第69話 拓海君とコン様は話をしているだけ

「コン様……俺はこの後、何処に行くの……ですか?」


「もちろん人間界のお主の体に戻るのじゃ。そして今までと変わらない日常生活を送るのじゃ」


「生き……かえる……どうして生きかえらせる……のですか」


われがお主を殺したのじゃ。だから生きかえらせるのじゃ」


 コン様は切ない顔をしている。切ない顔もかわいい。


 俺とコン様は見つめ合って話をしている。何度見てもコン様がかわいくて仕方がない。


「お主の死はわれのせいなのじゃ。お主の願いを聞き入れ、無理矢理に英雄王にしたのがいけなかったのじゃ」


「無理矢理……さっきコン様は、俺の体が内臓破裂したと言いましたよね……もしかして《ミラクルガッツェ》の過剰供給……ですか?」


「そうなのじゃ」


 俺が言ったミラクルガッツェは神世界の大気に含まれる成分。英雄王の奇跡や、神々の奇跡を使う時に必要なエネルギーだ。


 大気中にあるミラクルガッツェを魂で取り込み、体を巡らせ奇跡を発動させる。


 どうやら俺はミラクルガッツェを必要以上に取り込み、魂や体内に余ったミラクルガッツェが許容オーバーとなり死んだようだ。


「すまないのじゃ。本来なら二百年かけてゆっくりとお主を育てるのじゃが、強制的に英雄王にしたせいで、ミラクルガッツェの供給器官が不具合を起こしたのじゃ」


「そう……ですか……」


「本当ならお主は消滅していたのじゃ。ルナから女神の加護を貰っていたおかげで持ち堪えたのじゃ」


 いまルナの名前を出されると……


「ところで……コン様は表情や話し方が変わりませんね……」


「ん? われとお主は話をしているだけなのじゃ。それで表情や話し方が変わるのか?」


「いや……えっと……はい。話をしているだけ……ですね……」


「そうじゃぞ。話を——ぷはっ! こら拓海! 口を塞ぐのは無しなのじゃ。話ができないのじゃ」


 コン様の口を塞いだので、俺はコン様に怒られてしまった。怒ったコン様の顔もキュートだ。


「まったく。仕方のない奴なのじゃ。しかし、お主と一緒にいると不思議と幸せな気持ちになるのじゃ」


「コン様にそう言ってもらえるのは光栄です」


「……ふむ、お主の記憶を消す約束はしたのじゃが、時限式記憶復活に切り替えるとするのじゃ」


「えっ! ナントカ記憶復活に切り替えるって……記憶が戻るって事ですか!」


「時限式記憶復活なのじゃ。お主の記憶は消すのじゃが時間が経つと記憶が蘇るのじゃ」


 俺は嬉しさのあまりコン様を抱きしめた。


「こっ、こら。離れるのじゃ。暑苦しいのじゃ。重いのじゃ」


「嫌です! コン様大好きです! ありがとうございます!」


「も、もう良いのじゃ。拓海、われから一旦離れるのじゃ。お主はもう充分満足したはずなのじゃ」


 俺はコン様に嫌われたくなかったので、コン様から離れて起き上がった。コン様も起き上がった。


「俺はもっとコン様と——」


「分かっているのじゃ。われともっと話をしたいのじゃな。今まで話だけをしていたのじゃからな」


「……はい……もっとコン様と話をしたいです」


 コン様が話だけをしていたと言っている……だから俺とコン様は話だけをしていた……そう今まで話をしていただけだ……

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