第7話 今繋

俺は、佐藤財閥の一人息子として生まれた。4大財閥の中で飛び抜けて影響力があり、莫大な資産を持っているのが、佐藤財閥である。

その唯一の跡取りである俺は、全てのことを完璧に無駄なくこなすことを生まれた時から求められた。

だが、よくある、習い事で友達と遊べないとか、とにかく厳しく育てられたとかそういうことは無かった。求められているものの中で良好な交友関係を築くことや自主性というものがあったからである。そのくらい、どんな技能も俺は求められた。


それに対し、俺はそつなくこなして見せた。俺は、俗に言う天才だった。何もしなくても全てのことができた訳では無い。だが、1教えられたら100のことが出来た。

勉強のやり方やスポーツと、全てのことを論理的に考え、実行することが出来た。

なので小さな頃から周りにもてはやされ、父や母も「さすがは自分の子供」と褒めていた。


小学校から中学校の間はマスクもメガネもつけていなかった。自覚している訳では無いが顔が美形らしく、何百人という女の子に告白された。クラスの、いや学年の中心人物で、いつも生徒を統率していた。思えば、秋咲の上位互換のような感じだったと思う。

皆と上手く仲良くしていたし、恋愛を学ぶために1人の女子と付き合ったこともある。

そこでは、しっかり自分が好きになった人と付き合うべきだということを学んだ。


こうしてみると一見充実しているように見えるが、自分にとってほとんどのことがただの学びであり、期待に答えることことに過ぎなかった。俺にとって友達と遊ぶこと、誰かと付き合うこと、それは『娯楽』ではなく『教養』のジャンルだったのだ。


ただし、人助けは違った。俺は人助けが好きだった。他人によく見られたいわけでもなく、良心に従った行動。そして、そこで言われる偽善ではない心からのありがとうが好きだった。だから、いろんなクラスメートの悩みを聞いて解決に励み、人助けをした。

けれども、周りの期待がふくれあがることによって、人助けを、良心ではなく、他人の期待に従ってするようになっていった。


こうして、色々な期待に応えていくうちに、自由な時間や、自分が本当にしたいことに費やす時間がどんどんなくなっていった。


だから、心に闇を抱えるようになった。


沢山の事、心理学も含め学んでいた俺は、この闇が大きくなっていくといつか暴走することを知っていた。

けど、天才であった俺でさえこの闇の増大の止め方は知らなかった。


そして、最悪の事態が起こった。


中学3年の最初、新しいクラスで俺を気に入らないと思っていたらしい男が1人でこっちに来て言った。

「金のあるやつは楽でいいよな。金があるからってだけで友達も増えるしモテるし。お前みたいな努力しないやつなんか消えろ。」

こういう過激なことを直接言ってくる輩は少なくなかった。陰口を言われても全く相手にされないから直接言いに来るんだろう。

だが面と向かって言われても、俺は巧みな会話術と交流によって悪口を上手くかわして仲良くなることが出来た。


その時のことは全く覚えていない。気づくと、目の前に俺を罵った男が倒れていた。

俺はこの状況の意味がわからなかった。だから聞いた。「これは誰がやったんだ。」と。

誰も答えてはくれなかった。

けど、怯え切ったクラスメート達の目を見て悟った。闇を止められなかったんだ。と。

今まで様々な場面で助けていたクラスメートさえも恐怖の目でこちらを見ていた。


その日から学校は行かなかった。そして、これからは誰にも関わらず、自由に生きていこう。と決め、顔を隠すように、目立たないようにした。高校も同じ中学の人が1人も通っていない遠く離れた私立に通うことにした。


それが俺の『隠し事』でありマスクとメガネをいつも付けて、運動も勉強も平均以下の今の俺の成り立ちである。

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