僕の先輩は奇人だ

りいた

第1話

 僕の先輩は奇人だ――先輩である神城玲央かみしろれおを紹介する時には必ずこの台詞を言うようにしている。するとどう奇人なのかと訊かれるが、それについては六時間語っても足りないため多くは語らずに、兎に角奇人なんだと訴えている。

「いや、うん。直幸君の苦労は……心中お察しします、と言ったところだね」

 切り揃えられていないぼさぼさの黒髪を撫でつけながら、隣で呑気にペットボトルに入った緑茶を飲んでいる谷岡隆弘たにおかたかひろが僕を見て言った。猫背気味の彼は、ちびちびとゆっくり茶を喫している。飲み始めたのは随分前だったが、ペットボトルの中の水量は殆ど減ってはいなかった。

 校庭に植えられた桜の若葉が瑞瑞しい緑色を放つ五月十五日水曜日、僕と隆弘先輩は屋上に設えた青いベンチに座り、晴天を見上げていた。少しだけ眩しいが、頬を撫でる温かい風が心地良い。

 六限目が終わり、さて帰ろうかと言う時に隆弘先輩に呼び止められ、校門横の花壇の草毟りの手伝いを頼まれた。普段は園芸部の役目だが、中庭の花壇の総入れ替え作業を部員全員で行うため、生徒会にお鉢が回ってきたのだそうだ。

 隆弘先輩は生徒会書記役である。因みに僕は生徒会役員では無い。それなのに隆弘先輩は、僕に手伝いを頼んできたのだ。

 例の奇人の所為で生徒会に関わる事が多くなり、奇人以外のメンバーからも手伝いの要請が来るようになってしまった。

「そんな他人行儀な事言わないでくださいよ。そういう隆弘先輩だって苦労人の一人じゃないですかあ」

 少しだけ長い前髪を耳に掛けながら、僕は悲痛の声を上げた。

 一学年先輩の高校三年生である神城玲央からは、ほぼ毎日と言っていい程いつも用事を命じられている。しかも内容が無茶苦茶だからとても苦労していた。

 隆弘先輩も僕の一学年先輩である。つまり神城玲央と同学年なのだが、どういう訳かあの人からは格下に見られているようで、僕と同じように何かと命令を受けているのだ。いや、あの人にとっては全人類が自分より格下なのだ。傍若無人、唯我独尊を貫く神城玲央に敵う者に僕は遭遇した事が無い。法を犯すような事は流石にしないが、国家権力にも屈しないのではないかとすら思ってしまう。それだけあの人は尊大なのだ。

「ぼ、僕のは不可抗力だよ。でも直幸君は自分で望んでそうなっているんじゃないか。一緒にしないでくれ」

「誤解です誤解! 僕だって不可抗力ですよお! それに、あんな酷い目に自ら望んで遭う奴なんて居ませんよ! 万が一……いや、億が一居たとしたら僕の代わりにあの人の下僕をやってほしいくらいです!」

「自分が下僕だという自覚はあるんだね」

「自覚だなんて大層なものではありません。そう言われているんです。あの奇人に!」

「はは。そうだね。いつも言われているね」

「下僕だと言われているのは隆弘先輩も同じです」

 嫌な言い方だよね――隆弘先輩は苦笑した。僕も同じように眉を下げて、二人して嘆きと憂いの溜息を吐いた。

 その時だった。

「あ! いたいた! 下僕が二人して何を油を売っているのだ! 油を売るのはガソリンスタンドの店長だけで十分だろう!」

 ばんっと大きな音を立てて屋上の扉が開かれ、栗色の髪の毛を揺らしながら、ずんずんと勢いよくこちらに向かってくる男が居た。長身で足が長い男はあっという間に僕達の前まで辿り着く。

 何やら怒り心頭のようで、吊り上げた眼の中の硝子玉のようにくりくりとした大きな瞳が零れそうになっていた。

「れ、玲央さん! いやあのこれは」

 僕は神城玲央の事をさん付けで呼ぶ。

 出逢った頃は『神城先輩』と呼んでいたのだが、下僕に与えられる仕事は学校外にも及ぶため、便宜上さん付けをしていたらいつの間にかそれが常となったのだ。

 それに彼は神城と呼ばれる事を嫌うから、名の方で呼ぶ事になった。

 理由は隆弘先輩が教えてくれた。玲央さんに直接訊ねた事は無い。

 なんでも、『玲央』という名はレオンに似ている。レオンはフランス語でライオンの意、ライオンは百獣の王、即ち王である自分にピッタリだ、と甚く気に入っているようで、周りにもそう呼ばれたいのだそうだ。

「何だその歯切れの悪い口振りは! 言い訳をするならするではっきりしなさい! そうやっていつも愚図愚図しているから直幸お前は駄目なんだ!」

 僕が言葉を紡ぐ前に玲央さんが捲くし立てるものだから、僕はだた口を金魚のようにぱくぱくとさせて目を剥くしかなかった。そんなのはお構いなしとでも言うように玲央さんの糾弾は続く。

「ははあん、判ったぞ。隆弘君に付き合っていたから、などと嘯いて隆弘君の所為にするつもりなんだろう。嗚呼なんて狡い。それでは隆弘君が可哀相じゃないか! 極悪非道だな全く。大体、隆弘君は元元愚鈍なんだから、隆弘君のペースに合わせる方がどうかしている! そんな事はそこの壁を懸命に這っている蟻だって知っている! 直幸は蟻以下だ! ナシナシ! お前はもうナシだ!」

 蟻以下は無しらしい。玲央さんはいつも適当で自身にしか判らないような珍奇な言葉ばかりを発する。当然周りの者は付いていけない訳だが、本人は気付いていないのか、はたまた判っていて自分のペースを崩す事をしないのか、周りを振り回すだけ振り回し、回収する事を全くしないのだ。

「玲央さん。そんなに捲くし立てないで、直幸君の言い分もちゃんと聞いてあげなよ」

「はっ! こいつにそんなまともな言い分なんぞあるか! それに隆弘君も悪いのだぞ! 何でこいつとゆっくりまったり茶なんぞ飲んでいるのだ。二人して間抜け丸出しじゃないか」

 いきなり矛先を向けられた隆弘先輩は、ええっと小さく声を洩らし顔を顰めた。僕は自分の事も然る事ながら、隆弘先輩に同情の眼差しを向けてしまう。玲央さんと隆弘先輩は小学校からの付き合いらしく、幼き頃より下僕として仕えていて年季の入り方が違う。

「いいからお前達さっさと付いて来い! どれだけ探したと思っているんだ!」

 来た時と同じように、ずんずんと勢いよく扉に向かい歩いていく玲央さんを、僕と隆弘先輩は慌てて追いかけた。


 ***

 

 玲央さんとの出逢いはそれはもう強烈だった。

 入学式で生徒会会長による祝辞を述べたのが玲央さんだったのだ。生徒会会長は通常三年生が行うものだが、玲央さんは二年生にして既に会長だった。

 しかしこの時僕はまだ玲央さんが二年生である事を知らない。

 玲央さんは足が長く長身であるし、大きな目で眉もきりりと太く、鼻筋もすうっと通り、とても大人びていた。だから三年生であると疑いもしなかったのだ。

 生徒会役員選挙は毎年九月に行われ、十月から新体制で挑む事になる。立候補するのは当然二年生であるが、一年生である玲央さんが、生徒会会長になるのは自分だと立候補したのだ。一年生が立候補してはいけないなんて規則は無いのだが、当選確率は極めて低く、次年度で高学年になる二年生が生徒会会長になるのが定石である。

 最初は反感を買い、当選は不可能であると思われた。しかしあの奇人の破天荒で奇天烈な行動は大勢の興味を引き、次第にその好奇心は羨望へと変わっていったのだ。

 結果、玲央さんは一年生にして生徒会会長の座へ就いたのだそうだ。

 あの時の玲央さんは凄かったなあ――と隆弘先輩は言っていた。生徒会役員選挙の時は、隆弘先輩も散散扱き使われたようで、思い出すだけで疲れるよなんて嘆き、仔細を語ることはなかった。

 僕が入学した時の生徒会会長である神城玲央の祝辞は、

 ご入学おめでとうございます――。

 皆さんの新しい門出を心からお祝い致します――。

 などと決まり文句を述べ、その後、壇上に置かれたマイクを手に取り、大きな声で、

「僕は王です! 全人類の王です。つまりこの学園の頂点に立つ者です。僕を慕い僕に尽くす生活を送る事が出来る、そんな学校に入学した事を誇りに思うがいい。おめでとう!」

 と言ったのだ。

 真っ直ぐに前を向き、口を大きく開いて発せらせた明瞭な声は体育館中によく響いた。彼の瞳が煌煌と輝いているように見えた。

 生徒会会長は舞台に取り付けられた階段を使わずに、そのままだんっと飛び降り新入生の間を抜けるように体育館を出て行った。僕を含め新入生全員が口をぽかんと開けて、瞬きを忘れ目を見開いたのは間違い無いだろう。その衝撃は先生も同じように受けたようで、暫くは誰も動けずに立ち尽くしていた。

 しかし僕のような凡人には無関係であり、今後生徒会会長と話す機会すらも無いものと思い、驚きこそすれ所詮他人事と高を括っていたのだ。

 ところが、事件は忘れもしない四月十六日月曜日に起こった。

 この日から新入生へ向けて部活動の勧誘活動が開始される。チラシ配布をする部活もあれば、体育館のステージでパフォーマンスを披露する部活もある。新入生は興味のある部活の見学を始めるのだ。

 僕はそこで神城玲央の奇行を目撃する事になる。

 僕は将棋部に入ろうかと思っていた。幼き頃から将棋を指し、上を目指そうなどという殊勝な気持ちで入部を希望したのではなく、興味があった、ただそれだけだった。

 当然未経験である。しかし部活動とは、初心者大歓迎、手取り足取り教えます――という割りと敷居の低いものだと思う。だから、興味がある、という簡単な理由で入部しても構わないのではないだろうか。

 僕が将棋に興味を抱いたのは、先見の明を養いたいと思ったからだ。そういうのは今後の人生に於いて大いに役立つだろうと思う。僕に勝負師としての才能があるとは到底思えないが、そんな僕でもそれなりに楽しめそうだと思ったのだ。

 そこで僕は三階にある将棋部部室へと足を運んだ。そこには何やら人だかりが出来ており、入り口からも人が溢れていてとても入れそうにない。廊下に面した窓から中を覗く者も居た。将棋部が大人気であると知らなかった僕は驚き顔を顰め、少し手前で歩みを止める。どうやら僕のような新参者はお呼びで無いようだ。

 ――囲碁部に入ろうかな。

「わはははは! 僕の勝ちだ!」

 部屋の中から大声が聞こえた。それは先日入学式で聞いた生徒会会長の声だった。

「え、何?」

 僕は人だかりに駆け寄り、近くに居た男子学生――誰だか知らぬが恐らく同級生――に訊ねた。

「例の生徒会会長が道場破りを行っているんだ」

「はい? 道場破り?」

「全部活の部長と対戦して勝つ! と言って回ってるらしいんだ。幾つ回ったかは知らないけど、今まで回ったところは全部勝ってるみたいだぞ。そして今は将棋部。俺はさっき囲碁部での試合を見たけど、圧勝で凄かったぞ」

 男子学生は妙に興奮しているかのように早口で捲し立て、凄いだろうと同意を求めるようにニヤけた。

 どうやら入部希望者が溢れている訳では無いらしい。僕の心配は杞憂で、人人は将棋部の見学ではなく、生徒会会長を見に来ているだけに過ぎなかったようだ。

 それにしても、この男子学生の言葉を信じるならば神城玲央は相当に凄い人物のようだ。いや、祝辞であんなスピーチをする程だから只者では無い事は確かだったけれど、それでも全勝とは僕の想像を遥かに超越している。

「はっ、どいつもこいつも弱い! 実に弱い! お前はそれでも部長なのか? もっと将棋が上手な奴はいないのか!」

「玲央さん、もう勘弁してくれよ。部長の俺が負けたんじゃ形無しだ。将棋部に入ってくれる新入生が居なくなっちゃうよ。大体あんた、他の部活にもチャチャ入れてるだろ。もうやめてくれよ」

「ふん! 何で僕がこんな事をしているのか知らないのか?」

「……いや、知ってるよ。新入生に自分の力を見せ付けたいんだろ」

「そうだ! でも少し違うよ。僕の狙いは次の生徒会役員選挙だ」

 生徒会会長は威張ったように胸を張り、どうだと腰に手を当てた。

「……俺達にとっては同じさ」

 将棋部部長は納得したのか諦めたのか、肩を竦めて息を吐き、駒を片付け始めた。しかし僕には生徒会会長の言葉の意味が理解出来無い。道場破りと生徒会役員選挙がどう関係しているというのだ。

 生徒会会長はすっくと立ち上がり部室の入り口へと歩く。

 ――あ、こっちに来る。

 野次馬共は生徒会会長を避けるように後退りして道を空けており、まるで王の歩みを妨げないようにしている下下の民のように見えた。これが自分を王だと自負する人物の威圧感なのか。

 僕はまだ部室にすら入れておらず、生徒会会長が段段と近付いて来る事に何故だかとても緊張した。

 そして、

「せ、生徒会会長!」

 思わず呼び止めた。野次馬共が一斉に僕を見る。

「ん? 何?」

 生徒会会長もこちらを向き、首を傾げた。初めて正面から顔を見た。整った顔立ちで真っ直ぐに視線を向けられて、刹那ドキリと心臓が跳ねる。薄らと額に汗が浮いた。

 一呼吸置いてから、漸く僕は口を開く。

「あ、あのっ、生徒会役員選挙が狙いって……どういう意味ですか?」

 どうしても気になったのだ。訊かずにはいられなかった。

 心臓がばくばくと鼓動を打つ。時が止まったかのように周りは静かになり、生徒会会長は目を丸くして僕を見ている。

 ――どうしよう。

 訊ねてしまった事を今更ながらに後悔した。しかし過去には戻れないし、発言を取り消す事も出来無い。そんな当たり前の事を考えている内に、凝と僕を見ていた生徒会会長が顎を擦って、一歩、僕に近付く。

「ほう……気になるか」

 彼は目を細めてにんまりと口角を上げた。

「じゃあ来なさい! 僕の下僕になるがいい! 馬車馬のように働け!」

 不穏な事を叫んで僕の腕を掴んで走り出した。

 自身を王だと自負する崇高な御方と言葉を交わす日なんてこないと思っていた。凡夫たる自分とは住む世界どころか別次元の人間で、僕の歩む道と交わる事など無いと思っていた。

 ――それなのに。

 この出来事を境に、僕は神城玲央様の下僕に成り下がったのだ。


 ***


「今日は随分遅かったじゃないか」

 僕と隆弘先輩が玲央さんに連れて行かれた先――生徒会室には柏木仙かしわぎせんが居た。

 生徒会室の一番奥に茶色の革製の大きな椅子があり、その前にある机の上には『生徒会会長』と書かれたプレートが置かれている。勿論、神城玲央様の特注セットである。

 玲央さんは資産家の次男坊らしく、金回りも頗る良く、生徒会室に置かれている備品の購入費の殆どが玲央さんのポケットマネーから出ているそうだ。学校の経費で購入出来る物には限界があり、それならば自分で買うと、ぽんと大金を出したらしい。

 そもそもこの広い生徒会室も、玲央さんが生徒会会長になる前は多目的室だったのだそうだ。旧生徒会室はもっとこじんまりとしていて、長机が二つとパイプ椅子が六脚、小さな棚とホワイトボードがあったくらいのものだった。それを、こんな狭い部屋は王の居る場所では無い、と玲央さんが無理矢理多目的室へ移してしまったのだそうだ。旧生徒会室は今はただの備品置き場になっている。

 玲央さんの机の前には長机が二つ縦に置かれ、奥の長机の右端が仙先輩の席である。仙先輩は定位置に座り、腕と足を組んでこちらを睨んでいた。しかし彼はいつも不機嫌そうな顔をしているから、眼鏡の奥の眼光が鋭く光っていると感じたのは勘違いなのかもしれない。元来目付きが鋭いのだ。

 玲央さんが大股で仙先輩の方へ歩いて行く。そして部屋の一番奥に設えた自分の椅子に大儀そうにどかりと腰を落とした。僕と隆弘先輩は、顎を引いて肩を竦め小さくなって後に続く。仙先輩の隣が隆弘先輩の席で、僕は生徒会役員では無いため座席は用意されていないが、大体いつも隆弘先輩の正面の席に座っている。僕達はそれぞれの定位置に素早く座った。

「僕が遅かったのじゃないぞ! 隆弘君とナシが屋上で愚図愚図しているから遅くなっただけだ!」

「ナシ? ああ、直幸君の事ね。何? 君、何かやらかしたの?」

「僕は蟻以下なんだそうです」

 仙先輩は僕の言葉に片眉を上げて、ふーんと声を洩らす。仙先輩は豪く察しがいいから、僕の言葉の意味を理解したようだった。

 仙先輩は生徒会副会長である。仙先輩と隆弘先輩は玲央さんの小学生からの幼馴染――仙先輩曰く腐れ縁――だから無理矢理生徒会役員に任命されたようである。生徒会会長は選挙で決めるが、以下役員は生徒会会長の任命で選出される。仙先輩は最初こそ拒否したが、生徒会副会長という大役は内申にも少なからず影響するし、玲央さんの暴挙を止める事に苦戦している先生方にも強く頼まれたために引き受けたのだそうだ。仙先輩は玲央さんに意見出来る数少ない人物の一人なのだ。

 隆弘先輩は言われる儘に書記の任に就いた。一応は拒否の意を示したそうだが、当然そんなものが有効に発揮される訳が無い。

 因みに生徒会会計役は仙先輩の推薦で、三年生の柳田勝敏やなぎだかつとしが担っている。まだ生徒会室には来ていないようだ。

「さて玲央さん。僕達を集めた理由を聞こうじゃないか」

 仙先輩が玲央さんに向き直り顎を引き、眼鏡の縁を左人差し指で押し上げた。仏頂面は変わらない。

 玲央さんは座ったばかりだと言うのに立ち上がり、左手を腰に当て、右手を上に突き上げてから大きく息を吸った。

「発表するからよく聞け! 今年の文化祭では生徒会も出し物をすることにした!」

「はあ? あんた何を言っているんだ? 受付係や各部活の取りまとめ役など、生徒会は大忙しなんだぞ。玲央さんは毎年遊び呆けるから良いだろうが、僕達は確り働いているんだ。そんな事をしている暇なんて無い!」

 だん、と仙先輩が益益凶悪な顔になり玲央さんを睨んだ。物凄く怖い。玲央さんは平気な顔をしているが、もし僕が仙先輩からあんな顔を向けられたら失禁でもしてしまうような気がする。

「ふん! そんな雑用は帰宅部にでもやらせておけ」

「帰宅部は部活では無い」

「じゃあパソコン部」

「彼等は毎年新作ゲームの発表をしているだろう」

 隆弘先輩がおずおずと返した。

 そういえば、隆弘先輩は生徒会に入る前はパソコン部に籍を置いていたそうだから、矛先を向けられて嫌だったのかもしれない。

 文化祭の出し物はクラス毎ではなく部活毎に行う。僕は、入学したての頃はクラス毎に何かするものだと思っていた。しかしそうではないと知り、どの部活にも所属していない自分は何もすることが無く暇人になってしまう事に落胆したのだ。最終的に玲央さんに生徒会の雑用を押し付けられたから、風来坊を気取る事は出来なかったけれど。

 文科系の部活は、パソコン部のように作品発表をしたり、将棋部、囲碁部のように対戦会場を設置して部活動関係者以外の者でも指したり打ったり出来るようにしたりする。運動系の部活は、剣道部、柔道部が体育館の舞台上で形を披露したりしている。サッカー部や野球部などの競技系は屋台を出店している。それぞれ何かしらの役割があるようで、玲央さんの言うように何も無い者は帰宅部くらいである。

 僕は真っ先に矛先を向けられたパソコン部に同情した。玲央さんにはあの部活は暇そうに見えるのだろう。それとも隆弘先輩が居たから標的にされたのか。

「生徒会には生徒会の役割があるんだ。他の者に任せるなんて無責任な事は出来無いし、何かあっても彼等は誰も責任を取ってはくれないだろう。大体、玲央さんが雑用だと軽視している生徒会の役目だって、中中に大変なんだぞ。各部活の出し物の内容の選別から始まり、経費の管理、スケジュール決め、当日だって来賓の対応や体育館舞台の運行管理に」

「ああもう煩い! 仙はなんだっていつもそう融通が利かないんだ! この堅物!」

「僕はもっと現実を見ろと言っているんだ」

 ぴしゃりと跳ね除けられ、玲央さんは頬を膨らませて口を尖らせた。僕は二人の遣り取りに口を挟む事すら出来なかった。

 ――凄い剣幕だったな。

 相も変わらず仙先輩は眉間に皺を寄せて凶面を保っているし、玲央さんは拗ねてむくれているし、僕は身の置き場がなくなり正面に座る隆弘先輩に視線を移す。

 ――ああ。

 予想はしていたが、矢張り隆弘先輩は二人の遣り取りについていけないと言わんばかりに、口をぽかんと開けて目を剥いていた。

「そういえば直幸君はどの部活にも所属していないんじゃなかったか?」

「へ?」

「しかも生徒会役員でも無い」

「え、はあ……そうですけど」

 ぼんやりと隆弘先輩を眺めていると、急に仙先輩から当てられて僕は胡乱な返事をした。

「じゃあ、暇人だ」

「ちょ、ちょっと急に何ですか? 暇人って言いますけどね、僕は去年の文化祭では玲央さんの命令で、生徒会の手伝いみたいな事をして駆けずり回ったんですよ! 仙先輩に言われて出し物のチェックとかもしたじゃないですかあ! まさか忘れちゃったなんて言わないですよね! 今年だってきっと玲央さんに」

 冗談じゃない。仙先輩は今年も僕に雑用を押し付ける気でいるんだ、と瞬時に察した僕は反論に躍起になった。

「ほら、暇人じゃないか。玲央さんの命令を聞いて忙しいと言うなら今年もそうすればいい。玲央さんと一緒に出し物をすればいいよ。個人で出し物をする事は認められていないから、生徒会からという名目でやれば問題無い」

「いやいやいや! だから! 僕は生徒会の人間では無いんです! 仙先輩だってさっき仰っていたじゃいですか! 嫌です! 僕は嫌です! それに、生徒会からとしてやるなら僕が出しゃばるのはいけないと思うんです! あ、隆弘先輩がやるのはどうですか?」

 僕はもう、それはそれは必死だった。

 仙先輩は雄弁で饒舌だから精一杯頭を使って反論しないと言い包められてしまう。最初から口論で勝とうだなんて思ってはいないが、せめて僕が玲央さんの下僕業の中心人物になる事だけは避けたかった。

 手伝い程度なら――などと悠長な事は言っていられない。関わる事を一切やめなければ結局全てをやらされてしまう。玲央さんの下僕業には零か百しか無いのだ。

 だから僕は隆弘先輩に話しを振り、人身御供を買って出て貰おうと思った。

 ――隆弘先輩ごめんなさい!

「うえっげほっ。ぼ、僕に話しを振るのはやめてくれよ。直幸君がやればいいじゃないか」

 隆弘先輩は吐きそうな程に咽せ、上体を前に倒して僕を見上げるような体勢になっている。それを見て僕は隆弘先輩に全てを押し付けようとしてしまった事を少しだけ後悔した。本当に少しだけ。

 突然、だんっと机を叩く音がして、慌ててそちらを向くと玲央さんが右拳を握っていた。

「うるさーい! お前等いい加減にしろ! 僕の話を最後まで聞けこの愚か者共! 僕がやりたいのは揮毫だから、僕独りで出来る」

「きごう? 何ですかそれ?」

 僕の質問に答えたのは仙先輩だった。

「ふでをふるうと書いて揮毫だよ。毛筆で書を認めることだね。つまり玲央さん、書道を行うってことかい? それなら書道部があるだろう。被るじゃないか」

「ふん! 仙は想像力が足りないな! 書道部は書いたものを展示するだけだろ? 僕は校庭で大きな紙に大きな筆で書くやつがやりたいんだ!」

「ああ、書道パフォーマンスというやつですね。最近は大会なんかもありますもんね。確かに大掛かりで派手だから、玲央さんにぴったりだ」

 先程まであんなにも苦しそうにしていた隆弘先輩の明瞭な声が聞こえて正直僕は驚いた。矛先が自分に向かないと判った途端に体調は回復したようである。現金な人だ。

「ふーん。そうか。まあ、確かに、準備は直幸君にお願いするとして、それなら当日は玲央さんだけで片付くか」

「お願いするって結局僕がやるんですか?」

 隆弘先輩同様、玲央さんが単独でやると聞いた時は正直安堵したし、もう自分は無関係なのだと油断もしていた。立場的には無関係な筈なのに、仙先輩はどうしても僕に面倒事は全て押し付けてしまいたいらしい。これ以上自分は玲央さんのお守りを担いたくないというのが、視線からひしひしと伝わってくる。僕は眉を寄せて嫌悪感を示すことでしか対抗する術を知らない。しかし僕の抵抗が仙先輩には効かない事も判っているから、結局は無駄な行動である。無駄と判っていてもやってしまうのが人情だ。

「さっきも言った通り生徒会は忙しいんだよ」

 そう言って仙先輩は席を立ち、棚から一つの青いファイルを取り出し開いて机の上に置く。そしてロールペンケースを解いて万年筆を抜き、何かを書き始めた。

 仙先輩は万年筆愛好家で、書き物はボールペンではなく万年筆を用いている。あのロールペンケースの中に何本の万年筆が入っているのかは判らないが、今使っているものは以前見せて貰った、モンブランのマイスターシュテュック149だろうと思う。似たデザインのものも沢山存在すると聞くし、僕は万年筆に明るくないため果たして正解なのかは判然としないが、天冠にホワイトスターが窺えるからモンブランの万年筆であることは間違い無いだろう。

「何を書いているんですか?」

 見せらせたものは、文化祭の出し物参加リストだった。

 そこには仙先輩の達筆な筆で、神城玲央と原口直幸の文字が確りと書かれていた。


「――と言う訳で、僕は今年も文化祭をゆっくり楽しむことは出来そうに無いよ」

 文化祭の出し物への参加が決まった翌日、僕は二年一組の教室で前の席に座る坂本四郎さかもとしろうに愚痴を零した。

 一限目の現代社会は何とか乗り切ったが、十分後に行われる二限目の数学は計算問題を解くために頭を使うから難しいかもしれない、そんな事を思って机に突っ伏す。昨日の生徒会室での出来事を思い出すだけで頭痛がした。

「大変だな」

 それなのに坂本は横向きに椅子に腰掛けて、聞いているのかいないのか判らないような適当な返しをし、紙パックのイチゴミルクを飲んでいた。何だか僕は猛烈に恨めしく、腹立たしく感じた。

「なあ、それもう一つないの? 僕も飲みたい」

 無い無い自分の分しか買ってないよ、と坂本は右手をひらひらと揺らして最後の一口を思い切りじゅるりと吸った。せめて一口だけでもくれたらいいのに、なんて僕は遺憾の意を表するように坂本を睨む。益益憎たらしい。しかし僕の睨みは無視された。僕はそんなに眼力が無いのだろうか。

「はあ……嫌だなあ。でも玲央さんには逆らえないし仕方ないんだけどね。僕だけじゃなくて、命令されれば坂本だってきっと逆らえないよ。学校中の誰もが玲央さんの言いなりさ」

「そもそもお前だってあの一味の一員だろ」

「一味ィ? なんだその言い方は! 一緒にしないでくれよ」

「今みたいに愚痴愚痴言いつつ、何だかんだでお前はあの生徒会の人達といつも一緒じゃないか。直幸が生徒会役員だと勘違いしている連中も居るんじゃないか?」

「確かに……この間も三組の西野さんから生徒会への要望を託ったよ。結局は直接言ってくれって断ったけどね。でもさあ、一緒に居たくてそうしてる訳じゃないんだよ。お前も知ってるだろ? 玲央さんに下僕だ奴隷だと雑用をやらされてるんだよ」

 それでも一緒に騒動を起こしているんだから俺のような部外者にはお前も一味の一員さ――と言われて僕は項垂れた。

「数週間前だって玲央先輩と一緒になって、毎年恒例の道場破りをしていたじゃないか」

「僕はしてないよ! 付いて行っただけ」

「だから、外野からしたら付いて行っただけとか関係無いの。そりゃあ、実行犯は彼の神城玲央様なのは周知の事実さ。でも一緒に居るんだから、直幸も似たような立場にあるってこと」

「そういう誤解が問題なんだよなあ。無駄に恨みを買いたく無いのに」

 反論してはみたものの、坂本の言う事は尤もだと自分でも思う。昨年に引き続き、僕は玲央さんのお供をしたのだ。

 僕は今年の道場破りより、よりインパクトの強かった昨年の道場破りの事を思い出した。

 僕の下僕になるがいい――。

 馬車馬のように働け――。

 玲央さんに言われてから、僕は手を引かれる儘に各部活を回った。

 将棋部の次に向かったのはテニス部だった。校内に居るのだから、室内の部活に向かえばいいのに、何故態態外に出るのか、と疑問に思ったのを覚えている。

 玲央さんは素早く靴を履いて足早に昇降口を抜けて行き、僕は上履きを脱ぐのにもスニーカーを履くのにも手間取りもたつき、慌てて追いかけた。

 玲央さんに続いてフェンス内に入り、コート横に設えられたベンチに座って観戦したのだが、その時になって初めてフェンスの外に沢山の観客が居る事に気が付いた。玲央さんだけではなく、僕にも視線が向けられているようで恥ずかしくなり、肩を竦めて背中を丸めて小さくなって玲央さんを見た。

 早早に試合を開始している玲央さんは、テニスボールを高く真上に放り、勢い良く綺麗な弧を描いて左腕を振り下ろし、スパンと綺麗な音を響かせてサーブを決めた。相手選手――恐らく部長――は動く事も出来ずに、横を通過するボールを見送ったのだ。

 二度目のサーブも決まる。三球目で漸く相手は打ち返し、暫くラリーを続けたが、枠の角に寄せられたボールに追い付けずに結局玲央さんにポイントを許してしまった。

 そのラリーの中で、漸く僕は玲央さんがサウスポーだと気付く。サーブの際に左腕を下ろしているところを見ているというのに、その時はボールの行方にばかり目が行き、利き手にまで意識が回らなかったのだ。

 フェンスの外から声援が聞こえる。それはテニス部を応援する声よりも、玲央さんを応援する声の方が多かった。思えば、将棋部での対戦の時もそうだった。きっと将棋部以前の対戦でも玲央さんへの声援の方が多かったに違いない。

 観戦者は野次馬が殆んどなのだから、道場破りを仕掛けた方を囃し立てるのは詮方無いのかもしれない。勝手にやって来て、荒らすだけ荒らして去っていく――嵐のような存在と出来事に直面してしまった部長達に僕は同情せざるを得無かった。

 テニス部部長を攻略し、次に向かったのはサッカー部だった。

「僕がキーパー?」

「シュートは打たせないから心配御無用だ! 君はそこに立っているだけでいい」

 体操服に着替える暇も無く、僕はブレザー服の儘サッカーゴールの前に立たされた。シュートを打たせないと言っていたが、二人対十一人の試合なんてどう考えても無理がある。玲央さん曰く、ハンディキャップなのだそうだ。

 ――いやいやいや。

 怖い。この人はどうかしている。

 僕は不安で額にじんわりとかいた汗を手の甲で拭った。

 正式なルールのように前後半合わせて九十分の試合は時間の無駄だからと、三点先取したチームが勝利というルールになったようだ。今までのスポーツ系の競技は全て三点先取ルールが適応されているらしい。

 玲央さんがボールを蹴り試合は開始した。そのまま素早く敵陣に乗り込み、立ち塞がる守備の壁に切り込んで行く様は、動きの無駄を微塵も感じさせなかった。ゴール前から玲央さんの背中を見て、その疾走感に鼓動が跳ねるのを感じた。

「……凄い」

 きっとこの高揚感は、グラウンドの横から声援を送る野次馬共には到底感じられないだろう。後ろからのみ感受する事を許された興奮に僕は戦慄した。

 こちらのゴール後は相手ボールからの開始になるが、玲央さんは一瞬でそれを奪い直ぐにゴールを決め、あっと言う間に三点先取してしまった。そして当然ながら、有言実行の如くシュートを打たれる事は無かった。僕は本当にゴールの前に突っ立っていただけになってしまったのだ。

 玲央さんが僕を連れ回したのは人数合わせのためだったのかもしれない。そもそも規定人数に達していないのだから、人数合わせも何も無いのかもしれないが、最低限のポジション合わせにはなったようだ。

 この後も玲央さんは一敗もする事無く、三日間に渡り行われた道場破りは幕を下した。

「わはははは! どうだ! これで新入生も僕の素晴らしさに気付いただろう!」

 玲央さんの狙いは、自分の力の誇示と、認知度の向上にあったのだそうだ。この方法が一番手っ取り早いと踏んだらしい。少なくとも僕も含め観戦した人人は皆、彼の並並ならぬ能力と常識を逸脱した言動を体感し戦慄したのは間違いないだろう。

 ――それで生徒会役員選挙が狙いだと言っていた訳か。

 玲央さんが僕をこの道場破り騒動に駆り出したのは、僕の質問に対する答えを教えてくれるのも担っていたようである。確かに口で説明を受けるより手っ取り早い。

「はあ……昨年のは僕が声を掛けてしまったという落ち度があったから仕方無いと思うよ。でもまさか今年も付き合わされるとはなあ。隆弘先輩がやると思っていたのに……。まあ部活側は昨年の事があったから警戒して対策を練っていたみたいだし、軽視していたのは僕だけだったのかもしれないけど」

「ああ、うちの部長なんて年明け辺りから『打倒! 神城玲央』なんて幕まで部室に張っていたぞ」

 坂本は卓球部員である。

「結局今年も俺達は負けたけどね。あんなに綺麗なスマッシュを打たれちゃ、素直に負けを認めるしかないよ。一層の事、卓球部に入部してくれないかなあ。あの人の実力ならインターハイ優勝も夢じゃないよ、きっと」

「あ、そうそう。入部して欲しいと思っている部活は結構あるみたいだよ。全て袖にしているみたいだけどね。でも僕は、喩えあの人が入部しても上手くいかないと思うなあ。チームワークというものを知らないし、ルールだってちっとも覚えやしない。ポイントを取れば良いとしか思っていないんだ」

「それで良いじゃないか」

「駄目駄目。ルールを覚えないって事は、何が反則なのか判らないって事だよ。下手したら怪我人が出る」

 ああ、なるほど――と坂本は手を打ち頷いた。

「どうしてあの人はあんなに超人なんだろうなあ。それに結構な美男子じゃないか? 目鼻立ちも確りしていて、整った顔をしていると思うんだよね。父親が日本人で、母親がフランス人のハーフだからかな。何れにせよ日本人離れした風貌だよね」

 この情報は仙先輩から頂戴した。 

「しかも成績優秀らしいよ。国語は苦手みたいだけど。実家は大層な資産家だというだろう。眉目秀麗、文武両道、富貴栄華……言葉にしてみれば非の打ち所がない。しかしどういう人生を歩んだらああいう奇人になってしまうんだろう」

 僕は改めて玲央さんの事を考えて、勿体無いよね、と結んだ。

 キーンコーンカーンコーン――。

 二限目を告げるチャイムが鳴り、坂本は黒板を向くように体を戻した。僕は数学の教科書を机から取り出し憂鬱な気持ちを引き摺った儘授業に挑んだ。


「じゃあ、僕はこれから玲央さんの所に行かないといけないから、もう行くね」

「おう。精精頑張れよ」

 六限目を終え、僕は坂本に別れを告げて教室を後にした。暗然たる気持ちは益益増長していたが、固辞する訳にもいかず肩を落として重い足取りで生徒会室を目指した。生徒会室に向かう道中に何度溜息吐いたか数えもしない。

 心なしか開ける引き戸も重かった。

 玲央さんは既に生徒会室に来ており、茶色の革製の大きな椅子に浅く腰掛けて、背凭れに沈むようにして座り上を向いて瞳を閉じていた。

 ――眠ってる?

 僕はいそいそと自分の定位置にリュックを下ろして座り、玲央さん、と呼びかけた。すると、んー? と鼻から声を出して気の抜けたような返事をくれた。どうやら寝ていた訳では無いらしい。

「あの、文化祭の揮毫パフォーマンスについてなんですけど、僕は何をすればいいんでしょうか」

「そんな事は自分で考えなさい」

「えっ。……うーん。そうですねえ。あ、そういえば大きな紙と大きな筆はどうするんですか?」

「そんなもの書道部の連中に用意させればいいだろ」

「ああ、それは駄目だよ玲央君」

 僕のでも、玲央さんのでも無い声が突然後方から聞こえて、僕は驚いて椅子から転げ落ちそうになった。

「って勝敏じゃないか。お前いつから居たんだ? 全く気配無かったぞ」

 玲央さんが目を丸くして、背凭れに預けていた背中を勢いよく起こし机に両手を着いた。玲央さんの激しい挙動に、椅子がキイと鳴く。

「ずっと居たよ」

 入り口正面に設置された棚の前に、ぼさぼさの髪をわしゃわしゃと掻きながらこちらを見て、にこりと目を細めている男が居た。窓から差し込む日差しに茶色い髪の毛が透けて、輪郭が暈けている。

 恐らく玲央さんよりも先に、この生徒会室へと入っている筈なのに誰も全く気が付かなかった。

 観音開き式の棚の扉が少しだけ開いている。どうやら自席の椅子を態態そこに持って行き、棚から地図を取り出して見ていたようだ。

 勝敏先輩には放浪癖があるそうで、地図を眺めるのが趣味だと言っていたから、今日も次の旅行計画を練っていたのだろう。棚の中に大量に収められた地図の山の大半は勝敏先輩の私物だという。少しずつ持ち込み、いつの間にか一角を占領するまでの量になっていたのだそうだ。

「あ、お疲れ様です勝敏先輩。ところで何故書道部は駄目なんですか?」

「ん? ああ、書道部には玲央君が必要としているような大筆は無いんだって。仙君から話しを聞いて、書道部部長に聞いてみたんだ。ほら、僕のクラスの学級委員長は書道部部長だから」

 勝敏先輩はのんびりとした口調で理由を話した。

 ほら、と言われても、他人に興味を示さない玲央さんは、きっと勝敏先輩の学級委員長の部活動なんて知らないだろう。そもそも学級委員長が誰なのかも知らないと思う。勿論僕だって知る由も無い。

「それじゃあ親父にでも買わせるか」

「書道紙も忘れずにね」

 随分簡単に言うんだな、と二人の会話を聞いて呆れてしまった。僕の出る幕は無いらしい。

「直幸君はチラシ作りでもしたら? 掲示板に貼ったり、当日配布したりするのに必要でしょ? 玲央君の大舞台だもん。派手に宣伝しなきゃね。何だったら僕も手伝ってもいいし」

「勝敏君は生徒会の仕事があるから駄目だよ」

 がらがらと生徒会室の引き戸が開き、中に入りながら仙先輩が言った。後ろには隆弘先輩も居る。

「まったく、勝手に玲央さんのやる事に関わっちゃ駄目じゃないか。勝敏君は生徒会会計役なんだよ。文化祭の経費の計算や管理、発注をするのは君なんだ。直幸君を手伝っている暇なんか無いだろう」

「仙君、隆弘君、お疲れ様。そうだね。僕には僕の仕事があるね。そういう事だから、直幸君頑張ってね」

「勝敏君はどうも緊張感に欠けるなあ」

 仙先輩は自席に着きながら溜息吐く。

「ははは。ごめんね」

「まあまあ、仙もそう怒るなよ。勝敏君は良かれと思って言ったんだろうし、直幸君が大変なのは事実じゃないか」

 隆弘先輩が鞄から紙の束を取り出し、勝敏先輩に渡した。勝敏先輩はそれを上から下へと首ごと視線を下げて見てから、ありがとうと言った。

 ――あれは何だろう。

 文化祭は毎年七月の第二金曜日に開催される。残された日にちはそう多くない。

「玲央君は何時にやるの? 時間決めた?」

「そういえば決めてなかったな。よし、午後一時にしよう。今決めた」

「ええっと……午後一時の枠、と」

 先程隆弘先輩から受け取った紙に勝敏先輩が書き留めている。文化祭に関する書類だったようだ。会計役だからきっと経費などの仔細が書かれているのだろう。

「よし、善は急げだ! 僕は筆を探しに行くぞ! 直幸お前もだ!」

 言うなり玲央さんは立ち上がり、颯爽と生徒会室を出て行った。

「え! お前もって? 僕も一緒にって事ですか? ちょっと玲央さーん!」

 僕は慌ててリュックを背負い、大股で歩く玲央さんを小走りで追い掛けた。

「玲央さん、早いです! 待ってください!」

「遅い! 僕は誰よりも早く行動するんだ! 愚図愚図せずに付いてきなさい!」

「ひえええ」

 電車で二つ隣の駅の近くにある書道専門店に行ったが、玲央さんはあれでもないこれでもないと言い、店主と何やら話しをしている。僕はどうせ付き添いだからと、入り口近くに置かれた筆を見ながら待っていたため話の内容は聞き取れなかった。気に入ったものは見付からなかったようで、結局何も買わずに店を出た。

「他のお店も見てみますか? 書道専門店って他に何処があるのかなあ。ちょっと待ってください。今検索しますので」

 僕がズボンのポケットからスマートフォンを取り出そうとするのを玲央さんは制して、もういいんだと呟く。夕日が玲央さんの顔を照らしていて表情がよく見えない。僕は、でも……と返して、ズボンのポケットに入れた手を抜いた。

「あそこは親父の馴染みの店なんだ。さっき特大で特上のものを発注するよう命じたからもういいよ」

 店主と話していたのはそれか。

「お父様は書道をなさるのですか?」

「知らない。でもあそこの店主が家を出入りしていたし、親父は蒐集癖があるから何かしら買っていたんじゃないのかな。硯とか。ああ、そういえば家の蔵にも大筆があったかもしれないな。そっちを先に当たれば良かったか。……いや、親父のより良い物を使いたいしお下がりなんて御免だから丁度良かったな」

「ええ! 蔵? 倉庫とかではなく、土壁で出来た、昔のお屋敷にあるような土蔵ですか?」

「そうだよ。五つある」

「五つも! す、凄いですね……流石です」

 実際に土蔵を所有している人物を僕は初めて見た。金持ちなのは知っていたが、想像を遥かに超える程の大金持ちだったようだ。玲央さんの全てが僕の規格外だ。だからあの人の事を奇人だ破天荒だと咎めてしまうのだろう。何しろ僕の常識外の世界を生きている人なんだから。

 玲央さんは、帰ると言ってさっさとこの場を去ってしまった。僕も帰ろうと駅へと向かった。


 七月十一日木曜日午後四時、文化祭前日、僕は生徒会室で叫び声を上げ、目を丸くして口を大きく開けた。

「もう一度訊きますよ! 道具は当日じゃないと届かないんですか?」

「そうだよ」

 玲央さんは勝敏先輩と将棋を指しながら、僕の方を見向きもせずに悠然と答える。何故今この時間に将棋なんぞを指しているんだと僕は無性に腹が立った。文化祭は明日だぞ。しかしそれよりも、筆や紙などの道具一式が届かないという事実を上手く受け止めきれずに焦燥感を露わにする。

「え、何で? 何で当日なんですか? せめて前日には準備を終えていたかったのに……これじゃあ明日はギリギリになって慌てちゃうじゃないですかあ!」

「前日に届いたら面白くないじゃないか」

「面白くない? 何が?」

「僕だって、どんな筆がくるのか知らないんだ。全部親父に投げたからな。だから当日までのお楽しみってこと。その方が面白いだろう」

「はあ、そういうものなんですか」

 玲央さんの考えそうな事だなと思った僕は随分と玲央さんに慣れてきているようだ。いや、毒されていると表現した方が正しいかもしれない。

 道具が揃わないという事は、今日はもう何もする事が無いと言う事である。ここに居ても仕方が無いと思い、僕は肩を落として帰宅した。

 そして翌日――。

 七月十二日金曜日、快晴。

 遂に文化祭当日、僕は独りで裏門の前で、トラックはまだ来ないのかと首を伸ばし額に手を当てて道路を見回した。

 揮毫パフォーマンスのブースは校庭に設けた。校庭の土で字が歪まぬよう、きちんと木の板を敷き、その上に特大のブルーシートを被せた。不用意に観客が近付いてはいけないと、ブルーシートの四隅に三角コーンを置き、間にロープを張り囲いを作った。後は玲央さんが発注した道具を待つばかりである。準備万端だ。

 それなのに肝心の道具が届かない。

「あわわわわ。もう十二時半だ……まだかな……ああ、こんな事なら自分で手配すれば良かった……」

 玲央さんは自分で手配しておいて、間に合わなかったら僕の所為にするに決まっている。そして仙先輩からも、玲央さんに任せて自分で動かなかった事を責められるんだ。怒られたくない。でも今更どうする事も出来無いし、僕は、ああああと小さく叫び、頭を抱えてしゃがみ込み蹲った。

 すると、ブロロロロ、と車のエンジン音が聞こえてきて顔を上げる。外を覗くようにひょっこりと首を伸ばすと、白い小さなトラックが見えた。

「きた!」

 トラックを誘導しようと大きく手を振る。しかし気付いて貰えなかったのか、トラックは僕を無視して門を抜け、そのまま校庭の方に走って行ってしまった。

「え、ちょ、え? 何で? ああっ! 待って! 待ってくださーい!」

 僕は手を振りながら急いでトラックを追いかける。

 おーい。おーい。

 待ってー。

 おーい。

 叫ぶがトラックはどんどん進んでいく。

 ――拙い!

 これは絶対に僕の責任にされてしまう。

 全力疾走して漸くトラックに追い付きそうなところまで来た。

 すると突然トラックはキキイッと大きなブレーキ音を発して急停車し、僕は全力疾走の勢いのままトラックにぶつかってしまった。どん、と鈍い音が鳴る。これではまるで事故である。しかし人からトラックにぶつかって行った格好になる訳だから、この人身事故は僕に罪があるのかもしれない。僕は痛みを堪えて慌てて運転席へと向かう。

「す、すみませ……れれれ玲央さん!」

「あ! 今僕のトラックにぶつかったのはお前だったんだな! この愚か者! 傷付いたらどうしてくれる! それにれれれってお前はれれれのおじさんか! お前は本当に馬鹿だな!」

 僕は驚きの余り舌を噛み、上手く言葉を紡げなかった事を糾弾され、挙句の果てには数か月前の蟻以下事件の事まで蒸し返されて酷く落胆した。全身打撲で体は痛いし馬鹿にされるしで散散である。

 元はと言えば玲央さんが、こんなギリギリに到着するように発注したのが悪い。しかも何だってこのトラックは勝手に校内へ入っていったんだ。急ブレーキだって危ないだろう! 僕は何も悪くないのに、全て玲央さんが悪いのに、と頬を膨らませたが、当然声には出せない。

 こんな事を玲央さんに言ったら、百倍、いいや千倍返しを受けてもっと酷い目に遭う事は火を見るより明らかだ。

 ――ん?

 袴姿の玲央さんを見て、はたと気付く。

 ――玲央さんは運転席から降りてこなかったか?

「あれ? 運転していたのは……玲央さん?」

「ふん! 何を言っているんだお前は。そんなの当たり前だろう! 僕が運転しなくて誰が運転するというのだ、まったく! 呆けも大概にしろ」

 馬鹿の次は呆けが来てしまった。本当に酷い言われようだ。

「え、だって……何で玲央さんが運転してるんですか? え? 無免許運転?」

「お前は本当に愚かだな……。この僕が無免許運転なんてするか。僕は四月二日生まれでもう十八なんだから運転免許くらい持っているに決まっているだろう」

「でも在学中に免許を取るのは校則違反じゃ……」

 おずおずと上目遣いで質すと玲央さんは、僕にはそんなもの関係ないよ、と言って踵を返しトラックから大きな長方形の桐箱を運び出そうとした。揮毫パフォーマンス用の大筆が入っているであろうその桐箱は、僕の身長くらいあるのではないかという程に大きく、とても重そうだった。

 玲央さんに片側を持つように指示されて、校庭に用意された揮毫パフォーマンスブースまで二人で運んだ。玲央さんがこのブース横までトラックを乗り付けてくれていて良かった。駐車場からここまで運ぶのは骨が折れる。

 玲央さんが桐箱を開封している間に、残りの道具――紙と文鎮、バケツ、墨汁を下ろした。

 当初墨を磨ってから書くと玲央さんは言っていた。しかしよくよく話しを聞くと、磨る作業を僕にやらせようとしている事が判明し、僕は慌てた。大筆で書くには大量の墨が必要になる筈で、その量を磨るなんて、いくらなんでも無理があると抗議したのだ。隆弘先輩と勝敏先輩も僕の反対運動に参加してくれて、僕の意見はあっさりと通り、硯と墨ではなくバケツと墨汁の発注へと変更されたのだ。このあっさりと通ったというのが重要で、あと少し遅れればキャンセル出来ずに強行突破されていたに違いない。

 仙先輩も玲央さんに、やめた方がいいと助言してくれたようで、これが効いたのかもしれない。

「おお! 中中に立派ではないか!」

「わっ。大きいですねえ。玲央さん、紙を敷くのを手伝ってください。大き過ぎて僕一人じゃ無理ですよお」

「そんな事も独りで出来無いなんてだらしがないぞ!」

「はいはいすみません。そっちを持って引いてください。あ、角をそこにある文鎮で留めてくださいね」

 紙は僕の身長程の高さで、その約倍の長さがある長方形のものだった。文章でも書くつもりなのだろうか。

 校舎に取り付けられた時計を見ると、時刻は午後十二時五十分を指していた。観客も集まってきている。というか、人数はかなり多く、準備風景も楽しむようにスマートフォンで写真を撮ったりしていた。玲央さんだけならまだしも、僕まで撮られているというのが何だか照れ臭くて、僕は眉を下げて顎を引き体を丸めて小さくなった。

 早くしなければと焦る程、手汗がじわりと滲んで文鎮を落としてしまいそうになる。

 ふと玲央さんを見た。

 ――うわ、暴れている。

 彼はバケツにどぼどぼと墨汁を注ぎ、どぷりと大筆を突っ込んでいた。動作がいちいち大きくて、既に墨汁がそこかしこに飛び散っている。下し立ての玲央さんの袴の上衣にまで墨汁が拡散しており、頬にもたっぷりと付着していた。僕のジャージも汚れてしまった。しかしそれは想定内のため問題無い。玲央さんの事だから、大暴れするに決まっているから、文化祭後に捨ててもいいように草臥れた襤褸襤褸のジャージを用意したのだ。

「さあさあ皆様お立会いこの僕――神城玲央様が今から豪快に書をしたためます! とくとご覧あれ!」

 玲央さんの大きくよく通る声で場は一瞬静かになり、そして直ぐに大きな歓声と拍手が上がった。

 それを合図に玲央さんはもう一度バケツに大筆を突っ込む。大きく腕を振り、頭上で大筆を回転させてから、ビタンと勢いよく下ろした。そしてそのまま、ずずずと線を伸ばす。

 大きな紙に大きな文字を書くため、玲央さんの動きはより一層大きくなる。動きが大胆になればなる程、歓声も大きくなった。

 僕は玲央さんの移動する位置に合わせるように墨汁の入ったバケツを運んだ。これが僕の役目だ。お陰で髪も顔も体も、全身墨汁まみれである。

 線を一本引いてはバケツに大筆を突っ込み墨を足すから、墨汁は益益飛散していく。前方の観客にも飛び散っている筈だが、そんな事は最早誰も気にしないとでも言わんばかりの熱狂ぶりだ。

 冒頭の宣言通り、玲央さんの動きは豪快極まり大筆を動かす度に、わあと歓声が沸き起こる。その歓声は、脇役の僕にも向けられているように感じ甚く感動した。

 玲央さんもとても楽しそうに、わははははと大声で笑っている。

 観客と玲央さんと僕は、一体となって作品を仕上げていっているようだった。

「これで最後だあ!」

 玲央さんは大きく叫んでから、大筆の軸を握り直し、毛先を頭上に振り上げて、勢いよく下ろして一気に書き上げた。そして最後の文字の隣に大筆を投げ捨て、右手を天に突き上げた。

 地面を震わせる程の大きな歓声が上がる。

 その時、直幸君そっち持って、と声を掛けられて振り向くと、いつの間にか敷地内に来ていた隆弘先輩に紙の左角を指され、僕は指示に従った。

 ――ああ、なるほど。

 隆弘先輩が右角を持ち上げたから、彼が何をしようとしているのか判った。僕も隆弘先輩の動きに合わせるように左角を持ち上げ紙を立たせ、玲央さんが書いた文字を正面に向けた。玲央さんが紙の前に立つと、先程の歓声に合わせて拍手喝采となる。

「……はは」

 その大音量に、僕の心臓はどくどくと全身に血液を送り込むように高鳴り、感極まった僕は目頭がじんと熱くなるのを感じた。


「おはようございます」

 翌日、土曜日だというのに登校を命じられていた僕は生徒会室を訪ねた。

「遅い!」

 玲央さんが机の上に組んだ足を乗せて、茶色の革製の大きな椅子に沈み腕を組んで僕を睨んでいる。生徒会室には既に仙先輩、隆弘先輩、勝敏先輩が来ていて、僕が一番最後だったようだ。

「待ち草臥れたぞ! 馬鹿者!」

「すみません」

「よし、直幸も揃った事だし、始めるか!」

 玲央さんはパンッと一度大きく手を打つ。

「直幸と隆弘君でそこの箱から額縁を出しなさい」

 玲央さんが指した先には大きな箱があり、僕と隆弘先輩は重い蓋を開けた。中身の額縁は、昨日の玲央さんの渾身の作品を入れるものだと気付いた僕は、二つ並べた長机の上に置いておいた作品を隆弘先輩と一緒に額の中に収めた。

「はい次は飾る!」

 言われる儘に僕と隆弘先輩は動く。

 仙先輩はいつもの仏頂面で腕を組み椅子に座っていて、勝敏先輩はにこにこと笑んで「凄いねえ」なんて言いながら横に立っていた。手伝う気は無いらしい。

 下僕二人は文句も言わずにせっせと働いていて、こういうところが駄目なんだよな、なんて僕は改めて自分の情けなさを感じ白目を剥いた。

 玲央さんの指定場所は、彼の席の後ろの壁だった。

「おお! 良い感じじゃないか! どうだ! これが僕だ!」

 玲央さんは椅子から立ち上がり、大きく腕を開いて机に手を着く。

 

『絶対王者 唯我独尊』


 達筆と言うべきか、独創的と言うべきか、豪傑そのもののような大胆な筆振りで書かれたその文字の前に立つ、神城玲央様は神神しく、文字の意味に違わぬ、とても偉大な人物に見えた。

 僕は息を飲み思わず拍手を送る。

 すると玲央さんは大満足とでも言いたげに、えへんと威張るように胸を張り腰に手を当てた。

 僕は思い出す。

 せ、生徒会会長――。

 あの日、玲央さんを呼び止めて。

 あ、あのっ――。

 生徒会役員選挙が狙いって――。

 どういう意味ですか――。

 言葉を交わした時の事を。

 全てを圧倒させるような態度と言動に、僕は惹かれて、声を掛けずにはいられなかったのだ。

 ――僕は……僕は。

 彼に、憧れてしまったんだ。

 ――嗚呼、僕はこの人には一生逆らえないし、一生付いて行ってしまうんだ。

 横で僕の様子を見ていたであろう隆弘先輩が、

「だから君は自ら望んで下僕になったんだ、と言ったんだよ」

 と言って笑った。


 ――了――

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