俺、異世界に転移する代わりにゾンビになっていた。
砂鳥 二彦
俺、異世界に転移する代わりにゾンビになっていた。
俺、つまらない人生に軽く絶望している。
学校で美少女に突然部活づくりに誘われないし、異世界に転移して無敵の能力に目覚めて無双してハーレムを作れるわけでもない。
成績も中の下。部活にも入っていないし、趣味もネットの提示版を荒らす程度。彼女もいなければ、友達もいない。そんなダメダメな学生生活だ。
「あー、軽く世界が滅亡しかけないかな~」
そんなことを考えていると、いつも巡回しているネットニュースのまとめサイトで奇妙なタイトルを見かける。
なんと、近くの街でゾンビが大量発生したというのだ。
最初は釣りかやらせかと思ったが、別のサイトでも異なる情報ソースからゾンビの発生を報告している。そして某動画配信サイトでは街中をうろついているというゾンビの姿も確認できた。
ゾンビに追われているという実況系サイトも現れ、世間はゾンビパニックにおののいていた。
これはチャンスだ。俺はゾンビ映画やゾンビゲームで死亡フラグの回避方法や長期間生き延びるためのサバイバル技術を学んでいる。このゾンビアポカリプスを生き延びるには今すぐ準備しなければならない。
俺は意気揚々と自室から出て、自宅からホームセンターに向かうことにした。何故ならば、ホームセンターには長期間保存できる食料と武器になりそうな工具が置いてあるからだ。
俺はホームセンターへの道を急ぐ。赤信号など待ってはいられない。この無法地帯の世紀末になる中、そんなちっぽけなルールを守っている暇などない。
そうして急いでいた俺は、当然のごとく猛スピードで直進していたトラックに轢かれた。
即死、かと思ったが意識の混濁の後、俺は目覚めた。
起きてみると、俺は直立していた。どうしてか全身に軽い倦怠感があり、動きづらさを感じる。
身体を確認してみれば、その理由は分かった。俺の身体は薄黒い血管を浮かび上がらせ、人間らしき歯形に肉がちぎられ、腐敗している部分もある。そして何よりも臭いのである。
俺はどうやらゾンビになってしまったようだ。
俺は落胆した。これから生き延びるために自宅に備品を集めた後、ゾンビパニックに怯える美少女たちを迎えてハーレムを作る計画だったのに。こんなところで感染してゾンビになってしまうなんて最悪だ。
だが不思議だ。ゾンビなのに俺には意識がある。自分で手足を動かせるし、物事を考えることもできる。
まさか、俺は他の人と違って意識があるゾンビになってしまったのか。
確認のために周囲を見回すと、そこには俺以外のゾンビがいた。トロくさそうに、腕も振らずにとぼとぼと歩いている。
試しに声を掛けてみる。と言っても、俺の声帯は壊れてしまったようだ。ア゛ーア゛ーとしか喋れない。それでも他のゾンビは声に反応するでもなく、知性がないことは確かなようだ。
どうやら俺が特別なゾンビであることは間違いない。
それから俺は考えた。どうせ異世界転生してスキルで無双して現在知識で俺スゲーして美少女ハーレムが作れないなら、ゾンビライフを満喫してやろう。
まずはゾンビとしての基本性能を試す必要がある。
俺の身体に歯形がついていることから、ゾンビ化はブードゥのようなまじないではなく、感染するもののようだ。
更に身体を動かして分かったのだが、俺は他のゾンビよりも早く動けるようだ。
そのほかにも、ゾンビは鋭い嗅覚で体臭を嗅ぎ分けることができ。力も自販機を簡単に押し倒すほどであることが分かった。これは使える。
俺はゾンビとしてどれだけ優秀かを確認するために生存者を探した。鋭い嗅覚を使い、ゾンビと人間を判別し、ついに一人の生存者をみつけた。
そいつは男だった。襲うなら女性の方が容易だろうし、興奮もするだろうが男ではそうもならない。
しかし、最初の相手なら誰でもいい。
俺はゾンビらしく唸り声をあげて、そいつに襲い掛かった。そいつは恐ろしさに奇声をあげ、足が動かないようだった。なので噛みつくのに難儀することはなかった。
噛みつくことに多少の罪悪感と生肉を食むことへの嫌悪感がありはしたものの、俺はそいつを感染させることに成功した。
ゾンビ化は意外に早く噛みついてから二十秒後、そいつはゾンビとなった。
その後、色々試行錯誤していると分かったことがあった。俺は意識的にゾンビ達に動くよう指示すると、ゾンビを動かせることだ。
そのためゾンビの群れを作ることができるし、ゾンビの群れを引き連れて歩くことができる。このゾンビ達の群れの単位を俺はホードと呼ぶことにした。
俺はこの特殊スキルを利用して、成り上がり。もといゾンビ感染のパンデミックを企むことにした。
手始めに、俺は他の生存者達を見つけるためビルの屋上へと上がった。馬鹿と煙はなんとやら、ではない。鋭い嗅覚を利用するほか、視覚を駆使して生存者を探すためだ。
生存者達は見つけた。彼らはゾンビの多い大通りを避けて、狭い路地を移動中だった。中には屈強な男性以外にも見目麗しい美女や可憐な美少女がいた。願ったり叶ったりだ。
次は追いかけ方だ。
普通のゾンビなら見つけた途端、一目散に追いかけるだろう。だが俺は違う。すぐに追いかけるのではなく、先回りして幾つかのホードを事前に作っておく。その後、俺は反対側に回って自分が引き連れるホードを集めた。
あとは追いかけるだけだ。俺は生存者達に襲い掛かる。ただ追いかけるのではなく、わざと隙を作り配置しておいたホードに追い詰めるのだ。
作戦は面白いように成功した。生存者達は逃げ道を失くし、ホードの中でバットを振り回したりスコップを刺したりして抵抗していたものの、すぐにゾンビになってしまった。
こうして俺は美女と美少女、ついでに屈強な男も感染させることに成功した。
美女と美少女を捕まえたのだ。俺は美少女ハーレムならぬ、ゾンビハーレムを作ることを考えた。
意識を飛ばし、俺は美女と美少女について来るように指示を出す。
けれども、上手くいかない。何故だか、途中まで後を追いかけてきたと思えば他に注意を逸らすと離れてしまう。
仕方なく、俺はペットショップから首輪とリードを調達すると美女と美少女にそれを付けて引っ張ることにした。
これからはリード無しでも俺の後ろをついて歩けるように調教しなければならない。そう思うと、心の中のピーが勃起する。
なお、実際の身体は死んでしまっているようで股間の息子が起き上がってくることはなかった。
その次に目標としたのは生存者キャンプだ。キャンプはそこら辺の材料で造った高い壁があり、見張りもおり、何より銃を武装していた。
これは中々手ごわい。そこで俺は離れた場所で練習することにした。
まず高い壁の対策だ。俺は特殊スキルを使い、ゾンビ達に壁へ殺到するように仕向けた。映画やゲームで見たが、こうすることでゾンビ組体操なるものを作り、その上をゾンビ達が高い壁を越えていくことができるのだ。
見張りの対策はすぐに決まった。夜間、静かに人目のない場所を選んで壁を越えるのだ。
そうして奇襲してやれば、銃を武装していても関係ない。単なる数の勝負だ。
俺は諸々の準備を終えると、三十人近くの生存者キャンプに向けて、百人単位のホードを率いて襲撃した。
襲撃はあっさり成功し、俺は同じ方法で生存者キャンプを襲い。ホードも百人から千人、千人から万単位に広がった。
それに伴って俺の美少女ハーレムも充実した。相変わらずリードを引っ張らないとついてこないが、ツンデレ系おっとり系高飛車系メカクレ系など考えられる美少女はほとんど揃えた。まさに美少女の博物館だ。
俺はまさに世界制覇をできるスーパーゾンビへと成りあがっていた。
「ガハハハ、俺スゲーして美少女をはべらして、まさに異世界転生だな。いや異世界転移かな。まあ、いいか」
俺がそう心の中で得意げにしていると、どうも油断していたらしい。
俺は生存者が運転するトラックに、運悪く轢かれてしまった。
だが俺はまた意識を取り戻した。
どうやら今度は異世界に転移してしまったようだ。ただし、ゾンビのまま。
俺、異世界に転移する代わりにゾンビになっていた。 砂鳥 二彦 @futadori
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