126話.空間神クロム

「ルームが切り札ねぇ……」


 カオスのアドバイスを聞いたクロムは、困惑の表情を浮かべながらぼそっと言葉を漏らした。

色々と検証した結果やカオスの話からその通りなのだということを理解できているクロムだが、現実としてどのような使い方をするべきなのかが思いつかないのであった。


「俺しか管理できない空間はというのは確かにすごくポイントになる要素だな。

 それに元々存在している次元とは別にその狭間に生成する空間というのも次元の扱いが俺より上手いであろうやつとの闘いではかなりのキーポイントになるだろうね……

 でも実際そんな感じで使うかは実戦の中での閃きだよりになるしかないかもな……」


 ルームをどのように使うべきなのかの妙案が特に思いつかないクロムは、それを先送りにしつつ目の前の問題と向き合うこととした。

この次元牢から脱出しないことには、その先どうするも何もないのだから。


 クロムはカオスの言葉を思い起こす、この次元牢は本質的にはルームと同じものであり、空間神のみが扱うことができる特殊な空間であるということを。

そして、今のクロムはカオスを取り込んだことにより空間神としての側面ももった存在である。


「ルームは俺が明確なイメージを持って創ろうと思えば創れる、消すときも消したいと強く思えば消える……

 となると、この次元牢も……」


 クロムはこの次元牢を消し去ろうとしたが、ふと嫌な予感が頭をよぎったために消すのを辞めた。

次元の狭間にある空間の中でその空間を削除したら、自分は次元の狭間に取り残されることになるのではないかと。

そこでクロムはこの次元牢を消し去るわけではなく、ルームに存在する自分の部屋へとつながる出入口が設置されている空間へと書き換えることにした。


 自分の部屋のことを思い浮かべ、仲間たちのことを思い浮かべ……

その場につながる扉の存在を強く心を描く。

すると、空間全体が淡い光を放ちクロムの目の前には真っ黒な大きな門が現れた。

そして、周りを見渡したクロムは先ほどとは違って真っ白な空間に大きな黒い門だけが存在する空間に変わったことを確認した。


「変化はしたな。 門もできた……

 あとはこの門がルームの自室につながっているかの確認をするだけだな」


 クロムは自分で変化させた内容が意図した通りのものであったのかの確認をするために目の前にある門の扉に手をかけた。

不安な気持ちを押し隠しつつ開いた門をくぐったクロムは――

門をくぐり抜けたたクロムが目にした光景は――

見覚えのあるものであった。


「ここは…… 俺の部屋だな」


 門をくぐった先はクロムの部屋の中であった。

見慣れた光景の中に真っ黒な門があるという異様な光景だ。


「何はともあれ…… 成功したってことか?」


 クロムがそう呟くとカオスの声が頭の中で響いた。


『さすがだね♪ 見事に空間術を極めて、僕の試練を突破したね!』


「あんまりそんな実感はないがな」


『知識の問題、意識の持ち方の問題、そんな感じのものを鍛える試練ではあったからね、実感としては湧きにくいのも仕方ないかもね!

 でもこれで君は名実とも空間神となったわけだよ♪』


「別にそんなものになりたいわけじゃ――」


『名は体を表す、名前というものは力を司り、そして覚悟を固めたことの意思表示をするものでもある。

 しっかりと受け止めてね♪』


 カオスのふざけたり、真面目になったりする口調の変化に若干のイラつきを感じつつも、クロムは空間神であることを受け入れる必要があることを理解するのだった。

それが創造神と相対するための最初の一歩になるということを。

そして空間神であることを自任し、自覚したクロムが最初に行ったことは――


「ただいま、アキナ!」


「く、クロム!!??? おかえり!!!!!」


 最愛の人であるアキナに帰還の報告をすることであった。

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