チートだろこれ。「いえ、センスです。」

時は経ち赤ん坊─「ラーシィ」は3歳まで成長し、言葉も話せるようになっていた。

場所はラーシィの部屋、貴族だけあって部屋の物はなかなかに豪勢だった。


「まま~」

「あら、ラーシィなぁに~?」


年相応の話し方はその容姿と相まって非常に可愛らしいものだ。

ラーシィは非常に整った顔立ちで青髪に青眼。髪は少々くせ毛である。いまはまだ幼少期なので可愛らしいものではあるがいずれは美青年へとなるだろう。


「ままがおせんたくのときままのおててからでてたのなに~?」

「あれはね『魔法』っていうのよ」

「まほう?」

「そう、魔法よ。ママがお洗濯に使ってる魔法は水魔法と風魔法っていうの。」

「ぼくもつかってみたい!」


魔法は5歳になってからでないと使えないというのがこの世界の常識だ。

一説によると、5歳になると神から人の均衡を保つため、き心を持つ者にもしき心を持つ者にも平等に力を与えると言われている。

そして一説によると才能を持つに値する者には神が事前に力を与えているとも言われている。


「あら、ラーシィに魔法使えるかしら?」

「つかうー!でもわからなーい!」

「うふふ、そうよね。魔法は体にあるあったかいのを使って火を出したり水を出したりするのよ?」

「あったかいのー?」


セレシィは極力ラーシィに伝わるように表現してみせた。

だが母セレシィは少し意地悪をしてみたのだ。


普通魔法を実体化させるには対価として魔力、そしてイメージを強めるため、『詠唱』をしなければならない。

だが熟練の者であればそのイメージが脳裏焼き付いているため『詠唱短縮』が可能となる。詠唱短縮は「《初級》ファイア」や「《初級》ウォーター」など魔法の名前を言うだけで実体化が可能になる。

そして世界にはその詠唱短縮をも超える『無詠唱』なるものを可能とする者がいる。

その無詠唱をラーシィにさせようと意地悪していたのだ。


そんな無謀なことに挑戦してうんうん唸っているラーシィを見てセレシィはクスクス笑っている...なかなかに性格が悪い...


「ごめんなさ...」


セレシィがストップをかけようとしたそのとき、ラーシィの手から水の球が顕れたのだ...


「.........」


それを見てセレシィは思わず無言になる...それもそのはずセレシィが2年という歳月をかけて使えるようになったものをラーシィはたった2、3分で可能としたのだ。


「やったよ!まま!つかえたよ!」

「.........」

「まま?」

「ハッ!いけない...つい唖然としてしまったわ...それにしてもラーシィ!あなたは飛び抜けたセンスの持ち主よ!」

「なぁに?それ?」

「さっきママが教えたやり方は世界でほんの少しの人ができるものよ。それをすぐにできるようになるなんて...」


セレシィの頭はいま整理がつかず混乱状態にある。だが次のラーシィ一言でそんなことはどうでも良くなった。


「ぼくすごい?」

「ええ、すごいわ」

「やった!ぼくすごい!ぼくすごい!」

「うふふ」


そう難しく考えなくていい、今は自分の可愛い息子の大いなる一歩目を喜ぶべきだと思ったのだ。


それからはセレシィに教えてもらいながら初級魔法を習得した。「《初級》ウォーター」や「《初級》ウィンド」は実際に何回も見ているからかすぐに習得できた。だがその他の「《初級》ファイア」や「《初級》ライト」、「《初級》ブラック」などは少々苦戦した。


「まま~ふぁいあわからな~い?」

「「《初級》ファイア」はね?こういうものよ?」

「あ!わかった!」


先ほど「苦戦した」と言ったがこの程度の会話で習得したのだ...やはり飛び抜けたセンスを持っているのがわかる。

習得したあと夕飯までは時間があったので反復練習をしていた。

ここでまたもや飛び抜けたセンス。一番最初に使えるようになった「《初級》ウォーター」を複数同時に詠唱したのだ。


「あら、ラーシィは『複数詠唱』もできるようになったのね!」

「ふくすうえいしょう?」

「魔法を同時に使うことよ」

「ぼくすごい?」

「ええすごいわ」

「やったー!」

「うふふ」


褒めてほしいからか「ぼくすごい?」と聞く姿は非常に可愛らしい。


そうこうしているともう日は沈みかけていた。


「ママはご飯を作ってくるわね」

「はーい!まだまほうであそんでてもいい?」

「ええ、でも危ないことはしちゃダメよ?わかった?」

「わかったー!」


だがその後、セレシィがご飯に呼びに来たときにはラーシィが倒れていた...






これは体への負荷が一度にのし掛かったため...






セレシィが一度体調について聞いたときに素直に止めていればこうはならなっかたのである...






ラーシィは...






寝ていたのだ。


セレシィは「やっと魔力切れね」とすぐに分かった。

魔力切れは魔術師を目指すなら必要なことである。なぜなら魔力を空にすることで魔力量が増えてゆくからである。

にしても初級魔法とはいえ、3歳児でこれほど詠唱してからでないと魔力切れにならないなど将来は龍並の魔力量になるのではないかと疑わざるをえない。

もしそうなれば歴代の偉人を凌駕するものである。ラーシィはこの世界を変える者になるかもしれない...


┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅


時は進み場面は夕食へと移る。

そこには一家団欒で楽しそうに食事をする姿が見える。

この世界では「食事の際は話さず静かに食べる」というのがマナーなのだが、この一家は「飯を食うなら楽しく食え!」というルールなのだ。というのも冒険者は己の体、技術を使うのが仕事。常日頃から動いている彼らからすると静かに食べるなどもってのほか。

それが身に染み付いているから冒険者をやめた今でもわいわいと食事をしている。

だが父ラークは仕事に追われ共に食事を摂れないでいる。貴族というのは大変だ。


ここでセレシィから重大な発表があるという。


「そういえばね?ラーシィが凄いのよ!」

「どういうこと?母さん?」

「どういうこと?」


ここで長男の「フェン」と次男の「ラン」が疑問を呈す。

それもそのはず、自分たちは7歳、6歳なので何かしらやることがあるためそれを成し遂げ、讃えられることはあれど未熟な3歳がなにか事を成し遂げるなど到底無理だと考えているはず。

だがその考えは次のセレシィの一言で砕け散る。


「ラーシィが魔法を使ったのよ!しかも無詠唱で!」


まあ実際、ラーシィが例外すぎるため砕け散って当たり前なのだが...

とにかくその一言で皆が動揺したのは当たり前だろう。普通あり得ないことを言われたのだから。

ここで長男、次男揃って聞き返す。


「「それ冗談だよね?」」

「いいえほんとよ?」

「「冗談だよね?」」

「ほんとよ?そんなに嘘だと思うならラーシィを見なさい?」


息ピッタリなハモり兄弟が視線を向けた先には嬉々として魔法を使っている弟の姿が...


ここでハモり兄弟は考えることをやめた。「ラーシィにはセンスがあるんだ。うん、そうだ。」と悟りを開いたかのようになった。

ちなみにこの一家は、武も学も長男、次男揃って優秀、両親はSランク冒険者、三男はセンスの塊。下手に手を出せばそいつは両親に即刻捕縛され、長男、次男により拷問を考えられそれを三男が実行するというそれぞれの長所を活かした死の循環に飲み込まれるだろう...考えるだけで恐ろしい...


まあそんなこんなで驚き溢れる夕食は終わった。


┅┅┅┅┅┅┅┅┅┅


 またもや時は進み場面は夫婦がゆっくりと過ごしている所へと移る。

そこには仕事から解放され食事をとり終わり、ゆっくりと過ごしている父ラークと母セレシィの姿が。

だがそんなゆっくりと落ち着いた雰囲気に刺激的なことが加わる。


「あなたにとっても驚くような知らせがあるわよ?」

「なあに、俺はそんなちっぽけなことじゃ驚かないぜ?」

「うふふこれを聞いたら流石のあなたもびっくりするわよ?」

「どんなことだい?言ってみな。驚かないから」

「そうね、ラーシィが魔法を使ったのよ」


もちろんラークは飲んでいたコーヒーを盛大に吹き出した。


「あらあなた、驚かないって言ってたじゃない」

「驚かないもなにもあるかよ!まだ3歳の子が魔法を使ったなんて偉人とかでしか聞かない話だぜ?」

「ならラーシィは歴代の偉人に並ぶわね」

「いやぁまさか自分の息子が歴代の偉人に並ぶとは...」

「もう、あなたったら気が早いわよ」

「そうか?すぐすげえ事するんじゃねえかなぁ」

「なら私たちも鼻が高いわね」

「そうだな」

「うふふ」


最後は夫婦のもつお気楽さでほんわかとしている。だがこの夫婦の息子がそんな期待通りに道を進むとは思えるだろうか?


これから更なる波乱が巻き起こることをまだ彼らは知らない...



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