第48話 演奏しない!

 『4分33秒』(ジョン・ケージ)って曲、ご存知ですか?

 この曲の楽譜、凄いです。


 I:TACET

 II:TACET

 III:TACET


 これだけ。


 TACETというのは『楽章を通して休止』という音楽記号で、主にパート譜に存在します。

 わかりやすいところで、何度か出て来ている組曲『道化師』(カバレフスキー)。第1曲「プロローグ」第2曲「ギャロップ」はシロフォンがありますが、第3曲「行進曲」では出て来ません。この時、第3曲のシロフォンのパート譜は「TACET」とだけ書いてあるのです。第3曲は通して休んでくださいということなんですね。


 さて、話を元に戻します。

 『4分33秒』という曲にはパート指定がありません。一体何の楽器を想定しているのでしょうか。

 大抵はピアノで演奏されます。「演奏される」と言っていいのでしょうか、その辺りもちょっと如月には判断できませんが。


 TACET


 演奏者は、ただ椅子に座って4分33秒経過するのを黙って待つんですね。

 東洋の『禅』から発想しただとか、完全な無音というものはこの世に存在しない(無音の中でも自分の血液の流れる音が聞こえる)とか、なんだかややこしいことを考えての作曲だったようですが、そんな高尚な無音哲学は凡人には理解できません。


 そういうわけでクラシックファンの如月も『4分33秒』の演奏会だけは絶対に行くまいと心に固く誓っているのであります。



 だってクラシックファンなんだもん!(クラシックファンなら行けよ)

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