第6話 完壊
サーブはこちらからだ。ボールをつきながら相手コートを見る。
そこにはろくに構えもしない、佐藤探の姿があった。これは勝った。きっとあいつはテニスというものを知らない、甘く見ている。
私はラインギリギリにサーブを打った。全く構えていない相手ならこのボールは取れるはずがないのだ────が、打った先にはラケットを構えている佐藤探の姿があった。
なんでもう構えてるの?
速すぎる移動に動揺しながらも急いで構えなおして返球を待つ。そしてボールが佐藤探のラケットに当たった瞬間、ボールが消えた。
え?どこ?
私は探した。すると後ろで、ボールがコートで跳ねてネットに当たっていた。
ガッシャーーーーーーンと金属製のネットにボールが当たった音が鳴り響く。
混乱して動けなかった。
速すぎる。何もかもが速すぎる。
まず、自分がボールを打った瞬間に佐藤探はボールの行く方向にドンピシャに立っていた。
私がボールを打った瞬間のラケットの向きを見てどこに来るかを瞬時に把握して素早く移動した。そうとしか考えられなかった。けれどそんなの不可能である。
そして、あのスイングスピード。佐藤探が打った瞬間とてつもない速さ、見えない速さでボールが返ってきた。
このワンプレイでとんでもない差を見せつけられた。凄いの一言では片付けられないと思った。
気を引き締めようとするが、どこかで諦めている自分もいた。絶対に負けられないんだ。そう思いこんで、また試合に臨んだ。
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そして決着が着いた。そう時間はかからなかった。私は負けた。ぼろ負けだった。1点も許してくれなかった。
どんな場所に打ち込んでも、そこには佐藤探が綺麗なフォームで打ち返してくるビジョンが見えた。
「はぁ....はぁ......」
こんなにも息切れしている中、悠然とたっている佐藤探を、いや、探君を見上げる。その姿は輝いていて眩しかった。
そして私はこう思った。
お父さんの言う天才はこの人だ。と。
今日起きた全ての出来事は、彼のことを天才だと、自分よりも上の存在だと認識させるのに十分だった。
それと同時に、この人には追いつけない。とも思った。どれだけ努力しても追いつけない。と。
正直、泣きそうだった。今までやってきたことが無駄だったような気がして悲しかった。
すると、探君がこちらに近づいてきた。
今、この天才に近づかれて貶されると、自分は壊れてしまうかもしれない。そう思った。なので、咄嗟に、
「やめて.....近づかないで.....。」
と弱々しくも声が出た。
けれども探君は足を止めず、目の前まで来て
「今までよく頑張ったな。」
と言って頭を撫でてくれた。
私は、さっきとは打って変わった態度に驚きながらも、撫でてくれるその手がなんだか暖かくて、生まれて初めて誰かに自分の努力を認められた気がして涙が止まらなくなった。
探君の前なら泣いてもいいと初めて思えた。
そして、しばらく探君に体を預け、抱きしめるような形で泣き続けた。
涙が収まった頃、探君を見ると微笑みかけてくれた。自然と顔が赤くなるのがわかる。
「あ、ありがとう.....」
俯いて小声で言った。
「どういたしまして。」
優しい音色が聞こえた。
やばい。ドキドキが止まらない。もしかして私....探君に....まぁこんなことされたらしょうがないか。そう思いながらずっと思っていたことを言う。
「さっきは教えてくれなかったけど、探君はどうしてメガネやマスクをつけて顔を隠したり、勉強や運動で本気を出さないの?」
探君は困った顔をした。
「言わなきゃダメか?」
「うん。それだけは聞きたい。」
さっきは断られたけど、どうしても聞きたいのだ。それに、今の優しい探君ならおしえてくれるような気がした。
すると探君は諦めたように口を開いた。
「俺は─────。」
そのとき、ある人物が探を見ていたが探は、それを知る由もなく、自分の過去について話していった。
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こんにちは。嵩いの李です。皆さん、いつも読んでくださって、本当にありがとうございます。初投稿でこんなに伸びてすごく驚いていますし、嬉しいです。感謝してもしきれません。
また、レビューやいいね、コメントして下さりますと、とても喜びます。質問等もお待ちしております。
毎日投稿を心がけておりますが、嵩いの李は高校三年生。受験生なので、投稿できない日もあります。何卒、御理解お願いします。
これからも『ラブコメ主人公は爪隠す』をよろしくお願いします。
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