GROUND DREADNOUGHT
COTOKITI
第1話 ゲーツ、推して参る。
1928年、ある戦争が起きた。
ノーラ帝国によるメルカ共和国侵攻から始まった世界規模の戦争、すなわち世界大戦である。
陸海空共に強力な軍を持っていたメルカ共和国は密かに軍事力を蓄えていたノーラ帝国の最新鋭の兵器や戦術などにより僅か数ヶ月で首都、マリエナを失い、降伏した。
かつての美しい花の都は度重なる砲撃と爆撃、ノーラ帝国陸軍が開発した無線誘導式飛行爆弾により瓦礫と死体の山と化していた。
降伏後、現地を訪れた対メルカ戦を指揮していたエドメス・ロント・アリアンタ陸軍司令官は街中に散乱している瓦礫やバラバラに引き裂かれたメルカ人の死体を見てこう言った。
「所詮、平和などただの言葉だけの存在に過ぎない。 我々は永遠にこのような光景を目に焼き付け続ける事になるだろう。」
そして1934年、今度はカデリア王国に侵攻した。
対メルカ戦の時よりも兵器、兵士共に強くなったノーラ帝国軍にとっては王立陸軍など敵ではなかった。
だが、問題は海軍だった。
カデリア王国は海に囲まれた島国で、海軍国であるため、強力な軍艦を多数配備している。
陸軍は海軍と共同でカデリアへの上陸を試みたが、カデリア王立海軍の空母機動部隊による攻撃で上陸部隊と護衛艦を多数失い、作戦は失敗に終わった。
その後、帝国軍はある作戦に出た。
誘導兵器による本土爆撃である。
改良され、精度や速度を強化した無線誘導式飛行爆弾、ハリヴァルドⅡを王国本土に向けて何千発と発射した。
王立空軍はそれらを撃墜しようとしたが、音速を超えた速度で飛行するハリヴァルドⅡには王立空軍の新鋭機であるイメルMk2戦闘機でさえ追いつくことは出来なかった。
本土にはハリヴァルドⅡの雨が降り注ぎ、確実に王国軍に大ダメージを与えていった。
王立海軍もハリヴァルドⅡを対艦仕様に改造したメルビヴァルドによって次々と撃沈された。
王立海軍第2艦隊の提督、ミシェル・ブラックバーンは昼夜問わず音速で飛んでくる謎の空飛ぶ爆弾の恐怖に震え上がったそうだ。
1935年7月24日、大損害を受けた第2艦隊はカデリア王国の降伏する3時間前にミシェルの決断により降伏、数千人の死者を出すことなく戦いは終わった。
だが、ノーラ帝国の優勢はそう長く続くものではなかった。
1936年2月14日、強大な軍事国家、ミエラがノーラ帝国に宣戦を布告した。
この事態を想定していなかった帝国軍上層部は混乱した。
元々ミエラは中立国でありこの戦争にも我関せずといった態度だった。
だが、同盟国であるカデリア王国が降伏した後、国内で対ノーラ戦を望む声が多く上がった。
ミエラの首相であるグライタス・バルハンは悩みに悩んだ末、国民の総意と判断し、ノーラ帝国に宣戦布告した。
1938年、ノーラ帝国はミエラの強大な軍事力により疲弊していった。
ミエラの圧倒的物量はノーラ帝国の最新鋭兵器を次々と打ち破った。
1940年、とうとうミエラ軍が帝国本土にまで迫って来た。
ノーラ帝国の皇帝、エルア・ティスカニアは戦車の設計を行っていたバリアスト社にある戦車を設計させた。
それは、超重戦車を超えた兵器、
"陸上戦艦"だった。
バリアスト社は要望通り陸上戦艦を設計し、試作型を長い月日を掛けて作った。
その大きさと武装はまさに戦艦と呼ぶには相応しいものだった。
主砲は38cmWd36三連装砲。
副砲に15cmGd34二連装砲。
車体後部には9cmGd29二連装砲が2門と2cmAc35四連装機関砲が2門。
それだけでなく車体の両側面に7.5cmGd31が4門ずつと8.65mmAm33二連装機銃が8門ずつ装備されている。
正面装甲は傾斜装甲で350mmあり、側面や後部でも230mmはあり、ミエラ軍どころかこの世界にあるどの対戦車砲でも貫くことは出来ない。
エンジンは帝国海軍のアルダ級戦艦のエンジンを使用していてあのデカさで最高速度は時速60kmも出る。
この試作型を見たエルアはこれ戦艦じゃなくて移動要塞じゃね?と思ったがこれを採用、早速生産に取り掛からせた。
これが、俺達の陸上戦艦、"ゲーツ"の完成までの経緯だ。
時は進み1942年 8月5日
「エンジンよーし!武装よーし! 燃料よーし! 出撃準備完了ぉー!!」
ゲーツの出撃前の点検が終わり、車長であるアレドア・キャメル大佐に整備員が大声で報告した。
ゲーツはホントにバカでかいので主砲塔の上にいられると大声で話さないと聞こえないのだ。
「よし!総員!乗車せよ!!」
「「「了解!!」」」
車体側面の梯子や後部ハッチから外にいた兵士がどんどん中に入っていく。
暫くして全員乗車した事を確認するとアレドアも車体上部のハッチから車内に入った。
その搭乗員の中に1人の男がいた。
その男の名はアーレント・デューク、帝国陸軍所属で階級は上等兵である。
彼はゲーツ内では特に仕事は無い。
砲手も装填手も運転手も無線手も整備員も既に間に合ってるからだ。
だから非常事態以外は他の兵士と仮眠を取るか外で敵がいないか双眼鏡で見てるだけといういてもいなくても大して変わらないような役割である。
搭乗員の配置が終わり、ゲーツが進み出した。
「とうとう出撃か…。」
仮眠室でデュークはポツリと呟いた。
「まぁ、こいつを信じて戦うしかないか。」
仮眠室の壁を左手の中指で叩くとコンッと音が壁の中で反響した。
ゲーツは6本の履帯で大きな履帯の跡を残しながら敵地へと向かった…。
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