第33話 解決! そして、祝福
真希さんの凄い叫び声に慌てた亮太は、彼らを玄関の中に引き入れた。真希さんの後ろには彼氏さんも居た。
何だかこの手錠が原因のようなので、先ずは説明をと口を開いた。
「ですから、ちょっと誤解なんです。なんと言いますか、私が自分で遊び半分で……」
まさか亮太が私を閉じ込めたい衝動にかられ、公園から手錠をかけられて帰ってきたなんて、やっぱり言えない。
「大人になるとそんな欲求が現れるんですね。私、理解出来ないですけど軽蔑はしませんからっ。そういうプレイが好きな人もいるでしょうから」
(え! 私がそういうプレイが好きな人になってる。それ私じゃなくて、あなたの好きな亮ちゃんですよ⁉︎)
チラリと亮太を見たら、プイと顔を逸らされた。
(もうっ!)
「で、何か話があって来たんだろう? 言えよ」
「うん。森川さんに謝りたくて」
「え、私に?」
真希さんと彼氏さんがうんと頷き、そして頭を下げた。そんな彼らの態度を見て、不思議そうに亮太が今度は私を見る。私も驚いているんだけど。
「亮ちゃん。実は私、妊娠していて」
「はあ! 何だと! てめえかっ、真希に手出したのは!」
「ちょっと亮太! 落ち着いてよ。真希さん、話の途中だから」
もうお父さんなの? と突っ込みたくなる勢いで、亮太は怒った。家族のように育ったんだもの、仕方がないとこだけど。
「すみません! 俺がうっかり避妊を怠ったせいで彼女に負担を強いてしまいました。でも、愛しています。真希のことを凄く。彼女の全部を護ってやりたいと思っています」
私、初めてまともに彼氏さんの声を聞きました。しっかりと考えを言える人だったって、かなり安心した。亮太は未だ目を吊り上げて怒っているけど。
「私、妊娠した事に動揺して逃げたの。亮ちゃんなら可哀想にって受け入れてくれると思ったの。だからあの日、公園で森川さんに亮ちゃんと分かれてって言った」
「は⁉︎ なんだよ、それ」
「自分勝手だった。森川さんごめんなさい! 今朝、カフェで言われなかったら気付かなかった。一番に考えないといけないのは、お腹の中の赤ちゃんの事なのに」
真希さんは涙を流しながら私に頭を下げた。隣の彼氏さんも一緒になって。
「私の方こそごめんなさい。あんな人が居る場所で感情的になってしまって。そんな私も自分勝手だったと思います。亮太の事を独り占めしたくて、ごめんなさい」
私も真希さんに向かって頭を下げた。
亮太だけ置いてけぼりのお父さんみたいになっている。
「この子のためにも、私強くなります。彼と結婚して絶対に暖かな幸せな家庭を築きます。親の愛情を知らなくても周りの話をちゃんと聞いて、努力します」
「真希、おまえ」
「亮ちゃん。今までありがとう。我儘な私を嫌な顔しないで、庇ってくれて。亮ちゃんのお陰で学校楽しかったよ」
真希さんの笑顔がとても眩しくて、私は泣いてしまった。母親って強いんだなって思った。
真希さんの手をぎゅっと握り締める彼氏さんを見ていたら、この人ならきっと大丈夫だろうなって思った。
「幸せになれよ」
「うん!」
「真希さんっ、うえっ、よかった、ね。うぅっ」
お前が泣くなよって笑われたけど、亮太の目だって赤かったよ。
こうして私たちは、真希さんの新しい旅立ちを祝った。
◇
「なあ、奏」
「なに?」
「おまえ、俺の事独り占めしたかったの?」
「えっ、ケホッ……何でソコだけ拾うのよっ!」
飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。だって二人が帰ってまったりしてた所だったんだもの。
「俺、すげぇ嬉しかったんだ。奏も俺と同じ気持ちなんだって」
「うん」
亮太が優しく私を抱きしめる。
この人の胸広いなぁ、けっこう厚いなぁ、鍛えてるなぁなんて思いながら、しばらく抱きしめられていた。
「あのさ、もっと雰囲気のある事考えろよ」
「へっ! え? あっ、忘れてた。読んだんだ。私の心」
「だから勝手に聞こえて来るんだって」
「そっか。相性いいんだもんね」
「だな」
やけに素直でびっくりする。でも、こういうのもいいな。私は顔を上げて亮太を見た。すごく優しい目をしていた。
だからかな。勝手に体が動いて、その薄く形のいい唇にキスをした。
チュッ、チュッと軽く二回。
亮太は目を細めて黙ってそれを受けてくれた。
(もうっ! 年下のくせにっ、年下のくせにっ、余裕だな!)
「好き」
飢えてはないけど、そう言わずにはいられなかった。
「亮太、好きだよ。ずっと一緒に居てください」
「っ! おまっ、俺の仕事取るんじゃねえよ!」
「え?」
「今のは聞かなかった事にするから。その役目は俺のだから、わかったな!」
(なんでこの人怒ってるの? 俺の仕事って、役目って、なに?)
「私、何かした?」
「はあ? 無自覚かよっ。質悪りぃよ」
そう言って亮太はうな垂れた。
最近の亮太は喜怒哀楽がしっかりしているね。理由は相変わらずよく分からないけどね。
「ああ!」
「なになにっ」
「やっべ。俺、仕事中だったんだよ! 悪い、今晩は遅くなるわ。先に寝てていいから」
そう言って慌てて家を出ていった。
「は? 嘘でしょ」
シンと静まり返る部屋に私は一人残された。振り返ると、何だか濃い一日だったな。
明日は休み。何をしよう。
亮太が出て行った玄関を見ながら、頬杖をついた。
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