106話.悪魔の軍勢

 突如自分たちに降りかかった現象に理解が追い付かず混乱を極めていた。

なにせ自分たちが獲物を蹂躙するための狩場が視界に入り、全軍のテンションが上がり始めていたところに、無数の隕石の襲撃を受けたためだった。

もちろん中には冷静さを失わなかったものもいたのだが、隕石の襲撃に続き突如自分たちの目の前の海が凍りだしたのだから動揺せずにはいられなかった。


「バカものどもめ!!!

 この程度のことで狼狽えるうろたえるでないわ!!」


 大混乱の悪魔たちの中、一人の悪魔の怒号が響いた。

その怒号により先ほどのまでの混乱ぶりが嘘のように治まってゆくのであった。


「サタン様、申し訳ございません。

 この者たちには厳しく指導しておきますので……」


「ベルゼブブか……

 まぁよい、今は裏切り者のバロンの尻ふきをしなくてはならぬしな」


「ありがとうございます、サタン様。

 お前ら!!!

 偉大なるサタン様の温情にお応えするためにも奮戦せよ!!

 全軍突撃開始!!!!」


 ベルゼブブと呼ばれた悪魔の号令により悪魔たちは血相を変えてミレストンに向けて突撃を開始したのであった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 そんな悪魔たちの事情は知る由もないクロムたち。

クロムたちの視点ではクロムの先制攻撃を受けて激怒した悪魔たちが一斉に突撃を開始したように見えていた。


「兄貴の思惑通りっていうのはシャクだけど……

 確かに美味しいところを独り占めさせるわけにはいかないね!!!」


 見渡す限りの光景が突撃してくる悪魔たちという異常な状態にあるカルロたちであったが、一切動揺することもなく悪魔たちを迎撃するべく動き始める。

最初に動いたのはビネガであり、得意の火系の魔術を出し惜しみなしで放つことを決意していた。


「最初は我ですね。

 とりあえず……

 視界に映るすべての悪魔を消し炭にします!」


 ビネガが前方に両手を突き出すと、そこには膨大な熱量の火球が無数に浮遊することとなった。

1つ1つの火球がバスケットボールほどの大きさになったころ、ビネガは無数の火球を一斉に悪魔目掛けて放つのだった。

一斉に悪魔たちを襲い掛かった火球たちは、悪魔たちに抵抗する時間を与える間もなく一気に消し炭へと変えてゆくのであった。


 しかし悪魔たちの数は膨大であり、強者や賢者は周囲の悪魔たちを盾にするなどしてその火球から身を守るのであった。

そして彼らが今度は反撃だとばかりに勢いよく突撃を開始し始めたとき、彼らの大半は姿を氷像へと変えられるのであった。


「さすがはビネガ、すげー攻撃だったけど……

 まだまだ甘いね」


 その光景を作り出した張本人が楽し気にそういうのであった。


「はぁ……、主を基準に考えられても困りますけどね……

 こんな非常識な光景を作り出せるのはこの世界に主のみですよ、自分が異常であることを自覚してください!」


「ほんとだよね!

 クロムはいつもいつも無茶ばっかりするから私本当に心配なんだからね……」


「あははは……

 でもまぁこれで雑魚はほぼ片付いて、氷像にならなかったあいつらは……

 相当強そうだな」


 クロムがそういうと氷像の影より何人かが姿を現し、そして後方にて鎮座していた男の元に集まり始めるのであった。


「ほぉ、まさか人間風情にこれほどのことができるやつがいたとはな」


「きっとあいつがバロンを懐柔かいじゅうして裏切らせたやつでしょうね」


 中心で鎮座する男の周りには6人の悪魔が集まった。

そして鎮座していた男は一歩前に踏み出しつつ、クロムに向けて何かを放った。

クロムはその何かを氷の壁で防ぐと、そのまま男に語り掛けるのだった。


「あんたが悪魔の王、サタンか?

 俺はこの街の王となったクロムだ」


「ほぉ、俺を前にして王を名乗るバカがいるとはな

 確かに俺が悪魔王サタンである」


 サタンがそう名乗ると周りにいた悪魔たちは片膝をつきサタンへ頭を垂れるのであった。


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