バレンタインデーSS

この話は過去の話です。

編集再投稿です。ガクリ((;´д`)

――――――――――――――――――――


「うぇぇぇ苦い。やっぱりやめない?春咲君」


「何で?」


「わかるでしょ。これで十回目だよ。なのに一向に上手く作れる気配無いし、だから」


チョコを上手く作れなくて弱気な発言をする低い身長で童顔の可愛らしい女の子。名前は小乃枝芽衣このえめいさん。

僕と同じ鈴丘中学二年生。


そして、今、小乃枝さんと何をしているかというと校内の家庭科室を借りて、手作りチョコの特訓です。


何故かと聞かれると小乃枝の依頼にされたから。

内容は

『初めまして。小乃枝芽衣といいます。春咲君と同じ二年生です。

バレンタインデーに好きな人にチョコを渡した後に告白するつもりなんだけど、実はチョコが美味しく作れなくて困ってるの。友達に協力してもらって特訓したんだけど、ダメで。友達からは市販の買って渡そって言われたんだけど、私はどうしても手作りを渡したいの。それで春咲君って家庭科の調理実習で先生に見学を宣言させるほどに料理上手だって聞きました。


つまりチョコ作りを手伝ってください』


明日は2月14日。所謂バレンタインデー。

実はバレンタインデーに女の子が男の子にチョコを上げるのは日本だけで……長くなりそうなので省きます。


とにかく、今回は助言ではなく小乃枝さんが明日好きな人にチョコを渡す為のチョコを作りを教えているわけです。


が、完成するチョコは苦すぎたり、苦くて舌触りが悪かったり、焦げたりと色々、見て教えながらやっているのに何故か失敗します。

基本はできてます。湯煎温度40度をキープしています。

湯気が(入ると舌触りが悪くなるので)入らないように気を付けてもいます。

なのに十回もの失敗。それが苦となって、小乃枝さんの心が諦めの方向に傾いてしまっています。


小乃枝さんは消極的なので気休めの励ましは無意味。だから、


「……小乃枝さんの思いってその程度だったの?」


敢えて焚き付けることにしました。


「そんなことない!!本気!!」


「そっか、じゃあ成功するよ」


「……でも」


また失敗する。それが根底から離れないようで焚き付けれましたけど直ぐに鎮火しました。

精神的な問題…うん、精神的。


「小乃枝さん。料理ってね、こうやって努力して経験積んでいったりするのは確かだよ。でも、気持ちが料理の味を変えることもある」


よく分からないようで首を傾げる小乃枝さんに「まだ続きがあるんだ」と言って続けました。


「イライラしている時に作ると何処か尖った味になって、気落ちしてる時はしつこい味になる。つまりね、好きな人に食べてもらいたいって思ったチョコは不思議と上手くなるんだよ」


「本当に?春咲君はあるの?」


「あるよ」


依頼失敗して気落ちしたままの日があって、その日は丁度僕が料理当番でした。

そのままの気持ちで料理をした時、いつも通りの味付けをした筈なのに味が濃い、しつこく残ると家族全員に言われました。

他にも色々ありますけど。


「……分かった。もう一度、ううん。美味しく作れるまで頑張るよ」


「じゃあ、やろう」


「うん!」


それから何度か繰り返して、何とか借りれる時間ギリギリで満足のいくチョコが完成して、渡す日となりました。


そして、翌朝。

小乃枝さんの好きな人は陸上部らしくて毎朝学校で朝練をしているそうです。

因みに今回相手は知りません。内容はチョコ作りを手伝うことだったので。


僕も陸上部で普段は自宅の住宅街周辺をはしるんですけど、気になって来てしまいました。

なので見守る形で物陰に隠れました。覗き見るとそこには小乃枝さんと直ぐ向かいには好きな相手がいました。

気になるのに背を向けていて見えません。

あ、小乃枝さんが話しかけ始めました。


「ごめんなさい。練習の邪魔しちゃって」


「気にしないでいいよ。それで、その俺に何か用があるんだよね?」


「うん……凉衣君!チョコは好きですか!?」


相手は幼なじみの樹でした。納得です。

同時に意外にも感じました。

大抵の女の子は靴箱やら机の中とテンプレートなので。それにこうして真正面から樹に渡す女の子は初めてだったと思います。

樹も多分驚いてます。隠れてて見えませんけど。

凄いですよね。

でも、この後の告白の結果が僕には分かってしまいました。


「これバレンタインチョコです。受け取ってください」


「あ、ありがとう…」


樹はチョコを手渡されると思ってなくて驚いてます。因みに雪を除くと初めての手渡しだったり。


「あ、あの…凉衣、君……私は凉衣君が好きです。そして、そのチョコは本命チョコです。つまり、その、私は凉衣君が好きです。つ、つつ、付き合ってください!」


「……ごめん」


うん、知ってる。


樹は女の子が苦手です。理由は容姿がカッコいいので女の子が異様に迫ってきて、それに恐怖を覚えたからです。


「い、今は部活に、専念したいから付き合う事は、出来ない」


おぉ!樹が頑張ってフォローしてる。

でも顔が青ざめるのはどうにかしようよ。


「………そうですか。分かりました。……それなら、私、陸上部の大会で凉衣君を応援します」


「…ありがとう。凄い嬉しい」


「で、では、朝練頑張ってください」


小乃枝さんは樹の方を通り過ぎて校舎の方へ消えていきました。


「おはよう色男。朝から本命チョコ渡されて女の子振った感想はどう?」


「蓮地。…お前が一枚噛んでたのか」


「僕はチョコ作りを手伝っただけだよ」


「そっか……ちょっと女子嫌いに対して後く思った、かな」


樹は小乃枝さんが去っていった校舎方面を見つめながら、そう言いました。


「小乃枝さん言ってたよ。皆がいない時間に朝練して、放課後に汗だくにして頑張る彼が素敵だって」


僕はそのあとの言葉で相手が樹だと気づくべきでした。


『彼、学校で人気で、女の子に迫られてさけるんですけど、その度に顔色を窺うような態度をとるんです――』


「彼女、泣いてたか?」


「泣いてたよ」


樹の方を通りすぎて立ち去ったから目に涙が溜まっていたのが僕は見た。

もしかしたら、小乃枝さんは樹の女子への恐怖心を取り除けたかも知れません。

そう思うと、後悔が生まれます。

僕は樹が好きという人を手伝えない。樹が女の子が怖いのを知っているからです。

それだけじゃないですけど、大抵が樹の容姿から好きになってそれ止まり。

だから手伝えない、手伝わないって方が正しいですかね。

でも、小乃枝さんは樹の努力する所、女の子に対して負い目を持っていることを知っていながら今日告白しようとしたんです。

だから、この時ばかりは小乃枝さんをもっと手伝えれば良かったって思いました。


「樹」


「ん?」


「今度また、樹の女の子に対しての対応に少しでも気付きながらも諦めず本気で好きな子に依頼されたら付き合ってもらうから」


皆が皆、迫って来る訳じゃない。迷惑だと思って相手の事を気付ける人もいるんだから。

怖いからってそんな人まで拒否されるのはやっぱり可哀想に思ってしまいます。

それに小乃枝さんがチョコを作ってるとき幸せそうな顔でした。

彼女がどれだけ真剣に樹を想っていたのかそれだけで分かりました。


「……ありがとうな、蓮地。じゃあそんときは俺も…頑張ってみる、かな」


「うん」


「あとお前もな」


「え?」


「恋愛に興味の無いお前に一緒に向き合ってくれる人が現れたら、俺はその人とお前を助けてやる」


「……頑張ってみるよ」



小乃枝さんの告白の後、学校が始まると、校舎内はバレンタイン一色に染まり、先生感謝を込めた義理チョコや友チョコ、そして、本命チョコを渡す生徒が沢山いました。


「蓮、バレンタインチョコだよ」


「いつもどうもありがとうございます」


受け取ったチョコは縦長の長方形の箱に入っていました。


「いえいえ、こちらこそって何よこのコント!」


「何?またバレンタインデー恒例の夫婦漫才?」


また樹は小学4年生くらいから毎年の事だけど、夫婦漫才とか夫婦喧嘩って…仕方ないですよね。


「な!?樹!また」


「そうだよ。雪迷惑がってるんだから。そろそろ止めたら?」


「……蓮も蓮だよね。まあ私は良いんだけど、もう諦めてるし」


「?何が?」


「私の気持ち」


気になるけど、聞いてはいけないような気がしたのでそのあとの事は聞かないことにしました。

そのあとチャイムがなって、授業を受けて、昼食を迎えて、残りの授業を終えて放課後になりました。


今日は母さんは友達と遊びに行っていて帰りが遅くなりも父さんも帰ってこないので部活を休ませてもらって晩御飯の買い出しに向かいました。

今日は生姜焼きの予定なので豚肉に、キャベツはまだ残ってるのですが一玉98円だったので予備で買いました。


「そこのお兄さん」


「僕ですか?」


買い物を終えて帰宅していると何ともダンディーなおじいさんが声をかけてきました。


「はい。今日はバレンタインデーですので、どうぞこれを」


渡された透明な小袋の中にはチョコを渡されました。


「どうも」


「…おや?これが最後だったようです。私はチョコを取りに行かなければならいのでこれで失礼致します」


配布チョコ。

その、チョコを食べると滅茶苦茶美味しかったです。


◇◇◇


「お嬢様、上手く春咲蓮地様にチョコを渡すことに成功しました」


「ありがとう蒿田。これでわたくしのイベントは終了ですね。来年はもっと楽しくなりそうです」


◇◇◇


家に帰ると物凄い光景を目にしました。

その光景とは内玄関に座って、全身をチョコまみれにする鈴奈がいました。


「晩御飯は生姜焼きだよ」


「それより、お兄ちゃんは私を食・べ・て」


「飯抜き」


「そんな!?」


◇◇◇


「見つかったな、蓮地。でも雪も力になり始めたからなぁ、どうしよっかなぁ」

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