七沢ゆきの&朝樹のなんちゃって医療エッセイ

七沢ゆきの

第1話 男前な患者さんに送る、救急外来看護師からの無難な熱傷処置の方法

 事の始まりはツイッターのゆきのさんの呟きだった。


 #フォロワーが体験した事が無さそうな体験と言うツイート。


 これに対しゆきのさんの回答


『かなりの火傷をして「病院に行ったら皮膚移植されちゃう!傷跡が二つになる!そんなのやだ!」とハサミで水泡を切り取り、その辺のカッターでデブリ※1をし、ワセリン※2と被覆材※3で覆い、その後も肉が腐るたびにデブリし、今では少しシミがある程度まで治した』


 はい。

 これを読んだ朝樹は「ひ―――っ」となりました。

 火傷の自宅での処置は危険です。(普通は)


 このツイート、ちょっと※の解説だけでもするとこんな感じ。


 ※1デブリ:感染・壊死組織を除去し創をきれいにして、他の組織への影響を防ぐ外科処置のこと。

「切開」を意味する debridement に由来する。 略して「デブリ」。決して素人のする処置ではない事は明記しておく。


 ※2ワセリン:石油から得た炭化水素類の混合物を脱色して精製したもの。いろんな薬剤と混ぜて使用することの多い軟膏。

 皮膚表面に油分の膜を張り、角質層の水分蒸発を防ぐことで皮膚の乾燥を防ぐ効果に加え、外的刺激から皮膚を保護するという働きがあることから、鎮痛・消炎・鎮痒の軟膏剤のような医薬品と混ぜて使用される事が多い。


 ※3被覆材:傷口を覆うものを「創傷被覆材」と呼ぶ。傷の状態や原因によって使用する物が変わって来る。各メーカーから多数の種類の物が発売されており、この被覆材の種類の選定だけでも素人には難しい。誤った被覆材を使用することにより傷の治りが遅くなったり、悪化する場合もある。




 えー、ゆきのさんのやったことが、なかなか無茶ぶりであることが分かって下さったかと思われます。

 ちなみに救急外来では、そんなにすぐに皮膚移植の話になんかならないし、火傷って原因によって深さが全然違ったりするんですよ。

 熱湯をかぶったとかは生ぬるいです。たき火で焙ったとかは深い事が多いですね。3度熱傷でゆくゆくは皮膚移植が必要と思われます。直火焼きは危険です。

 ラーメンなど熱湯系は比較的素直に治ってくれることが多いです。


 なので、火傷をしたら夜中でも病院へ行って下さい!!  ←フォント大


「夜とか病院なんかやってる所ないじゃん!」と言う方も多いと思いますが、救急車を受け入れる病院は必ず対応してます。まず電話をして、状況を相談して下さい。専門医はいないと思いますが、とりあえず今しないといけない事を教えてくれたり、応急処置はしてくれると思います。


 なので、火傷をしたら夜中でも病院へ行って下さい!!  ←フォント最大


 このツイートに対し、朝樹は8ツイートに渡って熱傷の対応方法を書き連ねてしまいました。

 そしたらゆきのさんが、何故この様な男前な処置をしたのか解説してくれまして。


 せっかくなので合作エッセイにでもしてみようかって話になっていました(笑)





 えーと、ちょっとここで火傷の深度の説明をしておきます。

 ゆきのさんのやった処置の恐ろしさが実感できるかと思われます。



Ⅰ度熱傷

1.表皮のみの損傷です。(日焼けは1度熱傷です。)

2.ヒリヒリして赤くなります。

3.一時的に色素沈着がありますが、数日で自然に治り、やけど跡は残りません。


浅達性Ⅱ度熱傷

1.表皮基底層(真皮上層)までの損傷です。

2.痛みが強く、赤くなり、水ぶくれができます。

3.上皮化後に、色素沈着などが起きますが、やけど跡はあまり残りません。

 ただし、やけど後のケアによっては、やけど跡が残ることがあります。


深達性Ⅱ度熱傷

1.真皮深層までの損傷です。

2.赤く腫れ、水ぶくれなどが起きますが、 痛みは軽度で、水ぶくれの下の皮膚が白くなっています。

3.上皮後に瘢痕が残りやすいです


Ⅲ度熱傷

1.皮膚全層の損傷です。

2.痛覚が失われて痛みはなく、肌の表面は壊死していることもあります。

 創面は白く乾燥し、水ぶくれはできません。

3.やけど跡ははっきりと残り、盛り上がったり、ケロイド状に残ることもあります。

 皮膚が引っ張られる感覚や、機能障害が起こる場合もあります。





 以下、ゆきのさんの話し。(作中の矢印は朝樹の突っ込みです)


 ……彼女の現在連載中のヒロイン、黒薔薇姫でもここまで男前ではないかもしれません。







<1日目>

 私はゆきの。

 シルベスター・スタローンに憧れる普通の女の子。


   ↑スタローンが好きvな女の子は沢山いると思われるがなりたいと思う娘はすごく少ないと思われる。


 でも昨日は床で寝落ちしちゃったみたい……。こんなのスタローンじゃないなあ。


 あれ、ここ、ストーブの前?

 わ、おなかに大きな水疱が!!!てのひら一枚半分くらいある~。

 困った。かなりの火傷しちゃった。


 病院に行ったらゲーベンガーゼ……いや、これだと植皮かな……。


 ゲーベンガーゼは血腫が残ったトラウマがあるし、植皮されるのはもっといやだなー。

 傷痕が2つ残る上に瘢痕硬縮はんこんこうしゅくとか、怖いな。いちおう女だし。


 よし、これくらいなら自分でなんとかしよう。 ←やめとけ!


 だってスタローンならなんとかするはず!   ←スタローンだって病院行くってば!

 うん。

 自分がスタローンだと思えば何も怖くない!  ←スタローンだって怖いよ!!


 というわけで、私はある熱傷専門医のHPを見ながら自分で処置しちゃうことにしました。 ←ひ―――!!


 まず、水疱をハサミで切っていきます。  ←最近は水泡は残すこともあるんだよぉ―!

 その辺にある普通のハサミです。

 皮膚から浮いた皮を全部切り取って……おおお、中は真っ赤、黄色、白と見事なグラデーション!


   ↑それは1度、2度、3度の熱傷がすべて揃っていたためと思われます。


 けれど見惚れてる場合ではありません。痛い。  ←当たり前だ。


 ぬるいお湯で軽く患部を洗い流して、ワセリンを塗って、プラスモイストっていう、いまはやりの透明絆創膏の通気性があるバージョンみたいなのを患部の形に添って切ってテープで保定!

 テープをびっしり張るとせっかくのプラスモイストの通気性が弱くなっちゃうので最低限で!


 このプラスモイスト、浸出液を吸い取り患部を湿潤に保ちながら通気性も確保する優れもの……らしい。


 とりあえずこれで処置1ターン目は終わり。


   ↑処置が正確で驚いた。モイストブラストを自宅に常備しているなんて!もしやホントに毎日剣を片手に異世界にでも行ってるんじゃないだろうか?




 さて、その日の夜のお風呂です。

 非常に怖いです。


 HPの指示通り、せっけんを使わず患部を洗浄、ワセリンをよく落とします。


 あれ、意外に痛くない。戦場に向かうスタローンの気分でいたのに拍子抜け。

 お風呂につかってもいいとのことだったので湯船にも入っちゃいます。


 ちょっと痛いけどこんなの許容範囲だわー。スタローンの無駄遣いだったわー。


   ↑痛くないのはおそらく火傷の深度が深かったと思われます。シャワーまでならOKだけど、湯船は雑菌がいる可能性があるため避けましょう。ってスタローンの無駄遣いって何?!



 お風呂から出たら患部を優しく拭いて乾かないうちにプラスモイストを(同じ処置なので以下省略。ワセリンだけは1回目のみ塗布ということで塗ってません)


 痛みで眠れないことも覚悟していましたがそんなこともなく、安眠。



   ↑安眠できるゆきのさんがすごい。




<2日目>

 お風呂に入るためにプラスモイストを剥がしたら……患部にくっついて痛い!!


 HPで確認したら「患部に被覆材が張り付いて痛い場合はワセリンやリンデロンVG軟膏で保護しても可」とあったので、今日からは処置の時に患部にワセリンを塗ることにします。


 予想外のスタローン気分でした。


   ↑スタローン気分になる前に病院行こうよう~(涙)


 入浴時の処置は1日目と同じ。あまり痛みがないのも同じ。火傷でこれは嬉しいなー。


 で、今日はお肉が白く腐ってきたのでデブリードマンすることにしました。


   ↑腐ってきたって分かってるのに何故病院へ行かないんだ―!しかも自宅でデブリって!?

    デブリの判断は看護師でも結構難しいんです。正常肉芽との判断がつかない事が多いから。



 カッターと針で慎重に、火傷で死んだお肉を除去していきます。

 死んだお肉なので痛みはありません。逆に痛いと感じたらまだ生きてるお肉なのでそこで除去をやめます。

 これも患部の消毒は不要と言うことでしたが、さすがにその辺のカッターと針には不安があったので80プロアルコールで拭いてから使いました。

 そのあとは患部にワセリンを塗って、プラスモイストを貼って(同じ処置なので以下省略)


 ここまで痛み止めは一度も飲んでいません。


   ↑ホントにスタローンが憑依してたんじゃないだろうか……

    良い子は絶対まねしないでください。

    処置がホントに正確でびっくりですよ。




<3日目>

 2日目と同じです。


 デブリードマンをする場所が広がってきました。


 火傷が軽かったところから赤い肉芽が再生してきているのがちょこっと見えます。嬉しい。




<4日目~>

 ここからは基本3日目と同じ処置を続けていきます。

 患部が変なにおいがしないか、ねばつかないか、感染の兆候を見ながらの処置です。


 その後は火傷の軽かった場所から上皮化が始まり、プラスモイストを貼る範囲も狭くなっていきました。


   ↑ホントに感染を起こさなくて…… 嫌、起こしていたのか。

    それを自分で対処して……

    うん。ホントに戦場へ行っても、異世界へ行っても大丈夫だねゆきのさん……

    回復魔法はいらないと思うよ。




<約2か月後>

 心配していた瘢痕硬縮などはなく、自己判断ですが深部2度と3度くらいだった場所に薄茶から濃い茶色の色素沈着を残すだけとなりました。



<1年後>

 色素沈着は本当に火傷が酷かったところ、縦3cm、横2cm程度だけになりました。やはり瘢痕硬縮などは一切なく、肌触りはほかの部分と変わりません。すべすべです。


 色素沈着の色も薄くなったのでぱっと見にはよくわかりません。

 以上、シルベスター・スタローンになりたいゆきのの火傷体験記でした!


   ↑えーと。貴女は十分シルベスタ―・スタローンです。朝樹が保証いたします。




 と言う訳で、正しい火傷の対処法を書いておきます。


 決して、自宅で上記のような方法は取らない方が望ましいと思われます。 ←フォント大



 湿潤療法で治したいから、と言って病院を嫌う人もいますが、現在の被覆材は湿潤療法に近い物もありますので、医師に言えば可能な限り希望に沿ってくれると思います。

 命にかかわりそうな広範囲熱傷は、黙って医者の言うことを聞いて下さい。



 ①救急外来では、まず相談電話があった時点で乾かさない様に清潔なタオルを水に浸してから創部に当てて車で来るように言います。やけどの原因にもよりますが、深そう広そうなら救急車で。

 創面に直接氷やアイスノンはNGです。必ず濡れたタオルなどを間に引いて下さい。乾かさない事が重要です。病院まで遠かったらペットボトルにでも水を入れてタオルに追加で濡らしながら来て下さい。


 ②熱湯で面積が狭かったりする場合は消毒薬の刺激も避けた方がいいという説もあり、保護材を貼って終わりと言うこともあります。私の病院ではハイドロサイト(商品名)と言う保護材を使っています。ハイドロポリマー(一般名)という、一見ガーゼ状に見えるけど浸出液に濡れるとゼリー状になって傷をふさいでくれるという優れモノもあります。


 ③うちの形成外科の先生の一押しは「エスアイエイド」(商品名)と言う被覆材です。

 創面がシール状になっているので貼りやすく、一回貼ったら、剥がれるまでそのままでそのままでOKです。感染して浸出液が増えてきたりしたら剥がれちゃうのでそうしたらまた処置が必要です。これは箱単位だけど市販されていたんじゃなかったかな?

 ちっちゃい火傷ならキズパワーパット(商品名)も有効です。


 ④ワセリン(商品名は白色ワセリン)などの軟膏については、塗った方がいい場合と悪い場合があります。毎日の処置が出来る場合は使ってOKですが、貼りっぱなし派の人は、塗った軟膏が感染源になる場合があります。

 ステロイド系の軟膏を塗ると炎症を押さえてくれたりするのですが、これは病院の判断に任せましょう。


 ⑤直火焼きにしてしまった場合、素直に病院へ行って下さい。直火焼きが一番酷いことがあります。

 更に最悪熱い温度の煙や火を吸いこんでしまうことがあります。

 一瞬のことなので、本人も気がつかない事があったりするのですが、火傷で一番怖いのがこの気道熱傷です。段々と一瞬でも焙られた気道が炎症を起こして気道をふさいで息が出来なくなります。

 こうなる前に潔く救急車を呼んで下さい。

 気道熱傷にはスタローンでも敵いません。



 以上、「男前な患者さん七沢ゆきのさんに送る、救急外来看護師からの無難な外傷処置の方法」でした。


 文責:朝樹


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