第20話

 晴れて自由になった私は、まずは最上階フロアにある理髪店に向かった。私が入院したタイミングは丁度美容院に行こうと思っていたタイミングだったため、そのまま髪は伸びてぼさぼさになり、それよりも体は拭くことが出来てもシャワーは認められていないために頭が痒くて堪らない。

全身にシャワーを浴びなければ大丈夫なので、理髪店に行って頭を洗って欲しかったのだ。

 初めて上がったこのフロアには理髪店をはじめコンビニ、カフェ、レストランがあり、入院という事が初めての経験だった私は、これほど設備が整っているとは思いもしなかった。ちょっとした商店街のようなものだ。

 理髪店は席が二つあり、理髪師が二人いた。正直私はこの際オシャレなどはどうでもよいので、とにかく短くカットしてもらう事にした。

髪は短くなり洗髪してもらって、ようやく生き返った気分だ。

正直だらしのない生活をしていた私は、今まで髪型やオシャレにあまり気を使っていなかった。しかし、髪を綺麗にするだけでなんだか人間らしくなったような気がして気分が明るくなるものだ。

 散髪が終わると、続いてコンビニに寄ってみた。普通の街にあるコンビニと違って商品の種類は少ないものの、病院内コンビニだけあって半分薬局のような品揃えだ。

ただ、お菓子もアイスも売っている。看護師の「あまり食べ過ぎないようにね」という言葉の意味がここでようやく理解出来た。

量が少ない病院食では足りない人はここでお菓子を買っているのだろう。事実、私の隣のベッドの人は夜な夜な煎餅をバリバリ食べていた。

 それよりも最も危険な存在がコンビニの一番奥にあるパンのコーナーだ。このパンというのはよくあるコンビニのパンでは無く、パン屋さんが焼いたパンを売っていてパン屋と同じように袋詰めされていなく、パンの美味しそうな香りを漂わせているのだ。私はとにかく自制するので精一杯で、入院中出来る限りこのコーナーには近づかないようにしていた。

 レストランは普通にラーメンやらパスタやら丼ものなどがある、何でもありのサービスエリアにありそうなレストランだ。さすがに入院中ここに入る勇気は無かったのだが、退院する際に記念に最後に入ってみた。

中はレストランというより社食のような色気の無い内装で、正直味も微妙だった。病院内レストランなので味付けが薄いのかもしれない。

 最後にカフェ。ここは結局入院中通い詰めた。味もメニューも充実したカフェで、病院最上階にある事もあって窓から見える景色も良い。

病院というものはどこへ行っても色気の無い空間ばかりで、ずっとそんな環境にいるとただでさえ入院中退屈なのに更に生活に味気がなくなってしまう。何となく、生活がモノクロームの世界になってくるのだ。

 しかしカフェだけは街中にある店程ではないものの、色彩のある空間に感じた。それもあったのだろう、毎日通っては時間を潰していた。

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病は突然に 弥生 @yayoi_m

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