第29話 ルナちゃんはお父様お母様にモテモテ

「それでは改めて私の自己紹介からします」


「ルナ、その喋り方疲れないか」


「いえ、大丈夫です」


 むむ、俺はルナの可愛い笑顔を見たいのに、無表情で淡々と話をされたら嫌だぞ。


「ルナさん、そこに立ってないで座って話をしないか」


「お父様、私はこのままで大丈夫です」


「でもねルナさん。ルナさんが立ったままだと、私達も立っていないといけないでしょ? パパも私も若くはないから辛いのよね」


「そうですか……分かりました」


 母さんの説得でルナは立っていた場所から、話をしやすい所まで近づいて一人用のパイプ椅子に座った。


 父さんと母さんは趣味で農業をしているので、本当は立っていても辛くはない。ルナに気を使ったのだろう。


 この病室にはパイプ椅子は二つしかない為、俺と母さんベッドに父さんはベッドのそばでパイプ椅子に座った。俺を真ん中に横一列で座っている。


 俺達家族の前にルナが一人でこちらを向いている。


 ルナが深呼吸をした。


「先程から拓海さんが私の名前を……」


「やっぱりその話し方やめないか? なんか堅っ苦しいのは嫌だな」


「そうだな。出来れば気軽な感じで話をしてもらいたいな。私もそういうのは苦手でな」


 俺と父さんがそう言うと、ルナはため息をついた。


「……拓海君、せっかく私が頑張っていたのに、どうしてそんな事いうのかな?」


「堅っ苦しいのは苦手なんだよ」


 ルナの無表情な顔よりも、表情豊かな顔を見たいなんて父さん母さんの前では恥ずかしくて言えない。


「拓海君のお父様とお母様に、悪い印象を与えずに、好印象を持って貰おうと思って頑張っていたのに」


「「好印象?」」


 好印象と言う言葉に、父さん母さん二人が反応した。


「いえっ、なんでもないです。こっちの都合なので気にしないでください」


 ルナは両手を軽く振って焦っていた。


 うんうん。表情豊かな方が断然良いな。


「えっと、初めまして。私はルナと言います」


「初めまして。私は拓海の父親の宗一郎と言います」


「ルナさん、初めまして。私は拓海の母親のすみれと言います」


 そして三人が頭を下げた。


「それで大事な話とは一体なにかな」


「はい。大事な話はいくつかありますから、一つずつ話しますね」


「分かりました」


 父さんがルナと受け答えをする。俺と母さんの二人はなるべく会話に入らず聞くだけにした。


「まず、拓海さんは昨日の交通事故で死にました。それを私が生き返らせました」


「「えっ!」」


 父さんと母さんは二人は声を合わせて驚いた。さすが夫婦! 息がぴったり。


 それにしてもルナは全て話すつもりか? ルナが話すなら、俺も色々と話をして良いって事だよな。


「たっ、拓海は昨日の交通事故で死んだのか? それをルナさんが生き返らせた……本当なのか拓海!」


 父さんが俺の方を振り向いて聞いてきた。母さんも俺を見ていた。


「うん。俺は昨日の交通事故で死んだよ」


「だが、体は擦り傷だけで、それ以外はどこも怪我をしていないと先生は言ったが……」


「……それに私とパパは、レントゲンやその他の写真も見たけど、骨が折れていたり何処も異常無かったように見えたけど……」


 俺はルナを見た。ルナは一回頷いた。俺は全てを話ても良いと理解した。


「父さん、母さん、車にぶつかって、本当に体は無事だと思う? 俺の体は酷い事になっていたんだよ。ルナが俺の体を完全修復して生き返らせたんだよ」


「肘の擦り傷は残しました。無傷は不自然過ぎると思ったので」


「そうか……そうだったのか……」


 父さんと母さんは俺とルナの話を聞いて、ルナの方を向き、二人とも無言で立ち上がった。


「ルナさん。拓海を生き返らせてくれて、ありがとう」


「ルナさん、ありがとうございます」


 父さんと母さんはルナに頭を下げた。頭を下げた二人を見てルナは立ち上がった。


「お父様、お母様、頭を上げて下さい。私は仕事でやった事ですから」


「仕事? たとえ仕事だろうと、大切な息子を生き返らせてくれたんだ。拓海が死んでいたと思うと、胸が苦しくなるよ。本当にありがとう」


 母さんは父さんの言葉を聞きながら泣いていた。


「ところで、ルナさんは何者なんだ。人……ではないよな?」


「はい。私は人ではありません。私は……」


「ルナ、ちょっと待て。正体を明かさずに、その大事な話は出来ないのか」


 俺はルナが正体を明かす前に止めた。


「拓海君、私の正体を隠す必要は無いと思うけど」


「……分かった。一応、忠告はしたからな」


 俺はルナを心配した。父さんと母さんがどんな反応をするのか予想できたからだ。


「拓海君のお父様、お母様、私は女神です。地球では空想上の人物となってる存在です」


「そうかルナさんは女神だったのか」


「ルナさんは女神……」


「はい。信じてもらえないと思いますけど、本当です」


 俺は父さんと母さんの顔を見たが、驚いてはいるが、嬉しそうだった。


「パパ。女神様が目の前にいるよ」


「ああ、母さん。女神様に会えたな。俺達の夢が叶ったな」


「お父様とお母様の夢が叶った?」


「私達は女神に会うのが夢だったんだ」


 ルナは父さんの言葉を聞いて不思議そうにしていた。


 父さん母さんはルナに近づいた。


「どっ、どうされました」


「ルナさん、いや女神様と呼んだ方が良いかな?」


「お父様、ルナで大丈夫です」


「じゃあ、私はルナちゃんって呼んで良い?」


「はい」


「では俺も、ルナちゃんと呼ぶ事にしよう」


 ルナは正体明かした事、後悔しそうだな。


「ルナちゃん、悪いけど私と握手してくれないかな?」


「握手? 別に良いですけど……」


 ルナと父さんは握手をした。母さんはルナと父さんの周りを回ってルナを見ていた。


「おっ、お母様、どうされました」


「気にしない。気にしない」


 ルナは困惑している様だった。


「ルナ、だから俺は忠告したんだよ。父さん母さんは異世界とか女神とかファンタジーが大好きなオタクなんだよ。父さんはいつまでルナと握手してるんだよ」


「なんだ拓海ヤキモチか。 それに父さん母さんは今はオタクではない。元だ、元。元オタクだ」


 実は俺の父さん母さんは元オタクだ。父さん母さんは、最近はアニメを見たりゲームなどはやらなくなったが、俺が小さい頃は現役のオタクだった。


 父さん母さんの影響で俺もアニメや声優に興味を持つ様になった。俺は今でもアニメを見るし、声優さんも大好きだ!


 ゲームは飽きたのでほとんど遊んでいない。ソラとたまに遊ぶくらいだな。


 俺がアニメの女性フィギュアを買って、部屋に飾っていても、クローゼットにR十五指定、二次元のエッチな本を隠し持っていても、父さん母さんは特に何も言わない。


「ねぇ、ねぇ、ルナちゃん。女神に翼はないの?」


 ルナと父さんの周りを回っていた母さんが、ルナの背中で止まって質問していた。


「いえ、翼は左右に二枚ずつ有りますけど、人間界に来る時は、かみ人義じんぎに入って来るので翼は見えなくなります」


かみ人義じんぎ?」


 俺は初めて聞いた言葉だったのでルナに尋ねた。


「拓海君、神の人義は人の体と似たような物なの。人の体よりは丈夫だけどね。私達は人の魂とほぼ同じ存在だから、本来の姿のまま天界や魔界から人間界には来れないの」


「神の人義も、古代神こだいしんの遺産?」


「うん。古代神こだいしんの遺産だよ。神の人義自体が転移装置で、天界や魔界と通信も出来るから便利なんだよね」


「なるほどね」


 母さんはルナの左手の方の斜め前に、父さんは握手をやめて、ルナの右手の方の斜め前にいた。


 俺はルナの正面でベッドに座っている。


「二人は凄く仲良しさんだね。色々難しい話をしていたけど、それは後から詳しく聞くとして……ルナちゃん、たっくんのお嫁さんにならない?」


「「——えっ!」」


 俺とルナの驚きの声が同時に出た。


「母さん、それは良い考えだな。 ルナちゃん、拓海のお嫁さんになる気はないかい?」


「とっ、父さんまで何を言ってるの」


 突然、父さんと母さんがルナに俺のお嫁さんにならないかと勧めた。何故だ?


 父さん母さんが、ルナにそう言ってくれるのは嬉しい。


 俺もルナの事は好きだから、このまま流されるままにルナをお嫁さんにしても……いや、それはダメな気がする。


 俺にはルナの他にも好きな子がいる。同じクラスの花澤はなざわあおいちゃんだ。俺の恋人では無く、だだの片思いだけどね。


 だけど俺は二人好きになるとか、いつから緩々な考えの人間になったんだ? 死んだからか。


 別に良いのか……何人も好きになっても……


 何人好きになっても良い……よな?



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