37話.隠れ里への道
「……」
目の前に広がった光景にアキナは口をあんぐりさせて、絶句していた。
湖が二つに割れて、その中央に真っ直ぐな道ができていれば当然の反応でもある。
「ふぅ、さすがにこれはキツイ……」
『キツイってだけでこんなことができるあんたはやっぱりバケモノよ……』
「そのバケモノの頭に住み着いてるやつは何者なんだろうな?」
『……』
「……すごい…………
凄過ぎるよ! クロム!!!」
「ありがとね、無事に成功してホッとしてるよ。
さてと……
早速向かってみるとしますか」
クロムはアキナの手を取ると、湖底へと歩き始めた。
しばらく歩き続けると、視界の先に神社の
そしてクロムたちがそれに近づくと、中より声が聞こえた。
「ここがどのような場所かご理解の上でのご訪問でしょうか?」
この異様な空間、状況に圧倒されているアキナはクロムの隣でただ固まるしかできずにいた。
そしてクロムはそんなアキナの手をしっかりと握りしめながら、声の主の元にゆっくりと歩みだす。
「はじめまして、クロムです。
この湖底に竜人族という種族の隠れ里があることを確信をした上でここまで来ました」
クロムは非常に丁寧な口調でその声の主の質問に答える。
なぜならクロムはこの者こそ竜人族であると、本能的に察していたからだった。
「このあり得ない事象の発生、この場所のことを正確にご理解の上でのご訪問……
申し遅れました、クロム殿。
私は門番の役目を仰せつかっているゲントと申します。
クロム殿は隠れ里に入ることを望まれますか?」
「もちろん、そのためにここまで来ました」
「
試練を無事に突破できた方のみ里に入ることができます。
試練をお受けになりますか?」
「一つ確認させてほしい、俺がその試練を突破した場合に同行者のアキナも里に入れるのか?」
「大丈夫でございます、掟にて同行者は2名まで認められております」
そういうとゲントと名乗る者は、両手槍を構えた。
クロムは試練を受諾する旨を伝え、ゲントの正面に移動しつつ覚えたての<鑑定眼>でゲントの能力を探ってみることにした。
――今のアキナより少し強い…… といったところか。
――確かにカオスが言った通りかなり強い種族であるようだ。
――ぜひとも竜人族を仲間に迎えたいな。
クロムがそんなことを思案していると、ゲントが試練の開始を宣言する。
「では、試験を開始させて頂きます!」
試練開始を宣言したゲントは、構えたままその場から動かない。
クロムがこれまで相手にしてきた相手は猪突猛進型ばかりであったため、この展開には少し戸惑うことになる。
しかしにらみ合ったままでは埒が明かないため、クロムが先手を取ることにした。
手始めに得意技の一つとなっているアイスランスを放つ、放たれたアイスランスは1本のみ。
ゲントは飛翔してくるアイスランスを右切り上げで迎撃し、その斬撃の勢いのままクロムに突撃を開始した。
攻める側から受ける側へと変わったクロム。
まずはゲントの足元に底なしの泥沼を展開させて、足を絡めとろうとした。
しかしそれに気づいたゲントは前方にジャンプする形で泥沼を回避し、そのまま空中より打ち下ろしの突きを放った。
すでに必勝パターンとなりつつあった泥沼を完全な形で回避されたクロムであったが、ゲントほどの強さであれば回避されることは想定済であった。
ゆえにクロムはすでに待機させてあったものを発動させる。
そして空中にあるゲントは左右より土の杭に襲われることとなった。
空中に浮いているゲントに回避することは不可能であり、咄嗟に両手槍を手放して両手を横に広げてガードしようとした。
が……
次の瞬間、ゲントは上空に打ち上げられそのまま背中より地面に落下した。
両手を広げた瞬間に下方よりノーガードになっていた顎に目掛けて土の杭が打ち出されたのであった。
落下の衝撃で思わず目をつむってしまったゲントが目を開くと、目の前にはクロムが立っており土でできた剣をゲントの眉間に添えていた。
「負けを認めてくれないか? 君たちを殺したりはしたくないんだ」
「私の完敗です、試練突破おめでとうございます。
初めての試練突破者として里へご案内致します」
ゲントが素直に負けを認めるとクロムは土の剣を消し去り、ゲントを立ち上がらせるために手を差し出した。
立ち上がったゲントは無言のままクロムに背負向けると、神社の
そして、ゲントが何事かの言葉を発すると、
「私のあとに続いて魔法陣にお入りください」
魔法陣の中央に移動するゲントのあとに続く形でクロムたちは魔法陣に入る。
すると、魔法陣は激しい光を発してクロムたちの視界を奪ってゆくのだった。
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