあたしたちなのだから、仕方がないし、そうなった以上はどんなに見たことのある人間でも標的へと変わってしまう。それが特に哀しいとも思えない。物心がついたときから、あたしは殺し屋として暮らしてきたのだ。時すでに遅し。

 昔ながらのネオンがうるさい空間から離れると、荒涼とした集積住宅がひたすら立ち並ぶ、居住区画が姿を現した。鋼とコンクリートで出来た箱を幾重にも積み上げただけのような簡素な集積住宅を後目に、あたしはもっと奥へ向かう。

 徐々にコンクリートが煤けたように汚れ、金属がくすみ、建物群のところどころにほころびが見えるようになってきた。あたしはその中でも半分から上が消えたように折れた集積住宅へ入った。


 空調だけやたらに調整された、ベッドしかない狭くて混みあった部屋であたしは衣装をもう一度脱いだ。黒くて薄いだけの頼りないタイトスカートと、見た目だけは清楚そうなブラウスの組み合わせは、古くからのレイフクを模したものだと聞いたことがあるけど、こんなものを履くのなら、きっとそのレイフクというのは売女の着るものだったのだろう。でなければこれほど形だけのものにならないだろうし、なにより見せかけの高級感が、わたしはセクサロイドと違って本物の人間なんです、ちゃんとした肉なんですっていう汚れきったプライドを刺激しそうだ。

 そういえば昔はこういった行為が法律で禁止されていたことも思い出す。昔は人間がたくさんいて、肉体が全部自然のものだったから身体に多くの権利がまとわりついていたのだろう。身体に負担をかけるような行為は慎むべきで、だからきっと売春が許されていなかったのだ。

 いけないいけない、仕事が終わってタバコを吸うとすぐこれだ。回線は封鎖しているから、別に何をしていてもいいのだろうけれど、吸い込まれた興奮剤が脳を刺激していく様子は誰にも見られたくないし、感じられたくもない。

 けれど、こんな布切れで本当に人間の男は性的に興奮しているのが少しだけ信じられない。あたしも女ではあるにしろ人間なのに、男の仕草に興奮したことは覚えている限りで一度もない。そもそもたいていが的にしか見えない。時すでに遅し。

 レイフクをダストシュートに放り込み、いつものようにボタンを押す。ぱち、と音がして熱処理は完了し、後には灰だけがはるか下へ吸い出されていく。旧式の集積住宅だから、熱処理以外にゴミを捨てる方法がない。けれど逆に、あたしみたいな殺し屋にとっては都合がいい。どんなものを持っていようが一瞬で強制的に灰となってどこか遠くの、もう住めなくなった土地へ送られるだけだから。全部を循環させる必要なんてどこにあるのか、あたしにはわからないけれど、間違えないことが取り柄の機械が決めることなのだから、きっとその方が良くて、ゴミを捨てるのはやはり良くないことなのだろうと思う。

 最低限の栄養剤と、この部屋の家賃と、滞納していた公共料金を全て支払うと、口座の桁数は元にもどった。これで数日は生き延びられる。生きることに大した意味があるとは露ほども思っていないけれど、幼い頃に受けた教育プログラムに自分で死ぬことは悪いことだと教わったし、確かにわざわざ死ぬこともないだろうなと思う。栄養剤を口から摂取しながらそんなことを考えるのは、あたしが狙っていた的は、幸せに人生を生きていけたのだろうか、それとも、殺されては困るような事情があったのかをぼんやりと考えていたからで、そんなことをしている間に睡眠開始予定時刻が迫っていた。機械と違って生身の肉体はとても扱いにくい。感覚が知らせてくれるほど、あたしたちは自然に生きていないから、こうして事前にプログラムされた生活パターンに従うことで健康を守っているのだ。そうでもしないとすぐに体調を崩してしまうから困るし、そうするとあたしはすぐに生きていけなくなるから大変なのだ。

 ベッドの上に横になって、薄い布を身体の上にひく。はるか昔、人間が生まれた星では近くにちょうどいい大きさの恒星があって、その暖かな光が膨大なエネルギーをもたらしていたと誰かから聞いた。あまりにも近いせいで、照明がなくても非常に明るい時間が大半を占めていたとか。あたしたちの祖先は、それほど恵まれた星からなぜ宇宙空間に繰り出していったのだろうか。それも誰かから聞いた気がするが、興味がないので忘れてしまった。

 とりとめのない妄想を巡らせながら、あたしは思考だけで出来た宇宙空間を泳いでいく。誰もいない、自分だけの世界。そこに引きこもる間だけは、仕事をしていない本当の自分であることを感じていられる。

 どこからか漏れ出したのか、部屋にだんだんと水が入ってきた。潮の満ち引きのように、ゆっくりと確実に部屋を満たしていく水は、妙に柔らかく温かい。水面に身体を預けると、ねっとりとからみつきながら、あたしを深く受け入れていく。

 細かい泡と大きな泡が交互に浮き上がる。その先には無機質な空間が広がっていた。大きな管状の容器の中に少女が浮かんでいる。

 奥から白衣を着た老人がゆっくりと近づいてきた。すっかり白髪だらけになってしまった頭を重そうに上げながら、その少女をじっくりと感慨深げに見つめていた。

「これが私の、最後の希望だ」

 老人の声がはっきりと聞こえた。


 明るい電子音が脳裏に響く。新しい客がコンタクトを求めてきたのだ。あたしは枕元の暗号化パッチを左手にはめて、明滅する光を見つめる。

「今回の標的はブルー。ハイクラスだ」

 ブルーという言葉に身体が震える。

 機械の人間には群青色の血が流れている。生身の人間と区別するために、これほど技術が進んだ今になってもそれは変わらないのだという。あたしは機械の血を見たことがない。今までの標的はすべて人間だった。機械だって少ないわけではない。今の人間の命運を握っているのは群青の血を持つ彼らなのだが、それ故に簡単には近づけないように様々な障壁が彼らの生活範囲を取り巻いている。彼らがいる都市の中枢に人間が潜り込むことは難しい。身体中にいろいろなものを仕込んでも、何重ものスキャンをすり抜けていくためには周到な準備と最低限の装備で切り抜ける必要がある。

 そして何より、機械は簡単には死なない。光線銃の一撃で殺すには精密に狙う必要があるし、刃物に至っては致命傷を与えることそのものが至難の業だ。表面の人工皮膚は人間のそれと同じ感触なのに何十倍も強化されているし、耐熱にも優れているからだ。いつの間にか、人間は機械になにひとつ優れている部分が無くなってしまったのだ。どうしてそうなるまでほうっておいたのか、今のあたしにはさっぱり見当がつかない。もっとも、考える必要もない。

「侵入の方法を伝える」

 合成された音声が無機質にその内容を伝える。使用する凶器、その搬入方法、そして侵入経路。なるほど、セキュリティはこのようになっているのか、と勉強させられるような巧妙な抜け穴を突いているように見えて、それくらいの対策はできているのではないかというような古典的(昔の映像メディアで出てくるような手法、という意味)な技の組み合わせだった。機械もまさか人間が自分たちに危害を加えられるとは思っていないのだろう。それはあらゆる意味で機械が人間を超えてしまったことの現れだ。

 また余計なことを考えながら、あたしは任務にとりかかった。まずは言われた通りに自宅にあった、古い機械銃を分解して、小さな部品ごとに身体に埋め込む。弾薬から炸薬を取り出して、薄い吸引フィルムに振りかけた。自宅で出来る準備はこれだけ。あとは外で、道路の隙間に落ちている部品を拾ったり、普通にショップで買い物をしたりして、凶器とカモフラージュの部品を揃えていく。指示通りに動けば、確実に準備ができるという意味で、今度のクライアントは優秀だと思った。普通はそこまで親切じゃない。最低限のフォロー(たとえば、一般人が侵入できないような場所に行く必要があるときの侵入の手助けとか)だけで、あとは自分でなんとかしてきた。そうしてなんとか、あたしたちは人を殺し続けてきたのだ。

 とにかく、そうして機械と人間の居住空間を隔てる巨大なゲートの前に立って、あたしは辺りをうかがった。

 そもそも、この今の時代は、人間が望んで機械の空間に行くことはまずないし機械がわざわざ人間の空間に行くことも滅多にないのだ。だからこそ、あたしはほとんど何の対策もせず、するりとゲートを抜けられた。普通なら人間と判った時点で警報が鳴ったり、ゲートセキュリティでブロックされたりしそうなのに、あまりにも拍子抜けした。ブロックされるものとして策を練っていたのだけれど、抜けられたのだからまあいいだろう。もしかするとクライアントがうまく細工をしたのかもしれない。相手は機械だし、こっちの空間ではないのだから、余計なことは考えない方がいい。

 あたしは極めて注意深く周囲を見回しながら、さらにもう一層奥に入るために、境界のセキュリティゲートまで急ぐ。的はこの先にいるし、そこまでは凶器を組み立てることすらできない。素早く作業を終わらせなければ、絶対に立ち入ることの出来ない場所に移動してしまう。チャンスはあまり残されていなかった。用意が周到なのはそういうところもあるのだろう。

 セキュリティゲートはかなりの距離を歩いたところにある。それまでにセキュリティアームに捕まったら即死だ。アウトなどという言葉ではなく、文字通りあたしは沸騰して消えてしまう。奴らは全く容赦がない。知り合いの同業者が極めて精密な光線銃に撃ち抜かれた記録にアクセスしたのを思い出して、あたしは一瞬身がすくんだ。だが、足を止めているほど余裕はない。眼球に表示されたセキュリティアームの位置とゲートを確認しながら、遠回りしながら確実に近づいていく。機械の感覚は人間のそれよりもはるかに鋭い。出来るだけ足音を立てないように履いてきたソールの違和感が今になって気になり始めた。そもそも、人体から出ている電磁波すらきっと捕らえられているのだから、ここに人間が入りこんでいることはおそらく奴らに筒抜けなのだ。だから絶対に場所を確認し続けていないと、射程圏内に入った瞬間にあたしは死ぬ。死んだらどこに行くのだろう。みんなと同じように灰になってどこかに散って行きたいけれど、人殺しにそんな権利なんて、果たしてあるのだろうか。けれどいまのあたしに出来るのは目標との距離を少しでも詰める、そして狙撃するというただそれだけなのだ。初めて機械を殺す。それはそれで不安だし、緊張するしそれにわくわくする。人間のあたしが機械を暗殺するなんて。それはこの世界に対する反逆と同じことだ。雇い主は誰かわからないが、とんでもないことを考える機械がいるものである。まあ、もとをたどれば、機械だって人間が作ったものであることには変わりないし、同族を殺さずにはいられないという神から背負わされた業のようなものがあるのだろう。でなければあたしたちは、ここまで発展することもなかったし、自分たちが作り出した機械に支配されるなどという大昔の神話みたいなばかげた劇的な展開もなかっただろう。だから神様は本当はこの世のどこかにはきっといるのかもしれない。セキュリティアームをやり過ごしながら、あたしはもう一層奥へと続くゲートに近づいた。事前に手に入れたカードキーを通してセキュリティを無効化し、わずかに開いた隙間に身体を滑り込ませた。ぎぎぎ、と歯車が軋む嫌な音がして、ゲートの鉄板が閉じた。あとほんの少しでも遅れていたらと思うと、身体の熱がいっせいにひいていくような気がした。

 ここが侵入するべきエリアだ。あたしが初めて、そしておそらく最初で最後の仕事をする場所だ。やっかいなセキュリティアームはもういない。その前の層で十分配置されているという判断なのだろう。その情報もクライアント通りで、おそらくクライアントも、中枢に配置されている機械なのだろうと余計なことを考えた。とにかく、落ち着いて機械銃を組み立てていく。アームや長い銃身を付け替えて、古びた小さな銃が、身体じゅうに仕込んだ部品たちによって巨大な狙撃銃に形を変えていく。薄い身体でよかった、と思うくらいにたくさんの部品を埋め込んでいたのがわかって微妙な気分になる。あたしにしかできないことだからあたしに頼んだのだろうか。そして眼球に標的が浮かび上がる。思ったよりも近い。重たくなった銃を持ち上げて、標的が通る廊下のすぐ上を通る通路に、銃を立てかける。銃弾に吸引シートを巻き付けて、即席の徹甲弾をセットする。鉄板で隔てられていて、機械の人工皮膚も通すためにはこんな風にする必要があるそうだ。ちなみに、標的の位置はクライアントによって眼球にマークされているから外すことはない。あとは引き金を引くだけ。戻るにしても時すでに遅し。

 遠くでかすかな足音が聞こえた。標的だろうか。確かに眼球上のマーカーはすでに射程に入っていることを示していた。あたしは射撃が安定するようにしゃがみ込み、マーカーに照準を合わせる。照準がぴったりと合い、マーカーの色が変わった。

 引き金を引くと、今まで聞いたこともないような轟音と、両腕と肩に強い衝撃が走った。大男に突き飛ばされたみたいだと思った。反対側の壁に身体をぶつける。穴の開いた壁をのぞき込もうとした時だった。

 すぐ横で銃声がした。首の後ろを高速の銃弾がかすめる。

 隠してあった護身用の小さな機械銃を構え、銃声のした方を見るが誰もいない。

 後ろにかすかな足音が聞こえた。あたしは反射的にしゃがみながら、まっすぐ走り出した。頭のすぐ上を銃弾が駆け抜けていくのが見えた。

 ぱちりと瞬きをして、磁場フィルターを眼球に反映させる。

 後ろにはもう誰もいない。

 全速力で通路を駆け抜け、セキュリティゲートを目指す。

 この層には敵がいないと聞いたはずだった。それに、仮にいたとしても、眼球に搭載されたデータが敵を判別しているはずだ。

 まさか。

 ひとつの推論が頭をよぎる。

 クライアントに裏切られた。もしくは、最初からあたしをはめるための罠だったか。いずれにしても、修羅場にはまった。

 相手はおそらく全員機械。標的ですら初めてなのに、狙われたことなど当然ない。どうしてそうなったのかを考えても仕方がないので、やはり逃げるしかない。どこに逃げればいいのかもわからないけれど。

 セキュリティゲートはぴたりと閉じている。カードを通してみたけれど開かない。どうやらクライアントは最初からあたしを始末するつもりだったみたいだ。

 どうしよう。どうやって逃げよう。

 考えながら、あたしはとにかく動いた。ゲートはこの場所以外にもあるはずだし、どうにかしてカードを奪うことも出来るかもしれない。少なくともこの場所は明らかに危険だ。

 走り出したそばから、後ろに機械を確認する。すぐ左に狭い通路が見えたので飛び込んだ。後から銃声が追いかける。

 機械の弱点は分かっている。弱点だけは人間と同じなのだ。

 通路の入り口をのぞき込む機械を、あたしの銃が撃ち抜いた。二発目で機械は群青の血を流し、動きを止めた。

 思っていたよりも火力が強い銃だ。反動で手首が壊れそうだったが、そんなことは言ってられない。

 倒れた機械から武器を奪おうと近づく。

「えっ」

 あまりにびっくりして、あたしは思わず声を漏らした。

 機械の顔。

 群青に染まった頭。

 その顔は、かろうじて。


 あたしは逃げ出した。

 あたしを模した機械が、本物のあたしを追いかけている。

 いったい誰が何のために、あたしを模した機械を創ったのだろう。殺し屋として、少し有名だったのかもしれない。それにしても悪趣味だ。

 そして、目の前に突然現れたのは。

 あたしと同じ顔の機械。

 銃を抜く前に、頭を撃ち抜いた。

 今度は冷静に機械銃を奪う。これでしばらくはまともに戦える。

 かすかな足音と、若干の磁場の乱れを検知した。後ろから来ることはわかった。

 前に逃げるしかない。

 駆けだした瞬間、前の通路のかげから見慣れた頭が飛び出してきた。三点バーストが即座にそれを吹き飛ばす。この機械銃は威力も取り回しも全然違っていた。それも仕組まれた罠なのだろうか。

 倒れ込んでいる群青色のあたしから弾倉だけをひったくる。どうにかしてここから脱出しないと結局あのレプリカに捕まって死ぬだけだ。

 銃声がした。

 左腕を銃弾がかすめた。

 どこから撃ってきた。

 磁場を確認するが、近くではない。

 左後ろを向いたその時、一層上の高いところから、機械が狙撃銃を構えている。

 いつのまにかあたしは入り組んだ迷路のような施設に追い込まれている。さっきまで気がつかなかったが、たぶん誘導されていた。網目のような通路が入り組み始めたところに、上からの狙撃があるとなっては厳しい。

 狙撃手を撃ち落とせるだけの装備はない。人間ならまだしも相手は機械だ。

 行く手に二体、機械が現れた。さっきまでのレプリカではない。

 いきなり銃弾をばらまかれたので左にとびのき、近くの物陰に隠れる。

 後ろに細い通路が伸びている。這って行けば、銃撃を受けずに潜り込めるだろう。

 銃を背負って、あたしは地べたを這った。たかだか二、三メートルくらいの距離なのに、異常に長く感じたし、すごく疲れた。

 通路に入ってすぐに駆け出す。敵はすぐに隠れたことに気づくだろう。その前に距離をとらなければ。

 銃を前に構えて、速度を徐々に上げていく。

 細く長い通路は、とても暗い。

 通路の先へ照準を合わせると、セキュリティゲートが見えた。

 出来すぎている。何かの罠かもしれない。

 けれど、こちらは銃も持っている。強行突破するしかない。

 今までで一番速く走っているかもしれないと思ったとき、胸に強い衝撃を受けた。

 前には数体の、レプリカが立っている。

 見落としていた。いや、最初から気づかせるつもりなど無かったのだろう。

 身体が急に脱力していく。

 射抜かれた胸からは暖かい血が流れていた。

 あたしはそこに手を当てる。


 もう見慣れた群青色が、そこにあった。


 ああ、やっぱりそうだったのか。

 それですべてがわかったような気がした。


 でも。

 時

 すでに

 おそs

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