109話.悪魔王のプライド

 話の流れと勢いで1対1の勝負を受けたことをサタンは軽はずみな言動であったと少し後悔していた。

しかし立場や面子めんつからそのようなことを態度に示すことはできず、毅然きぜんとした姿で冷静さを装うよそおうのであった。


「場所は…… ここでいいな?」


「あぁ、ここなら派手にやっても地面は俺が凍らせた海だからな。

 無駄な被害もでにくいここで始めよう」


 はらをくくったサタンはクロムの視界に収まるか収まらないかというほどの上空まで飛翔し、そこから膨大な数の隕石をクロム目掛けて降り注がせた。

これは先ほど悪魔の軍勢を一掃したクロムへの意趣返しいしゅがえしでもあった。


「ふ~ん、そういう性格してるのね。

 負けず嫌いな奴は嫌いじゃないし、いい攻撃だとは思うが……」


 クロムが最初にサタンと対峙したその位置から動くことはなかった。

そのクロム(この場に居る全員でもあるが)に向けて無数の隕石が落下する。

このままでは先ほどのクロムが放った隕石と同様の惨状さんじょうが繰り広げられると思われた中、カルロが苦笑しながら呟くつぶやくのであった。


「…… すげー隕石だけどさ、これ兄貴には無意味だよな」


 そんなカルロの呟きを聞き取った者がいた、ベルゼブブである。

カルロの発言に文句を言いたい彼であったが、サタンが放った隕石への防御行動をとらなければならない状況と先ほど先走った結果サタンからお叱りを受けたことが彼に行動するのを躊躇ちゅうちょさせたのだった。


 そして、その躊躇したわずかな時間のうちに異常なことが発生し始めていた。

彼らから約5メートルほど上空の空間にて全ての隕石が消滅しているのだ。

まるでその場所に透明で巨大な掃除機でもあるかの如くごとく

 ベルゼブブ、ベルフェゴール、アスモデウスの3悪魔は目の前で起こっている異常な状況に理解できずにただ立ち竦むたちすくむことしかできなかった。

対するアキナ、カルロ、ビネガはただただ苦笑するのであった。


「あはは……、想像通りとはいえ……

 やっぱ兄貴は化け物すぎるでしょ……」


「化け物は酷いけど……

 でも間違ってはいないんだよなぁ」


呆れてあきれてはしまいますが、あるじらしいとは思いますよ」


「おーい、お三方おさんかた

 すぐ近くにいるんだから全部聞こえてますからね?」


 自分のすぐ後ろにいる仲間たちからの苦笑混じりの呆れ声を聞いたクロムは、その声で苦笑することとなるのだった。


 隕石を降り注がせた張本人であるサタン、彼もこの攻撃でクロムを倒せるとは思っていなかった。

しかしまさか無傷どころか被弾そのものをしないとは夢にも考えていなかった。


「な、なにが起きているのだ……」


 驚きと動揺が隠せない表情のまま地上まで降りてきたサタンにクロムは追い打ちとなる言葉をかけるのだった。


「部下に空間術使いがいたのに想像もできないのか?

 まぁバロンはまだ未熟だったし仕方ないかもしれないけどさ。

 空間術使い相手に視認できる物理攻撃なんて届くわけないじゃん、まぁ最近じゃ視認できない攻撃でもまず届かないと思うけどさ」


「は??」


「空間術を一定以上に極める、その意味を考えなよ。

 好きな場所・好きな範囲の空間をどのようにでも操作・変化できるんだよ

 亜空間につなげることもできるし、その気になればある程度時間軸すら操作できる」


「……」


「空間術使いは空間術使い以外では倒せない、これが最近俺が出した結論だよ。

 これでもまだ続ける?

 続けるなら…… 残念だけど容赦なく消し去ることになるけどね」


 圧倒的すぎる、次元すら違いすぎるほどの力の差を見せつけられたサタン。

そしてそこに最後通告をするクロム。

苦悩するサタンはついにある決断をすることとなった。


「俺では絶対勝てないことはよくわかった。

 しかし俺とて悪魔王であり、邪神様からの進軍と侵略の命令を受理した者だ!

 …… 虫のいい話だとは思うが俺の命とこれ以降悪魔はこの地に手を出さないという盟約めいやくを結ぶということで手打ちとできないだろうか」


「さすがは王というところか。

 都市国家ミレストンの王として、悪魔王サタンの申し入れを受理しよう」


「クロム王よ、ありがとな

 ベルゼブブ、ベルフェゴール、アスモデウスよ。

 お前たちはこれより帰還し、3人で国を分割統治せよ。

 そして、今ここで俺に誓え! 金輪際こんりんざいこの大陸に進軍しないことを!!」


 名を呼ばれた3悪魔たちは悪魔王に跪きひざまずき、そして進軍しないことを誓うのだった。

その誓いを満足そうに聞いたサタンは自らの腕で胸を貫き、血に塗れた右手の中にはドクンドクンと脈打つものが握られていた。


「この心臓をうけとってくれ、これが盟約の証めいやくのあかしだ」


 クロムがそれを受け取るとサタンはその場に崩れ落ちた。

そして残された3悪魔はサタンの亡骸を丁寧に抱えたのち、サタンの最後の命令通りに帰還を始めるのであった。


「さすがは悪魔王…… 

 その気高さけだかさは俺が引き継がせてもらうよ」


 クロムはサタンから王としての資質のようなものを学ばせてもらったことを嬉しく思いつつ、かねてより予想していた嫌な予感が現実味を帯びてきていることも実感しているのだった。


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