第10話兄と妹の友達
小学三年生に上がって直ぐ転校してから私の誕生日を迎え両親からロケットを貰った。中にはまだ何も入ってないけどとても大切な一生の宝物になった。
私は手に持って時々散歩に出た。
そんなある日、河原で名前は覚えてないけど学校の同級生男子に後ろから不意に盗られた。
遊び半分に楽しそうにもう一人の男子と一緒に私のロケットをキャッチボールのように投げ合った。
転校してから特に目立った事はしていないのにこの時に限って何故か絡まれた。
「返してよ!」
「これロケットっていうんだろ。だったら飛ばすもんじゃん」
「ち、ちがう!それは大事な写真を中にいれておくものなんだ。返せ!」
私は男子友達の方の手にロケットが渡った瞬間に両手を掴んで力強く握って手を開かせようとした。
暴れまわりながら男子はもう一人の男子に渡そうと無理矢理投げようとしてロケットは河原の方に向かって落ちた。
私はすぐに探しに行った。二人はいつの間にかいなくなってた。
「ロケット、どこ」
諦めかけてた時に「どうした?」と声をかけてきた小学生男子。
それがお兄さん、春咲蓮地さんだった。
「ロケットが河原に落ちた」
「……わかった」
お兄さんはそれ以上聞かずに探し出そうと河に入った。
でも、探しても探しても見つからなくて私はとうとう泣き出した。そんな私にお兄さんは一つの小話をしてきた。
「僕、妹がいるんだけどね…」
あの時は探すのに必死で見つからない不満で余り覚えていないけどある一言だけは覚えてる。
今、くだらない笑い話として思い出せるのはお兄さんのおかげ。
だからお兄さんの力になれる事があったら力になる。
辛い気持ちにさせる事になったとしても。
◇◇◇
江菜さんが所用で喫茶店を出てすぐに、一人の金髪少女が近づいてきた。
「ねえ、そこのお兄さん私をナンパしてよ」
ナンパしてほしいと言った瞬間それはナンパではないですよ。
金髪少女は返事を今か今かと体をそわそわさせて僕を見ている。
ごめんね 僕、ナンパに興味がないんだ。
なにより面倒くさそう。
「よし、警察に通報しよう」
「なるほど、そう来るんですね」
どう来るんですか?
少女は金髪を握って隠れていた黒髪を顕にした。
前下がりラインでボリュームを出しているショートボブ、春なのに少し褐色した肌、女子らしい柔らかな部分を残しつつスポーツをしているとわかるスラッと引き締まった脚をショートパンツが強調している。
「とりあえず。座ったら?」
「はい。木更弓月を蓮地お兄さんがナンパするまで座ってまーす」
妹の小学校からの友達木更弓月ちゃん。
家も隣でこれがラブコメとかなら窓から入ってくるシチュエーションもあるかも。
因みに別の隣は雪の家があったり。
弓月ちゃんは中学生女子にしては165センチと高身長。明るい性格で時折男口調な女の子。
今も鈴のところによく遊びに来ているみたい。
僕とは中学二年の後期あたりから顔を合わせることもなかったから本当に久しぶりだった。喧嘩とかではなく単純に僕のやっていることで会えなかっただけ。
たった一年半とちょっと見ないうちに女の子らしい体つきになっていた。
いやらしい意味で言ってないよ。
「久しぶりだね」
「それだけぇ。久しぶりの対面にもっと言うことありますよね。女の子らしい体つきになったね。とか」
自分で言うことかな。
まあ許しも得たので一応胸の方に視線を送ろう。
「胸を見ないでください」
弓月ちゃんはガードするように胸を隠し警戒の目で僕を見ています。
自分で言ったんだよね。
「でも何か、お兄さんの彼女みたい」
「僕の彼女ならさっき見てたでしょ」
「ありゃりゃ、気づいてたか」
喫茶店でこっちに視線を向ける金髪少女二人が目立たないというのは無理があると思うなぁ。
さっき出ていったもう一人の金髪は鈴で確定ですかね。
「鈴はさっきの金髪で正解?」
「はい。今は彼女さんと一緒の筈」
江菜さんも気づいて店を出たのかな。
「突然何ですかがお兄さん、疑問に思ってない?」
「何に?」
「彼女さんが、葉上江菜さん?が乗っていた車が猫を引きそうになった所をお兄さんが間一髪の所で助けたのを見ただけで好きになる事に」
「!」
「その表情あるんですね」
確かに江菜さんは車に引かれそうになった側でも運転者側でも助けられた側でも無い。
只乗車していていただけ。
立ち位置としては危険を呼び掛ける側ではないかなと思います。
とすると吊り橋効果とするには違う。
猫の身を案じたというのはあったと思いますけど。
危機感が生じるというならあの時の猫と蒿田さんだと思うし、吊り橋効果ならこの場合猫?
まさかあの江菜さんは助けた猫が化けた姿で本物の江菜さんは何処かに隠されて……ってそれはない。
冗談はこれくらいにして。思ったことはあるにはありますけど、
「ある、けど疑問に思っただけかな」
「聞こうとかは?」
聞こうとは思った事はないと首を横に振ります。
それにあったとしても僕から聞くべき事ではない気がする。
もしかしたら鈴は同じ女子として何となくそれが分かったのかも。
でもそれを聞けたとしてもホイホイ他人の秘密を言うような
それにあなたが好きだと自分の秘めた気持ちを告白するように隠し事を告白するにも勇気がいる。
告白するのはとても勇気のいる事。
怖いとか自信が無いとか断られたらどうしようとか断られて拡散されないか怖いなんてごまんといるはずです。
知ってる限り対処としては怖い気持ちを受け入れて告白する事。
友達に頼る事。
断られる覚悟を持つこと等。
自信がない場合はその人のことを何も知らないとか。
勿論その人も知らない可能性の方が高い。
だから友人関係や共通の趣味関係等で互いを知り告白できる糧にしていく。
僕と江菜さんの場合はこの二択の後者に近いと思います。だから
「もしそうなら話してくれる時まで待つかな」
「そうですか……お兄さん」
弓月ちゃんの真剣な表情と声色は変わっていないのに何かが変わった気がしました。
同時に警鐘が打ち鳴った。
「疑問に思ったのなら一瞬でもこう思ったりしたんじゃないですか?」
―(好きというのは口実で本当は利用されている?)―
「好きというのは口実で本当は利用されている?って」
疑問形ではなく断言、確定の口振りで言った弓月ちゃんの瞳は何かを見透かされているのではないかとゾッとした。けど、
「違う」
僕が見てきた人は幸運にも皆本当に恋をしていた。
最初は上手くいった後別れないかという様々な不安を抱く表情をする人もいた。
でもそれ以上に今好きな人と一緒にいる時間を幸せに感じていたのを知ってる。
だって、その人を見る表情が優しくて温かいものだったから。
思い返せば出会っていきなり江菜さんがプロポーズをしてきた顔はまさにそれだった。
寧ろ、利用しているのは僕なんじゃないのか。
恋愛に興味がない、だから情を持てず沸くこともない。
そんな僕に、好意を持つ私なら付き合うことに問題ない、と言ってくれた。
自分の気持ちと楽に向き合える。
明らかになった時、母さん達を悲しませてしまった。分かっていた事ですけどやっぱり辛かった。
都合が良かった。
だから断らなかったんじゃ。
そう思ってしまった瞬間、何がカチリとはまった感覚を覚えました。
そして、確信してしまった。
「利用してるのは僕だよ」
「…お兄さんに言ったのは私が聞くのも難ですけど……お兄さん自身そう思った今…その…どうしたいですか?…諦めますか?」
諦める、べきだと思います。
もし、長い時間を掛けても駄目だったら?その時、江菜さんはどう思う?どう感じる?
当然、心を砕かれた思いになる筈。
結果、只、気持ちを踏みにじるだけ。
そんなのは嫌だ。
「…諦めるよ。なんなら今すぐでもいいよ」
「私、そこまでは!」
「うん、分かってるよ。僕が考えてそう思っただけ」
「……駄目です」
「え?」
「聞いておいてなんですけど!やっぱり駄目です!彼女さんと別れたら勿体ないです。もし好きとは別の理由があったとしても、二度とお兄さんの気持ちを受け止めてくれる人なんてもう現れないと思います。
そしたら二度と自分の恋愛感情に目を向けることも…って滅茶苦茶だな、私」
弓月ちゃんはそう言ってぎこちない笑みを向ける。
人の恋愛の方が好きで応援したい。
そんな僕が付き合うなんて、どう思っていようとどう言い繕うと利用している今の状況は……諦めないといけない。
好きな人に利用しているだけ。
お遊びだなんて言われたら断られるよりも何倍も辛い心情に晒される筈。
江菜さんにそんな表情をさせる前に諦めた方がいい。
ついさっきまでそう思ってた筈なのに、単純ですよ僕。
でも、
「本当に僕が江菜さんと一緒にいて」
「…私には分からないけど、良いと思いますよ。それにお兄さんは諦めても最後の最後は諦めてないと思います」
「随分な自信だね」
「私には根拠があるんで」
それは何かと訊ねると、服の胸元に手を入れて取り出したのは所々小さな傷のあるロケットでした。
「小学生の時なーちゃんと仲良くなる前。お兄さんが一緒に探してくれたロケットです…覚えてます?」
「うん。確か、おじさん達が誕生日にくれたんだよね」
ロケットの所々に付いている傷を一つ一つ眺めるように、弓月ちゃんは昔の事を少し語り始めました。
「あの時、お兄さん言ってたよね。諦めずに頑張ったりポジティブに考えたりすると不思議と物事はいい方向に進むんだって。
そう言って翌日からお兄さん学校サボって、3日かけてずっと探してくれて、見つけてくれた。でもそのあとすごい熱出したんだよね」
確かあの時は無我夢中だった。
そのぐらいの時期から弓月ちゃんは鈴と仲良くなってました。
「でも、今はどうか分からないよ?」
「それはお兄さんの気持ち次第と思うけど。……お兄さんはどうしたい?」
「僕は……」
これからあって思ってしまった事を告げる。その後は何を言われようが受け入れようと思います。
それでも、淡い期待でしかないですけど、もし叶うなら。
諦めたいと思ってしまった事を謝りたい。
「諦めたくは、ない…」
すると弓月ちゃんは満足したような笑顔を向けた。
「その気持ち、今伝えに行きます?」
「うん。ありがとうね」
「それは私のセリフ。私はお兄さんの心を乱すだけでしたね」
僕は横に首を振って否定しました。
「弓月ちゃんのお陰で気付けたから、逆に感謝してる。ありがとう」
「……それなら良かった」
直後、弓月ちゃんは手で顔を隠してすすり泣き始めた。ずっと不安な思いをさせていたんだ。この話をし始めたときか、もしかしたらそれよりも前からずっと。
何で弓月ちゃんがこのような行動を必死になってしてくれたのかは分かりません。
でも、僕はもう諦めない。そう決意して、席から立ち上がる。
すると、
「…あっ。お会計なら私となーちゃんのもお願いします」
「え、何で!?」
「私達中学生ですよ」
「僕もまだ新高校生だよ」
「良いじゃないかぁ。奢ってくれよぉ」
泣き止んで直ぐに泣いてなどなかったようにいつものテンションになった。
男友達みたいに言われても、と思いつつも結局何だかかんだでまとめて支払う事しました。
三千二百円の出費でした。
かなり痛いです。
「さて、なーちゃん達探しましょうか。まあ、場所を聞いた方が早いですよね。てなわけでちょっと」
「何か騒がしい」
「え?うわ、なんですかねあの人だかり」
「行ってみよ」
「そんなことよりなーちゃん達…ってお兄さん!?」
僕は無理矢理弓月ちゃんの手を引っ張りながら騒がしいフードコートの方へ行ってみるとコート前が大勢の人で満ちていました。
それを見た瞬間、何故だが胸騒ぎがしました。
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