ACT.14 狼怪の転生者(Ⅴ)
▽▲▽
その時ライは死を覚悟した。
無論、ライの中でその光景を見ていた俺も覚悟した。
だが、そんな時どうしようもなく悔しい思いがこみ上げた。
自分の命が惜しい?
――いやそうじゃない。
ライの命が、彼の運命がここで閉じるのを、惜しいと感じた。
ずっと一番すぐそこで、生き様を見てきた。
そして、もっと見ていたいと感じた。
だからこそ、手を伸ばした。
こんなところで終わるんじゃねぇ、上手く躱せと叫んだ。
その時、俺は初めて、ライの身体の主導権を奪うことに成功した。
▽▲▽
「――え?」
一瞬、なにが起こったのか俺はわからなかった。
無論、ライもわかっていない。
だが、確かにこの一瞬だけ俺たちは入れ替わった。
そして、その一瞬で俺は読心の異能を使って全ての攻撃を躱しきった。
肉体の主導権は再びライに移り、ライの思考に一瞬の空白が生まれる。
「――今!」
しかし、ライは即座に覚醒し、前を見る。
前には阻むものは居ない、転生者カズマの姿がはっきりと見えた。
瞬間、ライの行動は早い。
盾を捨て、剣を両手で握ると、カズマへ向かって全力で疾駆する。
後ずさるカズマをその勢いのまま押し倒し、のど元に切っ先を突き付ける。
それをカズマは両手で抑え、あらがおうとする。
「なんだよ、なんなんだよお前! 俺が何したっていうんだ!!」
カズマは激高する。
自らを襲う、この理不尽極まりない状況、理不尽の権化たる目の前の少年騎士に向って吠える。
「俺は、これからだったんだ!! あのクソ親も、クソみてぇな同級生も、クソまみれの社会も何もない! 何もない此処でやり直すんだ!!」
その絶叫は、次第に涙声に変わっていく。
「俺は、今度こそ、自由に生きれるはずだったんだ! 誰にも指図されず、馬鹿にされず、苦しまずに生きれるはずだったんだ!! なんでお前、邪魔をするんだ!!」
「――そんなの、決まっている」
ライは、さらに力を入れる。
鍛えたライと、天性の才だけを頼りに生きてきた少年。
力の差は、あまりにも歴然だった。
「お前の自由の為に、誰が犠牲になる! お前の願望の為に、誰が苦しむ! お前のその薄っぺらい理想の為に、誰が泣かなきゃならない!!」
ぎりぎりと切っ先が、カズマの首に迫る。
刀身を握りしめたカズマの手が、自分の血で滑る。
「僕は、そんなお前たちを許さない! 僕らの世界は、僕らだけのものだ。お前らのおもちゃ箱なんかじゃない!!」
最後、渾身の力を込めて、ライは剣を押し込む。
その切っ先は、カズマの喉に吸い込まれ、間もなく彼を絶命させた。
▽▲▽
「へー、やるじゃん」
その様子を、物陰から見る影が一つ。
影の正体は、この試練の監督役でもある、レオーネだった。
先ほどの人造生物を手早く仕留めた彼女は、物陰から一部始終を観察していたのだ。
「覚悟、実力ともに申し分なし。うん、これなら私も満足だな」
そういって破顔するレオーネは、その笑顔のまま、ライに駆け寄る。
そしてこう伝えるのだ。
「おめでとう、ライ君。私から見たら君は100点満点! 合格だよ!」
ライはその報告を、半ば放心状態で受け止めた。
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