6章.ダイン獣王国編

72話.いざ、ダイン獣王国

これからの活動方針を決定したクロム一行はそれぞれが目的達成のための行動を開始していた。


クロムより迷いの森およびその周辺地域の完全制圧と配下探しを依頼されているギン、ゴラン、トーマの3名は、すでに迷いの森の各地に散らばっているのであった。

そして、クロム、アキナ、竜人族4人衆はダイン獣王国に向かうために、迷いの森を後にしていた。


「兄貴、ダイン獣王国に向かうのはいいんだけどさ、とりあえずは何処を目指すつもりなんだ?」


「ん~、何処をと言われても何があるのかわかんないしな、しいていうなら街か集落でもないかなってとこだな。

 アキナは何があるのか知ってるか?」


「ここからそんなに遠くない場所に私の知り合いが住んでいる集落があるから、そこに行ってみる?」


アキナの知り合いの集落が近くにあるということを聞いたクロムたちは即決でそこに向かうことを決めた。

そして30分ほど歩いているとチラホラと建物が視界に入り始めるのである。


「あった、あった!

 あそこがさっき話した集落よ」


アキナを先頭としてその集落に接近してゆくクロムたち。

集落の門衛が十分に視認できる距離まで接近した頃、当然のことながら門衛に呼び止められることとなった。


「こちらの集落は招かれたもの以外は立ち入ることができません。

 お引き取り願えますか」


優しい口調ながら明確な拒絶の意思が込められた言葉を向けられたクロム一行。

アキナは一歩前進してからにっこりと笑顔を浮かべて門衛に話し始めた。


「私の名前はアキナです。

 族長の娘のアルテナに猫人族ねこびとぞくのアキナが挨拶に来たと伝言お願いします」


拒絶の意思を明確に表明していた門衛は、それに怯むひるむことも暴力に訴えることもしないだけでなく、伝言を頼んできたアキナの行動に驚きを隠せないでいたのであった。

そして動揺にしている門衛に対してアキナが畳みかけるように伝言のお願いをする。


驚き動揺していた門衛もアキナのあまりの必死さに思わず笑ってしまい、伝言を伝えてくれることとなった。

アキナはお礼を言うと共に伝言の返事がくるまでの間この近くで待たせてもらうことを伝えて、クロムの元まで戻るのであった。


その一部始終を見ていたクロム。

必死にお願いするアキナのことが可愛すぎて、愛らしすぎて……

クロムの元に帰ってきたアキナを思わず抱きしめてしまうのであった。


突然のクロムの行動に動揺してテンパって赤面するアキナ。

そんなアキナの反応が可愛すぎてさらにからかうクロム。

いつも通り人目を気にせずイチャつく二人を苦い顔して見守る竜人族4人衆。


そんなまったく緊張感のかけらもない、いつも通りの光景を繰り広げていると、伝言を伝えに行ってくれていた門衛がかなり焦った様子で戻ってきたのである。

そして戻ってきた門衛は息切れをさせたままアキナの元に走り寄り、告げるのであった。


「アキナ殿、失礼しました!

 アルテナ様より丁重にお通し案内せよとのことでした」


戻ってきた門衛の態度は先ほどまでと180度変わっていたのである。

丁寧に謝罪を述べた門衛は、そのままクロム一行を一つの大きな建物まで案内した。


「こちらの中でアルテナ様がお待ちしております」


案内をしてくれた門衛は丁寧にそう述べると、そのまま集落の入り口まで戻っていった。

アキナはクロムにこの場での待機をお願いし、建物の中に一人で入っていくのであった。


「ひさしぶりねアルテナ」


「アキナ!! 来てくれて嬉しいわ!」


旧知の仲である二人は久しぶりの再会を喜び、抱きしめあった。

そして、アキナは仲間が一緒にきていることを告げ、この場への同席の許可をお願いした。

アルテナは快く承諾し、アキナはそのことに感謝しつつクロムたちを迎えにいった。


「はじめましてアルテナさん、アキナの仲間のクロムです」


アキナと共にアルテナの元に戻ったクロムたちはそれぞれ自己紹介と挨拶を行った。


「はじめまして、狐人族きつねびとぞくの族長の娘であるアルテナと申します」


彼女が名乗った狐人族という種族は、獣人族としては珍しい種族であり戦闘を苦手としており、その反面として容姿端麗ようしたんれいであり、話術などの内政向きの能力に秀でている種族であるらしい。

アキナからそんな説明を受けたクロムは確かにこの集落で生活しているすべての者が容姿端麗であったことを思い出すのであった。


アルテナはアキナの訪れを非常に喜んでおり、クロムたちも含めて全員を食事に誘った。

誘いを受けた食事の席でアルテナはアキナとの旧友を深めつつも、アキナとクロムの互いに想い合う素振りから二人の関係性に気づき、クロムにアキナのことを宜しく頼むのであった。


非常に楽しく暖かい時間はあっという間に過ぎ去るもので、気が付けば日付が変わるような時間となっていた。

アルテナの好意によりこの集落に一泊することになったクロムたちにそれぞれに割り当てられた部屋へと入っていった。


そしてクロムの部屋に二人で一緒にいるクロムとアキナ。

そこでアキナはずっと気になっていたことをクロムに尋ねることにした。


「アルテナたち狐人族って美人揃いだよね?」


「ん? あぁそうだな」


「アルテナに見惚れていたもんね…… ?」


「確かに綺麗だったし、思わず目で追ってしまっていたな」


「…… バカ」


目に涙を貯めて俯くうつむくアキナ。

そしてクロムは背中を向けて拗ねるアキナを後ろから抱きしめながら言った。


「確かに狐人族は綺麗だよ、でも俺はアキナがいいな

 アキナの可愛さ、愛らしさに敵うものはないよ」


「!!!!!」


クロムの言動に動揺と歓喜が渦巻き赤面するアキナ。

目には先ほどと同じく涙を貯めこんでいるが、表情は先ほどとは対照的に満面の笑みまんめんのえみであった。


「ごめんな、アキナの拗ねる姿が可愛くて思わずイジメちゃったよ」


「ぶぅ……

 クロムのばか……」


そういいながらクロムの胸に埋まるアキナをクロムは優しく抱きしめる。

そして顔を真っ赤にした二人はお互いに見つめ合い、やがて優しい口づけを交わした。


「愛してるよ」


「私もよ」


甘い香りを漂わせる二人の夜はますます深まりを見せてゆくのであった。



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