第23話 拓海君は人間界に帰ります

 俺は神威システムの端末機から離れ、ゲートの一メートル付近まで移動をした。


 ルナは拓海君大好きとか、聞いている俺が恥ずかしくなる自作の歌を歌いながらついて来た。


 ゲートから一メートル離れた付近に到着した。俺はゲートを背にルナの方を振り向いた。そして心配していた事を聞いた。


「ルナ。人間界に来るなら日本の監視は辞めるんだよな? 後任はすぐに見つかるのか?」


「大丈夫、大丈夫。すぐに後任は決まるから」


 まぁ、監視は暇で退屈って言っていたから人気職なんだろう。


「俺の記憶を消さないのは本当に大丈夫なのか? バレたらヤバくない?」


「それも大丈夫。ちゃんと記憶は消しませんでしたってパパに報告するから。隠し事は良くないからね。パパに言えば大丈夫だから」


「パパってルナの父親?」


「そうだよ」


「もしかして、ルナの言っていた上司?」


 俺はルナの父親が無茶振り上司だと思った。


「違うよ。パパは絶対の神っていう天界で一番偉い人物なの。それとリンちゃんのパパは魔界で一番偉い絶対の魔王だよ」


「えっ、えっ? 一番偉いの? 絶対の神とか絶対の魔王って何っ?」


「うん。一番偉いんだよ。私のパパは神族でリンちゃんのパパは魔王族なんだけど、絶対の神の、《絶対の》が一番偉い人物に付くの」


「会社で言うと社長とか?」


「そうだね。会社の会長とか社長とかの役職名と同じかな? 絶対の神や絶対の魔王になっても強くはならないからね」


「なるほどね」


「でも私のパパと、リンちゃんのパパは、現在の天界と魔界の住人のなかでは、リンちゃんのパパが一番で、私のパパが二番目に強いんだよ。頭脳は私のパパが一番で、リンちゃんのパパが二番だよ」


 なんて事だ! ルナの父親が天界で一番偉い? しかもリンちゃんの父親も魔界で一番偉いって……


 もしかして俺の記憶の事は揉み消す? 隠蔽いんぺいするのか?


 何をやるのかは分からないが、天界や魔界のルールをねじ曲げるのは間違いないはず。


 ルールをねじ曲げるくらいだから、ルナの父親は娘の事を溺愛しているはずだよな?


 もしかしてルナが誰かを好きなった事が無くて、恋人がいないのはルナに近づく男を父親が片っ端から排除しているからなのか? きっとそうだろう。


 ……ルナとキスしなくて良かった。キスしていたら俺はルナの父親に殺されていた。


 いや、新世界から存在自体を無かった事にされていたはず。


 俺はホッと一息ついてからルナに話しかけた。


「ルナの父親に報告すると大丈夫なら、安心して人間界に帰れるな」


「うん。私もすぐには人間界には行けないけど、必ず行くからね」


「分かった。ルナ、また会おうな」


「うん。また会おうね」


 俺とルナは別れを告げて、俺はルナを背にゲートの方を向いた。


「真っ暗の中に入るのはやっぱり怖いな」


「大丈夫だから、入って入って」


「分かった……ルナ、絶対後ろから押すなよ」


「えっ? うん分かった」


「絶対押すなよ」


「分かってるって」


「絶対だぞ!」


「絶対押さないよ」


「…………」


「…………」


 何も起こらなかったので俺はルナの方に回れ右をして体ごと振り返った。ルナは俺のすぐそばに居た。


「ルナ?」


「何?」


「何故後ろから押さないんだ?」


「えっ? だって拓海君が押すなって言ったから」


「これはお約束で押すなと言われたら押すんだよ」


「そうだったの?」


 俺はガッカリしてうな垂れた。


「拓海君」


 ルナから呼ばれてうな垂れた体を上げた。


「なに? どうし——」


 俺の返事をさえぎる何かが唇をふさいだ。それはルナの唇だとすぐに分かった。


 俺が顔をゆっくり上げていたので、ルナの顔の高さと同じになった時に、ルナはキスをしてきた。


 ルナとのキスは長く感じた。しばらくしてルナの唇は俺の唇から離れた。


「ルッ、ルナ。今俺にキスしたよね?」


 俺はルナとキスをしたのは分かっていたが、動揺してルナがキスをしてきた事を聞いた。


「待っていても拓海君はキスをしないから、私からキスをしたの」


 ルナは俺の顔と足元を交互に見ながら恥ずかしそうに言った。


「そっ、そう。うっ、うん。ありがとう。でも人間界に来たら、人前ではキスはしないようにな」


「それは分かっているよ。人前では恥ずかしいもん」


 ルナは人間界でも人前でなければキスをしてくるのか? ヤバいよそれは。理性が吹き飛ぶかも。ルナのおっぱい触ってしまうかも……


 俺は、何故ありがとうって言ったんだ? でも、ごちそう様は違うしな。


 それよりルナはキスはした事が無いって言っていたな。これってルナのファーストキス? 俺なんかで良かったのか?


「ルナ、今のキスはルナのファーストキスだよな? 俺なんかで良かったのか?」


「うん……拓海君が初めての人になってほしかったの。だからあげたの」


「そうか……俺で良かったのか」


 ルナの言葉だけを聞くと別の事をしたように聞こえるな。キスしかしてないけど。


 それよりも、かなりヤバい事になった。ルナとキスをした事が、ルナの父親に知れたら俺は間違いなく消される……


 俺は爆弾を所持してしまった……ルナとキスをしたという超弩級の爆弾を!


「よし、今度こそゲートに入るよ。凄く長い時間ここで過ごした気がするが、ルナと過ごせて楽しかったよ」


「私も拓海君に会えて良かったよ。これって運命の出会いなのかな?」


「かもな」


「拓海君、人間界で会おうね」


「そうだな。人間界で会おうな」


 そして俺は人間界にある自分の体に戻る為、ゲートに入った。












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