26話.きずな

 ルーナの店に向かう途中、街中が騒ぎになっていないか不安であったクロムたちであったが、特にそのようなこともなかった。

そのことに安堵しつつも今後の話しあいを外でするわけにもいかないので、ルーナに頼んでお持ち帰り用に包んでもらい宿へと向かうことにした。

宿の部屋に戻ったクロムたちは万が一の盗聴に備えて、ルーム内に移動してそこで食事をするのであった。


「このルームの中の部屋ってすごいわね、宿屋の部屋より数倍豪華だよね……」


「あぁ、あんまりじっくりとイメージを固めてる時間もないまま作った部屋だから、元いた世界の俺の部屋をほぼそのまま再現してるんだよ。

 素材とかそういうものは別物になってはいるけどね」


「クロムって貴族とかだったの!!?」


「ごくごく普通の中流階級の人間だよ」


「そうなんだ…… 

 この世界でこんな素敵な部屋に住めるのは貴族たちくらいじゃないかな……

 クロムの元の世界ってすごいなぁ……」


「あっちの世界じゃ魔術とかなかったし、どっちがすごいというよりどっちにも個性があるってところだと思うよ」


 クロムがそう説明するとアキナは納得しつつ、そういう柔軟な考え方ができるクロムのことを称賛するのであった。

それを聞いたクロムが照れ臭そうにしていると、アキナは楽しそうな笑顔で笑い出した。


「やっぱりクロムといると楽しいね♪

 そういえば、これからはルームに住むことにするの?」


「それでもいいんだけどさ、どうせご飯のために街にくるなら宿自体はとっていたほうがいいのかなとは思うんだ。

 今回みたいなことは二度と起こさせないけど、俺のことを監視するやつはいるかもだしね」


「そっかぁ…… 

 でもこんな素敵な部屋があるのに勿体ないね」


「今日みたいに宿の部屋からルームに入るのがいいかもな。

 ちなみにルームは無制限の異空間で好きなだけ部屋も建物も建てれるから必要なら言ってくれればいいからね」


「……私はクロムと一緒の部屋がいいもん」


 アキナが最後にぼそっと呟いた言葉を聞き取れなかったクロムであったが、自分のことを受け入れれてくれたアキナに感謝しつつ食事を楽しむことにした。

食事もひと段落した頃にクロムが明日以降の話をし始めた。


「明日は予定通りチームデビューの依頼を受けようと思うんだ。

 俺のワガママになっちゃうんだけど、やっぱり冒険者生活ってものをしてみたいんだ」


「クスクス、クロムは可愛いね。

 それにクロムをチームに誘ったのは私よ? 一緒に冒険者生活することを私が反対するわけないわよ」


 クロムは楽しそうに笑うアキナがあまりにも可愛く感じて、思わず抱きしめてしまう。


「え… !? クロム!!??

 恥ずかしいよ……」


「あ、ごめん……

 でも無性にアキナのことを愛おしく感じてさ……」


「もぉ…… 嬉しいけど…… 恥ずかしいんだからね……」


「アキナ、俺は転生者だし変なやつだと思うけどさ、これからも一緒にいて欲しい」


「当たり前でしょ!? 逃がしたりしないわよ!」


 お道化ておどけて笑うアキナをクロムはより強く抱きしめ、そのまま朝まで同じ時を過ごすのだった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 目を覚ましたアキナは自分の隣にクロムが寝ていることに幸せを感じていた。


(こんなに幸せなの初めてかもしれないなぁ)


 アキナはクロムを起こさないようにそっとクロムにくっ付きながら顔を眺める。

とても穏やかな顔をしている寝顔に癒されながらいつまでも見ていたい気持ちにかられるのであった。


「おはようアキナ、俺の顔に何か付いているか?」


 突然、寝ていたはずのクロムが意地悪そうな笑顔を浮かべながらそう言うと、アキナはびっくりして飛び起きてしまった。


「!!!!!

 いつから起きてたの!????」


「ん~、アキナがくっ付いてきて可愛い顔で俺を眺め出した頃からかな?」


「!!!!!

 最初からじゃない…… 意地悪……」


 クロムのイタズラに拗ねてフリをしているアキナを、クロムは優しい笑顔で抱きしめるのであった。

そして、そのまましばらくダラダラと過ごした二人は、依頼の確認のためにギルドに向かうことにした。

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