第19話 ルナが拓海君を好きになった理由

「なぁルナ。何故俺を好きになったか聞いて良いか? 」


 俺にそう聞かれたルナは顔を上げて俺を見つめた。


 ぐっ、何だこれは? ルナは元々可愛いが、さらに可愛く見えるぞ。恋する乙女モードは可愛いさが倍増するのか?


「えっとね……最初は拓海君の事、凄く嫌な人だなぁ、と思ったの。怒鳴ったり小言を言ったりしてね」


「うっ……ごめん」


「別に良いんだよ。今はもう怒ってないから。あの時は拓海君も混乱していて仕方なかったんだよ」


 そうなんだよなぁ。思い返したら、あの時はかなり混乱してたなぁ。


「それで私は泣いちゃったけど、拓海君は土下座して謝ってくれたでしょ? その時この人は悪い人じゃないのかな? いい人なのかなと思ったの」


 あの時は俺の命の危機と思っていたからね。今なら絶対ルナに怒鳴ったりしません!


「それに拓海君、私の事いっぱい可愛いって言ってくれて……私可愛いって言われた事無かったから、嬉しくなって拓海君とお話してみたいなって思ったの」


 可愛いかぁ……ルナの園児時代を知ってる奴なら、ルナの事を可愛いとかは言わないだろうなぁ。


 生きている時は可愛いとか言った事無かったのに、死んで頭のネジが一本緩んだな。


 ルナは暇だから俺とお喋りがしたいとか言っていたのに、単純に俺と話がしたかったのか。


「でね、拓海君とお喋りしてると楽しくて拓海君に好感を持ち始めたの」


 好感度アップですか……


「そして話の途中で私が座り方を変えた時……拓海君、下着をこっそりとずっと見れたはずなのに、ちゃんと指摘してくれた」


 パンツには興味がらないからね。胸の谷間が見えた時は指摘しなかったよ?


「それから私が恥ずかしくないように冗談まで言ってくれて……この時から拓海君の事を好きなっていったと思うの」


 なるほど……ルナはパンツ事件で俺を好きになっていったと……俺が冗談を言ったとそう思ったのか。


 でも俺は女の子に興味があってパンツに興味が無かったから指摘しただけで、それは冗談では無く本気で言ったのにな。


「なるほどね。まだ続きがあるんだよね?」


「うん。その後に天使より私の方が好きと言ってくれた時に胸がドキドキして、私は拓海君の事好きなんだって気づいたの」


 そう言ったルナの顔が赤くなっていった。


 ——待て待て、ちょっと待てーい! 俺がルナを天使より好きって言った? 違う!


 天使よりルナを好き。では無く、天使より女神が好み。でしょ!


 恋する乙女モードはバカなの? バカになるの?


「へ……へぇ。そうなんだ。これで俺の事好きって気づいたんだね。これで終わりだよね?」


「……まだあるの」


 まだあるのかーい!


「拓海君が私に彼氏いるとか結婚しているのとか聞いてきたから、拓海君も私の事好きなのかなと思って、それだけで胸が熱くなって」


「……ごめん。それ只の興味本位で聞いただけ」


「えっ、そうなの……そっか……」


 俺の無神経な返答にルナの顔が悲しそうになる。


「……園児時代の話の時も俺がいたら守っていた、って言ってくれて凄く嬉しかったよ」


 そっか……ルナは徐々に俺の事好きになったんだな。色々と誤解があるけど……そっか……


「私ね、拓海君にもう会えないと思うと胸が苦しくなって、それで打ち明けたの。迷惑……だった?」


 ルナは上目遣いで俺に聞いてきた。


「迷惑なんて全然ない。むしろ嬉しかった」


「ホント? ホントに!」


 ルナの顔が笑顔になる。とても嬉しそうだ。だけど俺はルナの想いを受け入れる事は出来ない。


 ルナの悲しい顔は見たくないがこれは仕方のない事。それに記憶も無くなりルナの事は一切忘れてしまう。


 ルナの想いを受け入れないのは、顔も名前も知らなかった一年生の告白を断るのとは訳が違う。


 ルナが俺の事を好きなった理由を聞いていて、俺もルナの事は好きだと思った。


 ただその好きが恋愛の好きかは分からない。


 ルナの俺に対する好きは、恋愛の好きかもしれない。たぶんそうだろう。


 ルナの恋は実らない。その理由を知って貰おう。ルナの心が傷つかない様に出来るだけ優しく。


 十六歳の俺が出来るかは分からないけど……


「ルナ」


「何?」


 ルナは笑顔だ。たぶん自分の想いを俺が受け入れると思っているのだろう。


「ルナ……ゴメン。俺はルナの想いは受け入れる事は出来ない」


「——えっ」


 ルナの笑顔が消え悲しい表情になるのが目に見えて分かった。

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