怠惰なファミリアは異世界でも依存します

スガヤヒロ

第1話 プロローグ

 ふと、途切れた意識から気を取り直すと状況が一変していた。

夢遊病か? と精神面を案じてみるも未だ夢を見てるような光景に放心する。


 一切の自然物が死滅したかのような退廃的な世界。

 灰色の光源が暗夜から切り取り、その無機質な壁面を露わにしていた――たぶん、それが太陽をおおい隠してるにちがいない。

 ルミネセンスのような光を放つ有機的な機関を所々露出させた構造体。それが目の前に圧倒的な威容で存在していた。構造体が放つ光をたどりながら辺りを見渡してみれば、光の途切れた底知れない暗夜の彼方にも構造体の輪郭を確認できる。


 それは一帯を等間隔で並ぶ巨塔群。見上げれば天の彼方に存在する構造体の空を支えているみたいだ。SF映画のなかに居るような感覚にテンションが上がる。

 これはあれか。エイリアンテクノロジーなのか? キャトらてしまったのなら、この状況も無きにしも非ずか? 未知との遭遇的歩くカラアゲみたいな存在がいるんじゃないかと、ワクワクで心が奪われているのに気づき、はっと意識を引き戻した。


 いやいや、まず、そこじゃないだろ。と内心ツッコミをいれる。

 この状況以前に何があったのか冷静に振り返るのが先決でしょ。数分前の状況を思い出してみる。


 「俺の」と書いたハーゲンダッツを妹に捕食されたショックに、「ニートに人権はないんだな」と不貞腐れながら自室でソシャゲにいそしんでいたのは覚えている。俺の記憶が途切れた一瞬に膨大なストーリーがあったかもしれないが確かめようもないし、こんな状況にあうような「手違いでおぬしを殺しちゃったッ!テヘペロ」系神仏との邂逅もない。

 ニート暦五年の怠惰の罪で、何かしらの神判が下ってしまったのだと考えれば、この状況もありえるっ!? いや、ないだろッ! だとしても、まず六年目のヤツらを粛清してからにしてくれ。むしろ、天罰でもいいから俺を気に掛けてくれッ!


 むにゃむにゃ、唸りながら無機質な構造体を見上げていると、後方で落下物が地面に衝突し、硬質な構造体の上を跳ねる音が反響する。つられて振り返ると結構な高度から落ちたと思われるそれは、光源から遠ざかる様に滑るとやがて止まったようだ。


 正直、びっくりした。平坦な代わり映えのない生活のなかじゃまず聞くことのない音量。

 落下物が続けて落ちてくるんじゃないかとビクビクしながら見上げてみたが、光源の外から落ちてくるそれを見てから回避は無理じゃん、と気づいて先ほどの落下物に意識を戻す。


 よっと、なんだかふらつきながら起き上がり。おぼつかない足取りに首を傾げながら落下物を探しに向かう。

 何かしらの破片を見つけ、たどるように歩いていけば、それを見つける事ができた。


 うん、スマホだな。なぜ、スマホ?


 数歩の距離を詰めて、近くから見下ろすと、まじまじとスマホに見入ってしまった。同時に込みあがる困惑。


 スマホ……でかない? イナイ…イナイ――ばぁッ。


 やっぱ、でかい。見間違いじゃない。現実だ。

 どれぐらいだろう? 体感的に40インチくらいある。アッコさんぐらいしか携帯できなんじゃないか? そう思わせるには十分なでかさだ。

 アッコ専用スマホの存在に意識が囚われたが、いったいここはどこなんだ問題に光明がさすかもしれないアイテムだって事を思い出す。

 落下の衝撃で画面に蜘蛛の巣が張ってしまっているが、つかえるだろうか?

 

 アッコ専用スマホを起こすのもしんどいので、地面に敷いたまま起動ボタンを押すと画面に明かりがともり、ホーム画面が表示される。

 よかった。どうやら使えそうだ。もう一度ボタンを押しパスコード入力画面を表示させる。めいいっぱい腕を伸ばし数字を入力しようとしたが反応しなかった。

 やっぱ、壊れているのかもしれない。ってか、画面の具合的に重症だもん。ホーム画面だけみせてくれただけ頑張ったさ。左上の通信状況をみるに、メッセージアプリの類は使えなかったと思うが。

 しかし、手詰まりになってしまった。期待させといてからのサゲは精神的にくる。

 とりあえず、もはやスマートではないフォンを回り込んで電源を落とす。使いもにならなかったわけだが、この状況で唯一親近感があるし、今後使い道があるかもわからんので、バッテリーを確保しておく。


 …………。


 これは、現実だろうか?

 スマホのでかさに気を取られて気づかなかったのだろう。役に立たなかったスマホが事実をつきるけてくる。

 暗転し鏡面のようになった画面に焦点が合っていくとそれは映る。おそらく俺である物体。


 この容姿を一言で表すなら――小悪魔インプかな?


 ……一瞬停止した思考を再び画面に戻す。

 そこには、目つきのすおぶる悪い幼児がいた。さらに特徴的なのは湾曲した二本の角とするどくとがった耳を備えている。

 俺の意志にしたがい、そいつは表情をトレースしてくる。もう一度言うがそれは俺だからだ。

 

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