第22話 ルナの誘惑に負けて拓海君はキスをする?

 ルナが人間界に来て俺のお嫁さんになる……それを聞いた俺は思考が停止して固まってしまった。


 ルナは俺を見ている。笑顔だ。俺はフリーズしてしていたがすぐに復旧した。


 うむむ。ルナが人間界に来ると色々面倒な事が起きそうな気がするけど……まっ、悲しんでいるルナよりも、笑顔のルナの方が断然いいな。


「人間界に行くと決まったから、ささっと拓海君を生き返らせるからね。拓海君少し下がってもらえるかな?」


 俺はルナの指示を出してきた。俺は指示通りに二メートル程後ろに下がった。


「ありがと」


 ルナは俺にお礼を言うと片膝を地面について目の前の地面に右手をつけた。


「神威システムの端末機ちゃん出てきて」


 ルナがそう言うと、ルナの手をかざした地面が縦五十センチ横一メートルくらいの四角い形でゆっくりせり上がり、立ち上がったルナの胸の辺りで止まった。

 そしてせり上がった部分の上、十センチ位が自動でノートパソコンを開くように動いた。


 俺はルナの方に回り込んで開いた所を見た。


「何これ? パソコン? これってディスプレイとキーボードだよな? それにさっきルナが言っていたのは合言葉みたいなもの?」


「これは神威システムの端末機で、音声認識で起動するの。言い方は自由だけど、神威システム、端末機、出て又は出ろ。の三つは必ず言わないと起動しないの」


 ほほう。熱血な魔人が使う時は某ロボットアニメの様に叫んで出しそうだな。


 ルナは俺への説明を終わるとキーボードを打ち始めた。


「ルナ。キーボード打つのがめちゃくちゃ早いじゃないか! 何その速さ」


「えへへ。凄いでしょ。この速さでキーボードを打つ事が出来るのは私含めて数人だよ」


 ルナのキーボード打ちは尋常じゃない速さだ。


「拓海君が死んでここに送るのもこれと似たような端末でするの。前もって送る準備をしていると一瞬で送れるけど、前準備が無く一人で送る作業をすると十五分から二十分はかかるんだよ」


「はっ? 確か魂を十分間じゅっぷんかん放置していると消滅するんだったよな? 一人だと間に合わないじゃないか」


「そうなんだよね。私は前準備が無くても、五分くらいで送る事が出来るから問題は無かったけど、私以外の誰かだったら間に合わなかったはずだよ。私の上司も無茶振りしたよね」


 まったく、なんだよその上司は。無茶振り過ぎだろ。


 それにしてもルナは俺と話をしながらがでもキーボードを打つのが速いな。というか速すぎだろ。


 どこかのパイロットか、とあるお兄様級の速さじゃないか! もしかしてルナって超優秀なのか?


「それで今何やってるの?」


「人間界にある拓海君の体の完全修復だよ。すり傷くらいは残すけどね。拓海君、交通事故で体は無傷と思う?」


「……無傷な訳ないよな。壁にもぶつかったし、体も色々と痛かったし、それで死んだからな」


「でしょ。この画面見て」


 ルナは手を止めて俺に画面を見るようにうながした。


「見た事のない文字しかないけど……ん? 読める、どうしてだ?」


「死んだら言葉と一緒に文字も読める様になるの。生まれ変わると言葉や文字は忘れるけど、拓海君は記憶を消さないから戻っても言葉を理解出来るし、この文字だって読めるよ」


「そうなのか。これを俺に見せたのは……何これ、俺の体はこんなに酷かったのか? このまま戻ってもすぐに死ぬな」


「だから修復作業しているの。あと戻る為のゲートも端末機で開けるから」


「ゲート?」


「そう拓海君の体に戻る為の入り口。黒い長方形の扉みたいなので、そこに入っていくの。扉は無いけどね。黒色の中へ入っていくんだよ」


 ゲートに入って戻るのかぁ。黒い所へ入っていくのは凄い怖いんですけど。


「これで終わりっと」


 ルナがそう言うとオレ達の目の前の端末機の向こう側三メートル位の所に縦二メートル位、横二メートル位の黒い長方形の扉みたいな物が現れた。


「あれがゲート?」


「そう。あの中に入って行くと、拓海君は人間界にある自分の体に戻るの」


「よし、では帰りますか」


「うん。でもその前に拓海君に渡したいものがあるの」


「渡したい物?」


「うん。両手を出して」


 俺はルナからそう言われて、両手を自分の前に出した。ルナは俺の両手を自分の両手で握った。


「なっ、何?」


「いいから、いいから」


 そして俺の全身が薄っすらと光り、すぐに光は消えた。


「いっ、今のは何っ?」


「拓海君に女神の加護を渡したの」


「女神の加護? 何それ?」


「拓海君はもう女神の加護の事は理解出来ているはずだよ」


「理解? ……なんだよコレ? 女神の加護の事は知らないはずなのに知っているぞ。気持ちわるっ」


 俺とルナは両手を握ったままでいる。


「気持ち悪いかぁ。そんな風に感じるんだね。加護を渡されると、加護がどんな仕様か脳に書き込まれるらしいの。拓海君は女神の加護の効果はもう分かるよね?」


「えっと……女神の加護。身体が丈夫になる……これだけ?」


「そう。怪我や病気をしにくい身体になるの」


「えっと……もっと凄い物だと思ったんだけど……」


「そうだね。一つだと大した事無いけど、他にも加護について知ってるでしょ?」


 ルナにそう言われて俺は加護の事を考えた。


「本当だ。続きがあった。凄く不思議な感じだな。何かを思い出す感覚に似てるな」


「そうそう、そんな感じだね」


「えっと、加護は、神の加護、魔王の加護、女神の加護がある。天使と魔人の加護はない。加護は人族にしか渡せない。それぞれ身体に与える効果は違う」


 天使や魔人には加護はないのか。


「同じ種族の加護は二つまで所持可能。同じ種族の加護は二つ集めると、身体に与える効果が一つの時よりも強力になる。加護を三つ集めた時と四つ集めた時にいい事がある」


「……凄く曖昧な内容だな。なぁルナ、神や魔王の加護の効果って何? 分からないんだけど。あと加護を三個と四個集めたらどうなるんだ? いい事って何?」


「拓海君が神と魔王から加護を貰わないと、それぞれの効果は分からないの」


「みたいだな。効果が分からないからな」


「私は神と魔王の加護の効果は知っているから教えるけど、神の加護は、身体の傷が早く治る。魔王の加護は、身体の力が強くなるだよ」


「なるほどね」


「それに過去に人族が加護を二個以上集めたって聞いた事が無いから、三個以上集めた時に何があるのか私にも分からないよ」


「過去に二個以上集めた人族がいない? 加護は一人で沢山の人族に渡せないのか?」


 ルナは首を左右に振った。


「加護は一人一つしか持っていないの。渡したらそれで終わりなの。今みたいに身体の一部に触れていれば回収は出来るけど、渡した相手が生まれ変わったりして離れたら回収出来なくなるの」


「離れ離れになったら回収は絶対に不可能?」


「渡した人が死んで天界や魔界に行ったら自動で戻ってくるけど……だから仲良くなったくらいでは加護は渡さないの」


「なるほどね。加護は貴重なんだね。加護が戻ってくるのはどうやって分かるの?」


「なんとなく分かるよ」


「なんとなく?」


「うん。加護が戻って来たなぁって気づくの」


「なぁルナ。加護って所持数とか分からないのか? 頭の中では所持数とか分からないんだけど?」


「それは、自分で覚えておくんだよ」


 なんだか加護って色々と曖昧だな。ルナの力が強かったから他の種族より人は弱いはずだよな? 俺が運痴だからじゃないよな?


 加護は弱い人族を強くする為に作りましたって感じか? 何故他の種族から貰う仕様なんだ?


「ルナ、貴重な加護をありがとう。さてゲートに行くか」


 そういえばルナと手を握ったままだった……ぐっ、またしても離せない。ルナの馬鹿力がっ!


 そしてルナは俺を見つめて、また目を閉じた。今度はアヒル口にはしていない。


 やっ、やめろー! さっきはアヒル口が面白かったから理性を保てたが、今度は理性を保つのは厳しいぞ!


 しかも両手を掴まれているから頭にチョップも出来ない!


 大ピーンチ! 何か考えるんだ。口は動く。説得は出来る。


 くそっ、ルナが人間界に来てからキスはしても良いとか……ダメだ! 言ってはいけない。だったらルナが、ルナが……かっ、可愛い……キスを……ダメだ!


 ルナとのキスはまだ早い。ここでキスをするのはダメだ……でも……でも……いっ、いいのか? キスくらいしても……


 俺が長々と考えていると、ルナは目を開けて、俺の手を離した。


「もう……本当に拓海君は一途なんだね。それなら絶対に私の事を一番好きになってもらいます。拓海君が私にメロメロになる位に頑張っちゃいます」


「そっ、そうか。まぁ、頑張ってくれ」


「はいっ」


 ごめんよルナ。俺は只の思春期真っ最中の男の子だよ! ルナの誘惑に負けそうになっていたんだよー!


 ルナの誘惑に負けそうになっていた俺だが、少し心配な事があり、ルナにあの事を聞いてみようと思った。







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