注文の少ない喫茶店
勝利だギューちゃん
第1話
「今日も、客足は0か・・・」
静まり返った店内に、マスターの声が響く。
ここは、とある静かな町にある、一軒の喫茶店。
西側に面したこの店は、夕方になると、陽の光が差し込む。
それが、幻想的ではるのだが・・・
「さてと、今日は店を閉めるか」
この店は、初老の男性がひとりで切り盛りしている。
退職後に、かねてからの夢だった店を開いた。
しかし、予想はしていたものの、客足はさっぱり。
「もう、一か月だけやってみて、ダメなら閉めよう」
マスターは、落胆のため息をついた。
カランコロン
ドアのベルが開いた。
マスターが見上げると、そこには1人の紳士が立っていた。
「いらっしゃいませ」
久しぶりの来客の、マスターは驚きを隠せなかったが、
何とか言葉に出した。
紳士は、無言でカウンター席に座る。
「マイスミルイクティーひとつ」
「少々、お待ち下さい」
マスターは、準備を始めた。
しかし、マスターは、よほど珍しく思ったのか・・・
マスターは紳士の顔を、ちらちら見てしまった。
「私の、顔に何か」
「いえ、すいません・・・」
(気付かたか・・・)
マスターは、恥ずかしさと、情けなさで赤面していくのを、感じた。
「無理もありません。」
「どういうことですか?」
マスターは、アイスミルクティーを紳士の前に、置いた、
紳士は、ミルクとシロップを入れて、
ストローでかき混ぜて、口に含んだ。
「マスター」
「何ですか?」
「マスターは、幸せですか?」
何を言うんだ、この人は?
そう思いつつも、マスターが、答えた。
「ええ、念願だった、店を持てて幸せです」
「そうですか・・・それは、よかったです」
そういうと、紳士はアイスミルクティーを、ゆっくりと飲み干した。
「お代、ここに置いておきます」
そういうと、紳士は立ち去った。
「何だったんだ?一体・・・」
マスターは、しばらく立ちつくした。
翌日も、また次の日も、紳士は来た。
同じ時間に来て、アイスミルクティーを注文して、少し話して、
そして、帰っていく・・・
「静かですね。このお店」
「ええ、まあ」
そんな他愛のない会話だった。
「不思議な人だな・・・」
マスターは、そう思いつつも、いつしか、心待ちにするようになった。
しかし、ある日を境に、ぱったりと来なくなった。
最初のうちは、心配していたマスターも、
だんだんと、気にならなくなっていった。
ある日、4人連れの、女子高生がやってきた。
そして、4人掛けのテーブルに腰を下ろした。
マスターは、注文を取りに水を持っていくと、
「おじさん、アイスミルクティー4つ」
「かしこまりました」
女子高生たちは、騒ぐと思っていたのだが、個々に時間を潰している。
読書をしている子ばかりだ。
おしゃべりなどしていない。
「お待たせしました」
マスターは、注文のアイスミルクティーを持って行った。
すると、ひとりの女子高生が、声をかけてきた。
「おじさん、静かですね。このお店」
「ええ、よく言われます。」
それっきり、またしゃべる事なく、店を出て行った。
「なんなんだ?」
それから、少しずつ客が増えて行ったが、
来客はみな、殆ど話す事はない。
話すと言えば決まって、
「静かですね」
それだけだった。
数年後、店はかなりの評判のある店となった。
しかし、殆ど会話がない。
それぞれが、想い想いにふけっている。
いつしか、この店に名前がついた。
「注文の少ない、喫茶店」と・・・
今日も、この静かなお店には、安らぎを求める客が、後を絶たない。
注文の少ない喫茶店 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu
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