女子高生日記

岡玲南

第1話 肉体の美。見られることの快感を覚えてしまったかもしれない

 ニナと仲良くなったのは、中学1年のころだった。入ったばかりの中学の最初のクラスで席が隣だった。そのころから何かと一緒に遊ぶことが多かった。ニナはわたしにとってはべったりの親友というわけではなかった。そういう親友は他にいた。中高一貫の女子校だったけれど、人間関係は全く難しくなく、いろいろな友人関係に囲まれて、楽しい学校生活だった。わたしは恵まれていたのかもしれない。


 高校三年の時だ。ニナが美大志望だということを知った。私たちの学校はけっこうな進学校だったので、多くが医学部だの理学部だの法学部だの、カタギな進学先希望が多い中、彼女のようにクリエイティヴな方向へ進みたい人は珍しかった。

 彼女の進学希望を知ったのは、ニナからあることを頼まれたからだ。「ねえ、ミオ。お願いがあるの。人体デッサンとかクロッキーの練習したいからモデルになってくれない?予備校の人体モデルの練習時間じゃ足りないの」こうニナに言われたわたしは、え、モデルって、じっとして動かないんでしょ?それは辛いよ。わたし落ち着きないから動いちゃうもん。それにじっとみられるのは恥ずかしいよ。というと「だいじょうぶだよ。少しくらい動いたって。わたしの練習台になってもらうだけだから、止まっていられる時間だけでいいよ」と、ニナ。ま、友達のためになるなら、ということで週末、彼女の家に行ってモデルになることを引き受けた。

 3回目に、人体モデルの練習台になった時だった。ニナは「お願いがあるの」とじっとわたしの目を覗き込みながら、「ヌードも描かせてくれる?」と真剣な眼差しで懇願してきた。ええっ?やだよ。ニナの前で裸になるなんて。恥ずかしいじゃん。というと、彼女は「何言ってるのよ、恥ずかしいなんて。合宿とかで何度も一緒に温泉入った仲じゃない」と。確かに。うーん。と、言葉に詰まっていると、ニナは、どきっとすることをいってきた。「ミオのプロポーション、すごく綺麗なんだよ。肉体美。ミオ、水泳部だから本当に綺麗な筋肉がついてる。肩とか背中とかにね。いいでしょ、描かせてよ」と、潤んだ目で懇願されてしまった。

 ニナの潤んだ目を見て、さらにドキッとしてしまった。え、なに、この感覚。どうしよう。理性ではあるまじきと思っていたのだけれど、反面、ニナの前で脱いでしまいたい、裸を見られたい、というような何か欲望というか願望みたいなものが自分の中にあることに気づいた。でも、それは普通に考えたら恥ずかしすぎる。やっぱり無理だ。・・・と頭の中でぐるぐるといろいろ考えていると、もっとびっくりすることをニナが言ってきた。

 「わたしも裸になるからいいでしょ。二人とも裸。温泉に入っているのと一緒。だったら恥ずかしくないでしょ。いいよね?」とたたみかけてきた。


 またまたどきっとしてしまった。というのは、ずっとテニス部だったニナは、わたしとは違うプロポーションなのだけれど、すごく魅力的な肉体の持ち主だ。官能的というか。実はテニスウェア姿の彼女を見る時いつも、密かに彼女を裸にしてみたいと、思い続けてきた。何を隠そう、ニナと裸で抱き合っている妄想まで抱くことも時々あった。その彼女が、自分も脱ぐと言っているのだ。


 ドキドキして、何も言えなくなったわたしにおかまいなく、ニナはするすると服を脱いで、あっというまに全裸になってしまった。そしてわたしに飛びついてきて、ねえ、ミオも脱いでよ、わたしだけ裸なんてずるい、というなりわたしは彼女にベッドに押し倒された。まるで恋人同士が愛し合う前のように、ニナはわたしの服を脱がしにかかった。お互いすっかり全裸になった。そして肌を合わせてなんとなく抱き合ってしまった。え?何この状況?と、ニナと顔を見合わせた時、これまたなんとなく流れで彼女とわたしの唇が重なったような気がした。


 そんな気がしたと感じたのもつかの間、ニナはパッと身を離して「違うって、ミオ。絵を描きたいんだよ。はい、そこに座って」といって、結局、わたしは彼女のためにヌードモデルをする運びとなった。全裸の彼女が全裸をわたしを描いている。イーゼル越しに彼女の肉体を盗み見する。彼女もわたしの裸をじっと見つめる。綺麗だね、かっこいいね、肉体美ね、と、時々声をかけてくれるものの、描いているときは、まるでモノを見るような目でわたしの体の各パーツを観察して描いている。


 もちろんじっと体を見られる経験なんて初めてだ。しばらくすると妙な気分になってきて、体の真ん中あたりに何か重い感じがしてくるようになった。え?なにこれ?もしやニナに裸を見つめられて、わたし興奮しているの?まさか。確かに気持ち的には興奮してしまっていることは自覚している。でも、そんなの観念の話だよね、と、平静を保とうとした。

 30分経った頃、「はいじゃあ、休憩ね」とニナが声をかけてきた。そして立ち上がるなりニナはわたしを、再びベッドに押し倒してきた。お互いの手を背中に回して抱き合った。お互いの太ももを、お互いの体の間に挟むような形で抱き合った。そしてまたお互いの唇が合わさった。今度ははっきりと。しかも深いキスに流れていった。絡み合うような。

 キスをしながら体を動かしたときふとした拍子で、わたしの中心部分が、腿の間に挟んでいるニナの太ももに擦り付けられた。そのとき、わたしは自分が潤ってしまっていることを知った。彼女の太ももを濡らしてしまったのだ。これに気づいたニナも、自分の部分をわたしの太ももに当ててきた。やはり潤っていた。

 こういう状況になることを、もしかしたらニナは最初から望んでいたのだろうか。それでわたしをモデルにといったのだろうか。でも、そんなニナを実はわたしも求めていたのかもしれない。少なくとも肉体的には。


 こうしてヌードモデルをやって、その後二人で1, 2時間抱き合うというのが、私たちのルーティンになった。しばらくすると、わたしは服を脱いでニナのモデルになるためにポーズをとっただけで、潤ってしまうようになったことに気づいた。見られることの快感というやつだろうか。


 私たちのこういう関係は、もちろん誰にも知られていない秘密だ。学校では、あまり話をしないようにしている。でも、そのことが、一層、肉体的に彼女を求める衝動や欲望を高めてしまってもいる。


 高校の残りの1年弱の間、私たちの関係はどうなるのだろう。自分でも知らない欲望や衝動が体の中には秘められているようで、それがとても怖い。

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