第4話 拓海君の好きな声優さんとの思い出

 可愛い女神を泣かせてしまった……そしてなぜか俺の事を呼び捨てだ。


「拓海のバカ……拓海の変態……拓海のドS……」


 女神ルナはバカとか変態とか言ってるけど俺が悪いから良いとして……いや、心にグサグサきているけど、俺はとんでもない事に気がついてしまった。


 それは、女神ルナが俺の命を握っているという事だ!


 死んだのは間違いない。この後どうなるのかはよく分からないが、閻魔様に会うとか、異世界に行くとか、普通に生き返るとか、そんなのが有るのかも知れない。


 だがしかし! 目の前で泣きながら罵詈雑言を吐いている女神ルナ!


 魂が消滅するとか言っていたよな? ルナは今は興奮状態だけどそれが落ち着いて、


『あなたは女神に対して無礼過ぎます』


 とか言い出して、俺を消滅させるかもしれない。そして上司とやらには、


『努力しましたが、一人では無理でした。獅子王拓海の魂は消滅しました。てへぺろ』


 なんて報告されたら……コレは流石にヤバイ。どうする? 普通に謝っても暴言の数々を許して貰える可能性は限りなくゼロに近い。


 仕方ない。久々にアレをやるか。


 土下座を!


 俺はそんな事を考えていた。その間もルナは泣きながら俺を罵っている。


 そういえば初めて土下座したのは小学四年の時だったな。


 夏休みの宿題を全くしないで遊びまくって、夏休みが終わり、登校初日に女性の担任の先生に宿題をしていない事を土下座で謝った。


 その後、一週間で宿題をしなさいと言われて、地獄の一週間は泣きながら頑張ったな。それからはちゃんと、夏休みの間に宿題をするようになったけどね。


 そして二回目の土下座。中学二年の時にした土下座は今でも昨日の事のように覚えている。


 当時、某ロボットアニメにハマっていて、隣町にあるお店に予約していたヒロインのフィギュアを買いに行ったんだよね。


 そこでしか予約出来なかったからさっ。地元で買うのが恥ずかしいとかじゃ無いんだよ。


 しかも、そのヒロインだけ描かれているポスター付き。無事購入して、意気揚々とお店を出たら、三人の女性とすれ違った。


 その人達は俺がフィギュアを購入したお店に入ったんだよね。


 俺はその三人の女性を二度見したんだよ。何故なら俺が買ったヒロインの声優さんと、敵役の声優さんの三人だったから。


 俺は失礼な事と分かっていたけど、その三人を追いかけて目の前で土下座したんだよ。サイン欲しさにね。


 周りの人やお店の人はザワザワしていたよ……あの頃は若かった。


 いきなり目の前で土下座されサイン下さいと言った俺に三人は驚いていたなぁ。


 ヒロイン役の声優さんが土下座しなくてもサインしてあげるって優しく言ってくれたんだ。一緒にいた二人の声優さんもサインしてあげるって言ってくれた。


 神対応の三人だった。俺には天使に見えた。三人の声優さんは大好きだったけど、さらに好きになったよ。


 三人は快くポスターにサインを書いてくれた。しかも写真も一緒に撮ってくれた。俺の一番の宝物になりました。


 お店に迷惑をかけたので、そのお店の店長さんに謝りに行ったら、その店長さんも三人のファンだった。


 自分で買ったフィギュアに付いているポスターに三人からサインを貰っていた。写真も一緒に撮れて、『土下座してくれてありがとう』って感謝された。


 もちろん怒られなかった。


 女性声優さん三人が隣町に居たのは、隣町が有名な温泉町で、仲良し三人でプライベートで来ていたらしい。


 散歩しながらこの店に入ったら、目の前に現れた俺が土下座をしたので驚いたらしい。でもサインが欲しいからと分かったので快く俺の相手をしたと言っていた。


 ……しまった。思い出が長過ぎた。ってルナはまだ泣いているな。罵る言葉が無くなって落ち着いて来ている。俺的には落ち着かれるとまずいんだよね。


 ルナが落ち着く前の今なら、土下座が出来る。謝れる。あとは少し褒めてみよう。許して貰える確率は低いと思うけど……



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