第5話 拓海君は女神様に謝る

「……ヒッ……グスッ……」


 女神ルナは先ほどまで声を上げて泣いていたが、今は下を向いて嗚咽おえつして落ち着いてきている。


 俺は座り込んで嗚咽おえつしている女神ルナの一メートルくらいの正面に立ち、そして正座をした。女神ルナは俺に気付き、顔を上げ俺を見た。


「なっ、何?」


 女神ルナが俺にそう問いかけると、俺は目の前の地面に両手を突いて地面に擦り付けるくらいまで頭を下げた。


「申し訳ございませんでした!」


「えっ? 何? どうしたの?」


 俺が目の前で土下座して謝ってきたので、女神ルナは嗚咽おえつしながらも聞いてきた。


「えっと……その……女神様に酷い事を言って泣かせたので、謝りたいんです」


「わ……私……すっごく傷ついたんだからね」


「本当にごめんなさい」


 えっと、ええっと……なんだっけ? 何言おうと思っていたのか忘れてしまった。頭が真っ白になっている。もう自分の気持ちのまま謝ろう。


 もうこの後の事なんてもうどうでもいい。許して貰えなくて女神ルナに消されても構わない。今はただ謝りたい。


「俺、その……言い訳にしか聞こえないと思うけど、ちょっとおかしくなっていたんだと思う、頭がパニックになっていた」


「頭がパニック……ね」


「冷静になった今なら分かる。異常な状況で、可愛い女神様が現れてさ」


 俺は頭を下げたまま話している。もちろん頭を上げるつもりもない。


「かっ、かわいい女神様⁉︎」


 女神ルナはちょっと驚いているみたいだ。可愛いと言われ顔も赤くしているのだろうか?


頭を下げてルナの顔を見れない俺には分からない。


「そう、俺が出会った女の子でぶっちぎりで可愛くて! ——じゃなくて。いや、そうなんだけどさ」


 女神ルナは無言で俺の話を聞いている。


「ええっと、俺の為に一生懸命頑張ってくれたのに本当にゴメンなさい!」


 女神ルナは無言……俺は女神ルナの無言がとても長く感じていた。俺は頭を下げたままでいる。


「たくみ……くん」


「はい!」


「……もう怒ったり、怒鳴ったりしない?」


「しません!」


「私の話ちゃんと聞いてくれる?」


「聞きます!」


「……それなら許します」


 それを聞いた俺は思わず頭を上げた。目の前に座っている女神ルナがほほ笑んでいた。まだ目には少し涙が残っていた。


 ほほ笑んでいる女神ルナは可愛すぎる! そして神々こうごうしい! 後光が見える!


薄汚い俺の心が洗われていく感じだ。俺はもう心に汚れのない賢者になった気分だ。


 そう考えている俺を、女神ルナは不思議そうに見ていた。


「拓海君、どうして泣いているの?」


 そう言われて自分の顔を触り涙の感触を確かめて自分が泣いていた事に気付いた。


 あれ、俺泣いていた? 女神ルナの笑顔を見て泣いたのか? たぶん違う。泣いていたのは別の事だと思うな。


「泣いていたのは、これから俺がどうなるのか分からない不安と、女神様が側に居る安心感だと思う」


「そっ、そう? ほっ、ほらもう泣かないの! 拓海君は男の子でしょ。しっかりしなさい」


「そうですね……ありがとうございます」


「それから、拓海君は今から生き返るんだから、元気出して!」


「生き返る⁉︎」


 生き返る? どうやって? むかし話とかに出てくる閻魔様に会うとか? 生き返るってもしかして異世界転生とか? 女神が目の前に居るからあり得るな。


 俺は生き返れると分かり喜んだ。


「ちなみに、生き返すのは誰がやるのですか?」


「私です!」


 女神ルナは女の子座りで両手を腰に当て、胸を張ってドヤ顔をした。


 ちょっ! 女神ルナさん。そんなに胸を張られると大きな胸が更に自己主張されますよー!


でも俺は女神ルナのほほ笑みで心が奇麗な賢者になっている!


だから女神ルナの自己主張された胸を見ても何も思わない……思わない……思わない……無理だー!


 男なら誰でも女神ルナの大きな胸ならよこしまな目で見てしまうだろー!


 女神ルナの胸を見ていた俺はうな垂れた。


 ふっ、所詮俺なんて何処にでも居る、思春期真っ最中の男の子なのさっ!


 自分が普通の男の子だと改めて思い知った。





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