第38話 拓海君の夢

 俺とソラが雑談していると扉からノックの音が鳴り、扉が開いた。


「たっくん、ソラちゃん、もうすぐ夕ご飯だけど、その前にお風呂に入ってね」


 俺は部屋の掛け時計を見た。午後五時になっていた。窓越しに外をみたが、朝から降っていた雨は止んでいた。


「はーい。すみれさん、分かりましたー」


 ソラが返事をした。母さんはそれを聞いて扉を閉めて、去っていった。


「拓海君、お風呂に入ろっか」


 ソラが泊まりに来た時は必ず二人でお風呂に入っている。


 ソラは毎回嫌がっていたが、今日は自分から誘ってきた。


「お前、毎回嫌がっていたのに、今日は嫌がらないな」


「今日は拓海君と一緒にお風呂に入りたい気分なんだよね」


「……今日は別々に入らないか?」


「どうして? いつも一緒に入っているでしょ?」


 ——くっ、今日はお前が抱きついてきたり、ベッドに寝転がってきたり、俺の頭をナデナデしたりで、お前を可愛いと思ってしまったんだよ。


 なぜだ! 俺は男には興味が無いはず。ソラ以外の男を見ても何も思わないのに、今日はお前を見ていると、なぜか胸が熱くなるんだよ!


「なぁ、ソラ。風呂場も二人で入るには狭いだろ。今日俺は一人でゆっくり入りたい気分でさ。ソラも一人でゆっくり入りたいだろ?」


「ここのお風呂は広いから、二人でも充分ゆっくり入れると思うよ。 それに、拓海君いつも言っているよね。『男は裸の付き合いが大事だー』って」


 しまった。ソラと一緒にお風呂に入るために毎回、『男は裸の付き合いが大事だ』と言っていたが今日断ると、今度ソラが泊まりに来た時に使えない。


 これは断れないぞ。でも今日はソラとお風呂に入るのは非常にマズイ。今日の俺は凄く変だ。 なんだよこの気持ちは……


 ソラが女の子なら、ここまで悩まずに済んだのにな……って、俺は何考えているんだ? ソラが女の子とか有り得ないから。アレが付いているから。


 もしソラが女の子だったら、ソラと一緒にお風呂は絶対にない。女の子と一緒にお風呂とか現実的にあり得ない。


 十六歳の俺には女の子とお風呂は絶対に起きないイベント……だけど、女の子と一緒にお風呂イベントは発生してほしい。


 それは俺の夢。そして日本の——いや、世界の思春期男子の夢! ……だよな?


「ソラ、分かったよ。一緒に入ろう」


「うん!」


 そして俺とソラは寝る時に着る服を持って、一階のお風呂へ向かった。


 うう、今日は俺のアレが異常事態になるかもしれない……大丈夫だ。ソラは男だ。俺は男の裸を見ても何も思わない。


 そう何も思わない。男の裸で俺のアレは異常事態には絶対にならない! たとえソラの裸を見ても……


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