第2話
アッコ専用スマホを引きずり光源のそばに寄せて、尻餅をモチをついてから自分の姿を確認する。
なぜか小悪魔に転生した俺は全裸であった。思わず二度見からの三度見までしてしまう。
スマホの長辺が腰位の高さくらいだと考えると、俺の身長はスマホの長辺2個分か? 明確に言葉にしてしまったことで下降気味のテンションがさらに下がる。打たれ弱さは健在なようだ。
変わらないものもあることを喜ぶべきか、成長できないことに悲観すべきか……。
現実から逃げてきたニートである俺でも、コレからは逃げ切れそうにない。
いや、考えようによってはニートである俺が人間扱いされないのは今更なのでは? もっといえば一日の大半を見飽きた六畳間で過ごし、トイレとの往復のみという身体性の欠如した生活の日々。画面越しから情報を貪り食らう精神活動だけが拠り所の生物に、人間の誇りなどあっただろうか?
ズーン、と構造物から重質な振動が腹に響く――そう考えると、人間じゃなくても全然問題ないんじゃん。
自身が小悪魔であることに、何も感じ出ないわけではないが人間であることに未練がない。
親交ある人間関係も家族だけで、お荷物が世界の片隅からフワッといなくなったところで、いい大人がやっと自立した程度の問題だ。心残りはPCのデータを消去できなかったことくらいか。遺書ぐらい残しとけばよかったかな……。まともに生きていなかったのだから、死後のことなど考えもしなかった。
ましてや、小悪魔に生まれ変わるなど想定外。奇々怪々もいい所だ。
そして、喫緊の問題はこれからどうすんのってことか。将来設計などなく、危機感もないから五年間もニートだったわけで、ここにきて「これから」を考え始める状況に皮肉を感じる。
思考の出発点がほしくて、つい辺りをみわす。僅かに点在する光源に照らし出された無機質な構造体の壁、有視界の外は漠然とした暗闇に満たされ重苦しい。
見通しの立たない現状を暗示してるようで、無意識にでそうになった溜め息を飲み込む。
……とはいってもだ。ネットも娯楽もない今、ここで何もせず座して死を待つなど言語道断ッ。人間をやめたことで、やっとのこと歩き出す愚鈍な身の上とて何か行動しなきゃだめだろう。わかっていても出来なかったことなので、我がことながら耳が痛い。
とりあえず、スマホを確保して周辺をうろついてみよう。いまの俺なら不審者に間違えられて事案が発生する心配もない。治安にご熱心なご婦人もいないし、今更だが全裸という紳士の装でも人目をはばからず闊歩できるというもの。
しかし、迷うと怖いので常にスマホを視界内に収められる範囲で調べてみるか。今だ薄暗い場所に放置された状態のアッコ専用スマホを引きずるためにスマホに手を掛けた時にそれはおきた――。
おいおいッ! うそだろッ!?
手を掛けた端から、スマホが蒸発していくッ。黒い粒子となり霧散していくスマホを必死でどうにかしようとするが、わたわたと手足が右往左往するだけでどうにもできない。
だって熱そうだしッ!? ――そうこうしているうちに、スマホが完全に蒸発し消滅してしまった。
俺の前世の遺品が昇天なさった事に、呆然とたたずむばかり。使い道がなかったといえ思い入れはあったので、この状況下で喪失感がヤバい。まぁ、あのスマホが俺のものだったかは確かめようもなかったが。
はぁ……。いやもうッ…はぁ。
落胆から肩が1メートルくらい落ちた気がする。もう地面に付く勢いで落ちてるよ、絶対。
――ブゥゥン。
ん? 目の間にスマホ画面が表示された。
空中に立体映像のようにホーム画面が表示され、勝手にパスコードが入力されるとアプリが並ぶ画面に切り替わった。てか、見覚えのあるアプリの数々、やりなれたゲームアプリも記憶通りに並んでいる。……いったいどういうことだ?
確かめようと手を伸ばす間もなく、ラインに通知が届き、勝手にアプリが起動する。
プログラミングのようなコードが列記されたウィンドウが幾つも開き、膨大な情報が目の前を覆いつくす。次の瞬間にはウィンドウが次々と閉じていき、俺を中心に広がるように白線の輪が出現した。さらに線に重なるように半透明の白球アイコンが現れる。惑星が一つしかない天体軌道図のようで、太陽の位置に俺がいる感じだ。
おそるおそる手をかざしてみても半透明で実在感がなく、白線も白球アイコンも手が透過してしまう。
未知のテクノロジーにさらされ興奮やら困惑で首をひねっていると、灰色で半透明のウィンドウが音もなく現れ、そこには拙い日本語でこう入力されていく。
――ヒケンタイ。座標捕捉。
俺が読み終わると自然とウィンドウが閉じ、訪れる静寂。
ヒケンタイ? 座標捕捉? 一体なんのことで、メッセージを送りつけてくるヤツは誰なんだ?
どことなく不穏な単語の羅列と正体不明な差出人に言いしれる不安を感じる。
深海の底にいるような空気の中、積もることなく漂う埃を無意識に目で追ことでそれに気付いた。
ぽっかりと虚空に巨大なブラックホルーを思わせる穴が開いている。気づいて間もなく底の見えない深淵から、穴の直径と同じぐらいの巨体が落下したてきた!
ばんなそかなッ!?
轟音――隕石の衝突かと錯覚するほどの振動は可聴粋を飛び越え、無音と巻き上げられた埃の中吹き飛ばされる。
幾度となく地面に叩きつけられながら、巨塔の壁面に激突することでとまったようだ。
不思議な事に痛みは襲ってこない。不気味に思いながらも、落下してきたモノに意識が集中する。
舞い上がった粉塵の幕の向こうに、拉げた金属の装甲が見えた。灰色の光に露わになる巨体。原型を僅かに留めただけの金属塊にしか見えなかったそれは、これまで見てきた構造体を想起させる造りをしていた。
内燃機関が露出し、蛍光を発する液体を垂れ流す。いまだ生きてる機関が蠕動し、生物と無機物の境をなくしたような精緻な造形。幾本もの四肢を備えた様な姿は生命を冒涜したよな歪さだった。
パラパラと破片が落ちる音を聞きながら、それを見つめる。
すると視界の端に黒い粒子が立ち昇るのに気づいた。そっと、そちらに振り向く。
左腕と下半身がなくなっていた。
は?
理解不能な事態が立て続けに起きた頭はフリーズ寸前で、これがこの世界で初めての未知との遭遇だった。
怠惰なファミリアは異世界でも依存します スガヤヒロ @sugayahiro1211
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