第42話 ソラ君と一緒に暮らします

 俺の父さんが、ソラに一緒に住もうと言った。俺とソラは驚いた。


「父さん、急になにを言ってるの?」


「拓海やソラ君には急な話だが、母さんと二人で話し合っていた事なんだ」


「そうなのよ。ソラちゃんは外国から来て、ずっと一人で暮らしているでしょ? ソラちゃんさえ良ければ、ここで一緒に暮らさないかなと思ったの」


「すぐにとは言わない。高校に行っている期間だけでも一緒にどうかな? もちろんずっといてくれてもかまわない。外国にいるご両親に相談してからでもいいから、考えてくれないか?」


 父さんと母さんは、ソラのことが大好きなのは知っている。ソラが一人で暮らしているのがかわいそうと思ったのだろう。


「……僕、両親は死んでいて、この世界にはいないので相談はできません……」


「そうか……すまない。つらいことを言わせてしまったな」


 父さんはつらそうにしている。俺が話を進めるしかないと思った。


「なぁソラ、他に家族はいないのか?」


「いないよ。僕は一人なんだよ」


 ソラには家族がいない……俺は父さんと母さんが死んでいなくなる事を想像した……胸が苦しくなった。


「なら、なおさらここで一緒に住まないか? ソラ言ってたよな? 俺たち家族と一緒にいると幸せな気持ちになるって。家族が出来たみたいで嬉しいって」


「拓海、そうなのか? ソラ君はそう言ってくれたのか?」


「ああ、そう言ってたよ」


 そして俺たち家族はソラの返事を待った。


「……本当に良いんですか? ……僕が一緒に暮らしても……」


「もちろんだ」


「うん、うん。ソラちゃんなら大歓迎よ。ずっといて良いんだよ」


「僕は……皆さんと一緒に……暮らしたいです。よろしく……お願いします」


 ソラは父さんと母さんに返事をした。ソラの目から涙がこぼれ落ちていた。


「ソラ、泣くなよ」


「だって……嬉しいんだもん」


「ソラちゃんが喜んでくれて嬉しいわ」


「一緒に住むのなら、僕の生活費はちゃんとお渡ししますね」


「ソラ、そういえば生活費どうしているんだ? バイトしてるのは聞いたことないぞ」


「……えっと、両親が残してくれた財産があって、それで生活してるんだ」


 両親の財産……生命保険? それともソラの家は金持ちだったとか?


「ソラ君、生活費は入れなくて良いよ。うちは死んだじーさんのおかげで、生活は困らないからね。ソラ君が百人いても大丈夫だよ」


「そっ、そうなんですか⁉︎」


「そうだとも。だからご両親の財産は、自分のことだけに使いなさい。学費も残りは全部だそう」


「えっと……では、お言葉に甘えます。ありがとうございます。学費の三年分はもう納めているので大丈夫です」


「そうなのか。それなら大丈夫だな」


 これでソラは、ここで一緒に暮らすことになったな。よかったよかった。


「ソラちゃんが一緒に暮らすなら、たっくんがお兄ちゃんになるね」


「はぁ? 母さん、どうして俺がお兄ちゃんになるんだ?」


「だって、ソラちゃんは小さくて、かわいいから弟でしょ?」


「うん。そうだよ、お、に、い、ちゃ、ん」


 ソラが俺の目を見て、お兄ちゃんと言った。


 くっ、かわいいじゃないか! だけど——


「俺は男に、お兄ちゃんと言われても嬉しくない!」


 俺がそう言うと、ソラ、父さん、母さんの三人は笑った。


「さて、明日は早いから、そろそろ寝るとするか」


 父さんがそう言ったので、俺はダイニングにある掛け時計を見た。


 時刻は午後九時を過ぎていた。


「そうだね。ソラ、部屋に行こう」


「うん。宗一郎さん、すみれさん、おやすみなさい」


「ソラちゃん、おやすみなさい」


「おやすみ。ソラ君」


「父さん、母さん、おやすみなさい」


 そして俺とソラは、二階の俺の部屋に行った。二階の部屋に入って扉を閉めた。


「ねぇ、拓海君」


「どうした」


「僕、本当にここに住んで良いのかな?」


「良いに決まってるだろ。俺もソラと一緒に暮らせるのは嬉しいからな」


「よかった。拓海君が嬉しいなら、僕も嬉しいよ」


「よし、もう寝るぞ」


「うん。わかった。拓海く——じゃなかった。お兄ちゃん」


「ソラ、お兄ちゃんはやめてくれ」


 ソラからお兄ちゃんと言われると、胸がドキドキする。


「えー。お兄ちゃんって言いたいのにー」


「どうして俺の事を、お兄ちゃんと呼びたいんだ?」


「お兄ちゃんって響きがエロいからだよ」


「ソラ、全国のお兄ちゃんと弟と妹にあやまって!」


「お兄ちゃんが怒っている。怒っている顔も素敵です」


 そして部屋の入り口にいたソラは俺に抱きついてきた。


 俺はベッドのすぐ近くにいたが、ソラの勢いが強くて支えきれずにベッドに倒れた。


「危なかった。ソラ大丈夫か?」


「うん、大丈夫だよ」


「危ないから、もうするなよ」


「……うん……もうしない……」


 えっと……なにこの雰囲気。そしてソラの目が潤んで見えるのですが?


 俺がソラにベッドに押し倒されている状態なのですが!


「そっ、ソラ。ソラの顔が近づいているのは俺の気のせいですか?」


「気のせいじゃないよ……お兄ちゃん……キス……しよ……」


 ソラの顔が俺の顔にゆっくりと近づいている。


 やばい、やばい、やばい。このままだと俺は確実に禁断の扉を開けてしまう。そしてソラと一緒に暮らし始めると毎日、禁断の扉が開く予感がする。


 ここは絶対に阻止しなければ! 俺の貞操を守るんだ! ソラは男だ。俺は女の子が好きなんだ。


 ……ちっくしょー! ソラがカワイイ。理性を保つんだ。がんばれ俺! まけるな!


 一瞬の快楽かいらくを選ぶと一生後悔する事になるぞ!


 俺は自分と必死に戦っていた。でも顔を近づけるソラにはなにも抵抗はしていない。


「あはは、冗談だよ。拓海君ビックリした?」


「じょ、冗談だよな。分かっていたさ。……も、もう寝るぞ」


「うん。おやすみなさい」


 俺とソラはいつものように、ダブルベッドで二人で寝た。部屋の電気を消した。


 すぐにソラから寝息が聞こえた。ソラは寝つきがとても良い。


 危なかった。あのままソラがキスをしてきたら、間違いなく禁断の扉を開けていた。


 そういえば、ソラに聞くのを忘れていたけど、外国から日本に来た理由を聞いていないな。ソラが自分から言うまで待つとするか。

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