第22話 ご機嫌よろしな彼女は名前を呼ぶ

朝食を終えた春咲家(父さん抜き)。

母さんと手分けして食器を洗い、鈴は洗濯機を回しにと学校がないから出来ることをやれました。

その後は特に何も予定も無くて、鈴は慣れない早朝起床で就寝中。

その間に洗濯が終わりベランダに干していき

家で何かやろうと思ったんですけど、休みの日、何をやってたのか分からなくなりました。

掃除を手伝おうとしましたけど二人が寝ているので母さんも寝ることに。僕も寝ようと思い階段を上がります。


ピンポーン


玄関の扉を開けると、立っていたのはふんわりとした黒のストレートロングヘアーの美少女。

フリルのあしらった白のブラウスと丈の短めの少し大胆さのある黒のスカートを合わせとても可愛い私服姿で訪れたその美少女は葉上江菜。


他人の恋愛には興味を持てるのに恋愛感情が無くて自分の恋愛には興味を持てない。

それを知って、受け入れて共に恋愛を出来るように向き合ってくれている今、交際中のいきなりプロポーズをした僕の彼女です。


「おはようございます、蓮地さん」


「江菜さん、おはようございます。上がりますか?」


「いえ、大丈夫です。蓮地さん蓮地さん」


「はい」


「呼んでみただけです」


今日はとてもテンションが高い江菜さん。

朝家で何か良いことでもあったのでしょうか。


「何か良いことでもありました?」


実際に聞いてみました。


「はい!あると言えばありました」


「良かったですね」


「むぅ…あったのは昨日なんですよ」


昨日?花見で……あ。あれしかないですね。

のんびりしながらも楽しかったですし。


「ボートのプチデート楽しかったようで良かったです」


「ち、が、い、ま、す!」


「じゃあ皆との花見が楽しかった事ですか?」


「二つとも確かに良いことですが…」


他に良いことって何だろう?

長引くと楽しそうな江菜さんを不機嫌のどん底に沈めて帰ってしまいそう。

昨日は花見、プチデート、遊び、食事


「あーんがで…」


「違います。それは雪と揉めて余り出来ませんでしたよね」


そうでした。

どうしよう、江菜さんが不機嫌になっていきます。まだ不貞腐れレベルの間に。

自分の恋愛なるとポンコツかも。


「ヒントはその少し前です」


不貞腐れた声色でも優しい。

少し前ですね。

アスレチックエリアは楽しかった事で良いこと?と少しずれてる?王様ゲーム…は違いますし、あとあったといえば告白?……あ!


「もしかして、雪を振って江菜さんを選んだ?から?」


「はい!その通りです。自宅に帰った後思い返せばそういう事になるのだと思い出しまして」


江菜さんと雪に対しての感情は同じ、それは樹にも言えることで『大切な人』の一人。

でもそれなら雪を選んでも良かったでしょうね。

でも僕は江菜さんを選びました。

確かに嬉しくないわけがありませんよね。


そして、それが単に先に受け入れて一緒に向き合ってくれると言って付き合う事になったからという理由ではありません。

約束をしたそれもあります。

けど、他に何かがある。

その何かは分かりません。

でも言えるのは悲しい事にそれが恋愛感情では無い事。

その何かが分かった時もしかしたらになれるのかもしれません。

そう、人を好きに……


「蓮地さん?」


考えていたらいつの間にか江菜さんに顔を下から覗き込まれていました。


「あ」


思わず目が合い声が漏れる。でも江菜さんはクスクスと笑っていました。


「江菜さんは恥ずかしがるような事無いんですね」


「だって蓮地さん恥ずかしがりませんよね?私だって本当はドキッとしてほしいですけど」


「ドキッとはしませんけど、その分、気づくこともあります」


「それは?」


首をかしげてきょとんと不思議そうな表情で訊ねてきました。

恥ずかしく無いからこそじっくり見れるメリット。


「江菜さんが覗き込むように見るとき可愛い事が分かりました」


「あう!」


江菜さんはボンッという音が聞こえてきそうな程に一瞬で顔を真っ赤に染め上げました。

やっぱり自分からするのは良いみたいですけど、されると免疫無さすぎるみたいです。


「そういうのは……ズルい…です……バカ」


最後に小声でぼそっと言いながら本気で照れており、堪えようとしても口元が緩んでいて誤魔化そうとポンポンと僕の胸辺りを叩くのを可愛いと思ってしまいました。

良いですよね。


「……話戻しますけど、その…辛くは無かったですか。日は浅くても雪とはもう親友の存在ですよね」


江菜さんは息を整えて、こほんと咳払いを一回して返答しました。


「確かに思うところはあります。ですが、雪は私に宣戦布告してきました。辛いなんて微塵もありませんよ」


その語った江菜さんの表情は寧ろ望むところと言っている気がしました。

いきなりプロポーズをする彼女ですからね精神がタフなんですね。


「という訳で早速デートに行きましょう」


「……はい」


「今の間は何です?」


「その…臭くないですか?僕」


「いえ、大丈夫ですよ……寧ろ蓮地さんの匂いが漂ってて凄く良いです」


「じゃあ着替えて……何か言いました?」


「いえ、何も!」


そう言いながら全力で手を横に振る江菜さん。これ何か言ってたパターンですよね。

本当は臭いとか?


「とりあえずリビングで待っててください」


僕は就寝中の家族を起こさないように静かに上り素早く着替えて江菜さんの待つリビングに向かいに行き、スマホでメッセージを残すと音がなるので置き手紙を置いて江菜さんと外へ出ました。

今度こそデートをちゃんと出来れば良いんですけどね。


◇◇◇


というわけでデートです。

今は住宅街を駅方面に向かって歩いています。


「どこ行くんですか?」


「…………………」


沈黙の江菜さんをじっと見て暫くすると目が泳ぎ始め、目を目で追うと別の方向に、また追うとまた別の方にと逃げ回ります。


「江菜さんもしかして」


「ほ、ほん、本日は快適な天気に恵まれていますね」


「予定、無しですか」


「……はい」


「ありです」


「え?」


「確かに一人が予定を立ててデートをするのは良いことです。人によりますけど真剣に考えてくれたら嬉しいですからね。

でも、予定を二人で互いに行きたい場所や連れていきたい場所を相談し合う事で好み等が分かりますから」


「確かに…でも蓮地さんの場合人間性はもう大体把握できそうです」


それって分かりやすいって事?

そんなに。

まだ僕はそんなに理解出来てないのに。

だからこそのデート何ですけどね。

確かに色んな所に行って楽しむものですけど、デートってお互いを知る為のものでもありますから。

それで途中別れるのは合わなかったって事。

けど、途中で浮気するのは合う合わない以前に最低です。

なら最初から付き合うなって話です。


「僕の場合どうなんだろう」


「どうとは?」


口に出てたみたいです。

僕は話すか迷い少し考え込んでいると


「仰ってください。お互いを知るのがデートの一環、ですよね」


僕は思ったことを簡単に説明しました。


「僕は江菜さんと付き合ってます。でも恋愛感情が芽生えて、もし、雪に惚れたらそれは浮気になるのかなって」


「蓮地さん、私がさせると思います?」


奪わせない、そう捉えることの出来る言葉に僕の中の高揚感が沸き上がりました。

この先どうやって僕は自分の恋愛に興味を持てるようになって、江菜さんが惚れさせるのか、それに好奇心が生まれました。

自分が関わることが他人事みたいに感じます。

でも、いつかは……


「そうですねいきなりプロポーズする江菜さんですもんね」


「もう!蓮地さんは意地悪です。でもこのやりとり、とても楽しいです」


「僕も楽しいです」


「蓮地さん」


「はい」


「呼んでみただけです」


江菜さんについて一つ分かりました。

ご機嫌が良い時江菜さんは僕の名前を呼ぶ事です。


さて、時間もまだ午前7時30分、モール等の大きな店はまだ開いていない時間帯。

公園デートでボートで周りの桜を見たので今度は歩きながらじっくり桜を見たり、映画館なら早い時間でもやってるので先ずは映画を観る等江菜さんと相談しながら駅前まで着いてしまいました。


「蓮地さんお金って持ってきてますよね」


「それは勿論」


「私、遊園地に…行ってみたいです」


遊園地、少し遠いですけど今からなら丁度開園するくらいの時間に到着くらいかな。

江菜の方を少しチラッと見ると不安そうな表情で見つめられていました。

………バイト探してやらないと。


「行きましょう」


「っ!早速行きましょう」


江菜さんは勢いよく僕の手を取って切符売り場まで走っていきます。

って!


「江菜さん!スカートがひらひらして見えそうになってます!」


丈が短いこと忘れてたんですかね。

その表情は真っ赤で慌ててスカートの前後を抑えようと手で抑えようとしました。

すぐに僕は手を離したので色々事故もなくスカートを抑えて足も止めたので中が見えることは無かった。


「ふぅ」


ほっと一息ついていた時、江菜さんが背を向けて顔だけ向いていて、じーと僕を目を細めて見ていました。


「…蓮地さんえっち」


「ええええええ!」


「冗談です」


「えええ」


「ふふ、蓮地さん」


「何ですか?」


僕は少しテンション低めで返事をしました。


そして、江菜さんは今日何度目かのあの言葉を体をくるっと僕の方へ振り向けて、いたずらな笑みのはず、なのに頬を赤く染めた顔は誰もが見惚れてしまいそうなものと変えて言いました。


「呼んでみただけです」




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