第80話 拓海君陥落

 ルナが俺の事を一目惚れしたと言った。愛しているとも。更に俺のお嫁さんになりたいと。


「拓海君。私の事、嫌い?」


「うーん。嫌いではないかな? ルナはグイグイ来るけどそれは嫌じゃないしね」


 ルナは笑顔だ。何故こんな可愛い女の子が俺のお嫁さんになりたいのか理解出来ない。


「じゃあ、私の事、好き?」


 ルナはモジモジしながら聞いてきた。仕草がいちいち可愛い。惚れそうだ。可愛いって得だね。


「うーん。今はルナの事を好きと言えないけど、今後ルナのそばにいると好きになると思う」


「ホント⁉︎ やったぁ。じゃあ今から婚姻届を貰ってくるー」


 そう言ってルナは立ち上がった。


「待てーい! 話が飛び過ぎだー! 何故イキナリ婚姻届なんだ! バカなの? ルナはおバカさんなの?」


「拓海君。恋は人をおバカさんにするんだよ。私のハートは熱く燃えているの!」


「ルナ、落ち着け! 俺はまだ十六歳! 結婚は出来ません!」


「あっ、そっか……テヘッ」


 ルナは舌を出して頬に手を当てた。そして椅子に座った。


「まったく……ルナは気が早いな。結婚の前にお互いを知る為にする事はあるだろ?」


「する事? んー? あっ、アレね」


 ルナは自分のブラウスのボタンを上から外しだした。


「ルナ! ちょっと待て! 何をしているんだ⁉︎」


 ルナは手を止めて俺を見た。


「ん? 結婚の前にする事でしょ? お互いを知る為に大人の関係になる。だよね?」


 そう言ってルナはブラウスのボタンを外すのを再開した。


「イヤイヤ。待て待て!そうじゃなくてだな」


 俺はルナを止めてはいるがブラウスのボタンを外す姿に興奮している。


「じゃあ、結婚の前にする事って何?」


「恋人になる。彼氏彼女になってお互いを知っていく。と俺は思うのだが……」


 ルナは俺の言葉を聞いて両手をパチンと音を立てて合わせた。


「あっ。そうだね。恋人になるだね。うんうん。拓海君は頭いいね」


「いや、普通はそうだと思う」


 どうやらルナは頭のネジが一本外れている様だ。普通ならウザいと思うが、ルナの可愛さで許してしまう。可愛いはホントに得だ。


「じゃあ、拓海君は私を彼女にしてくれるの?」


「それは拒否する」


「えっ? えっ⁉︎ ええー! 話の流れ的に私は拓海君の彼女になる。でしょ! どうして!」


 ルナは驚いている様だ。話の流れ的に驚くのは当たり前か?


「ルナは可愛い。そしてナイスバディだ。彼女にしたら毎日が楽しく幸せだと思う」


「ならどうして……まさか……他に好きな人がいるからダメとか……」


 ルナは悲しそうにしている。今にも泣き出しそうだ。


「いや、好きな人はいない」


「だったら何も問題ないよね?」


「……俺はルナの事を何も知らない。イキナリ恋人からは無理だよ。友達から始めないか?」


 ルナは立ち上がった。そしてベッドに座っている俺の両肩に手をのせ見つめてきた。


「拓海君。友達からなんて嫌だよ。私は今すぐ拓海のお嫁さんになりたいけど、それは無理だから恋人からスタートしよ!」


「だから、恋人からではなく——」


 俺は話の途中でルナに押し倒された。そして俺の上にルナはまたがり乗ってきた。


「るっ、ルナ⁉︎」


「拓海君。既成事実作っちゃうから覚悟してね」


 ほえっ⁉︎ 既成事実⁉︎ アレか? アレをするつもりか⁉︎


「ルナ、待て待て! 下には母さんが居るんだぞ」


「大丈夫だよ。お母様は『部屋には行かないから安心して間違い起こしてね』って言ってくれたから」


 うおーい! 母さん! 何言ってんの! バカなの⁉︎ そんなに息子に恋人を作りたいの? 親バカ……いや、バカ親だー!


「拓海君、私とは嫌?」


 ルナの瞳が潤んでいる。誘惑に負けそうだ。


「嫌ではないよ。嬉しいけど……ルナは俺で良いの?」


「良いよ……それに初めてじゃないから……」


「そう……ちなみにルナって何歳?」


「にひゃ……十六歳だよ」


「にひゃ?」


「ごめんね。日本語は難しくてたまに間違えるの……」


 間違える? にひゃと十六歳を? ま、いっか。


「えっと、ルナ……俺は初めてだから……優しくお願いします……」


「大丈夫……男の子は気持ちいいだけだから……」


 なんだかよく分からないうちにこんな事になっているが……つ、遂に俺も大人になる。責任はちゃんと取る! ルナの事は一生大切にする!


 俺は覚悟を決めた。ルナちゃん、バッチこい!


「……はぁ。貴様達、盛り上がっている最中に悪いが一旦やめてもらえるか?」


 ルナは声のする方を向いた。俺はルナが上にいるので向けない。声の主が見えない。その声には聞き覚えはあるが……


「りっ、リンちゃん。それにソラちゃんにレイナさんも。どうして居るの⁉︎」


「ソラとコンビニで待ち合わせをして、私の家で晩御飯を食べる予定だったのだ。ルナも誘おうと思い家に行ったらここに居ると聞いてな。それで私達はここに居るんだよ」


「えー。来なくて良いのにー。良いところだったのにー」


「ふっ。そう思って来たんだよ。ルナだけ美味しい思いをさせない為にな」


 俺は二人のやり取りは声だけで顔が見えない。


 リンちゃん? 何となく誰か分かる。


 ソラちゃん? まったく分からない。


 レイナさん? まさかのあの人?


 三人居るの? 誰だ? 誰が居るんだ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る