八
がしゃーん。
凄まじい音を立てて一台の巨大なトレーラーがパトカーの群れをボウリングのピンよろしく弾き飛ばし、突っこんできた。
「くそ。新手か」
村正はM240で反撃を試みたが、トレーラーがそのまま怯まずに勢いよく突っこんできたため、すばやくBMWの裏へと逃げこんだ。
村正たちのベンツががちゃんとトレーラーに弾き飛ばされ、大木に衝突してくしゃくしゃに潰れてしまった。
トレーラーの運転席に座っていた
村正は彼女の顔に見憶えがあった。
「こりゃまた、とんでもねえやつが出てきたな」
ティキ・セラシエ。
ヘリオスのブラックリスト、その中でも特に危険と言われているA級テロリスト。エリトリアの元ゲリラにして、独裁政権を崩壊させ、長年続いたエチオピアとの戦争を終わらせた救国の英雄。そして彼女たちの戦いを秘密裏に支えていた白金グループ、殊に白金ヒヅルに盲目的な忠誠心を抱く真性の白金ワンワールド主義者。兄の形見でもある狙撃銃ドラグノフで複数の標的を遠方から瞬殺する〈
助手席には眼鏡をかけた長身の男がいたが、村正には見憶えはなかった。おそらくティキ・セラシエの助手か、末端の構成員だろう。
一瞬の隙を突いて敵のBMWが急発進し、ふたたび前方の警官隊目がけて走り出した。
トレーラーも同時に発進した。コンテナの側面にはSAGARAという運送会社のロゴが書かれていた。おそらくそのへんの一般車を奪ってきたのだろう。まったく悪いやつらだ。
隊列を整え直しつつある警官隊が、敵のトレーラーとBMWの逃走を阻止せんと一斉に銃を構え、引金を引いた。
「援護するぞ」
クローディアが
そうこうしているうちに、敵の放ったロケット弾が警官隊に容赦なく襲いかかり、炸裂。ばらばらになった警官たちの手足や臓物が四方八方に飛散した。
そして直後逃げ遅れた警官の群れにトレーラーが突っこみ、無慈悲に
「わあ」
「ぎゃあ」
警官たちの断末魔の声が辺りに響き渡り、まさに地獄絵図という有様だった。
「野郎」
M240で反撃を試みた村正だったが、白金ヒデルの驚異的な反応によって先に弾幕を張られ、手が出せない。
もたもたしているうちに敵のトレーラーとBMWは、切り開かれた文字通りの〈血路〉を突破し、逃走していった。
ベンツを潰された村正たちに、追撃する手段はなかった。
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