🖤
それから。
呆気なく他校の生徒2人を病院送りにした。
藤堂冷の後ろ楯があるとは言え、一応ウサギのお面を被っての犯行。
それを報告すれば、奴はきょとんとしてからクスクス笑いだした。
なんだコイツついに狂ったか。
わたしはドン引いた。
いつも落ち合う空き教室で、窓のサッシにもたれ掛かる藤堂冷と、出来るだけ距離を取って教室の扉側に立つわたし。
「いや、仕事早いなって思って。ほんと狂暴だな」
その言葉にイラッとして後ろの扉壁を後ろ足でげしっと蹴る。ガタン!と酷く大きな音が鳴った。我ながら確かに狂暴かも。
「まだうちの学校に2人いるけどねえ」
「ああ、それならめぼしはついてる」
藤堂冷は目をすっと細めた。
途端に教室の温度が下がった気がした。
不思議だ、奴の言動で空気が変わる。
奴からふつふつと感じるのは嫌悪感と増悪。目に光が灯っていなくて、どこか虚ろだ。この前一瞬垣間見た暗い目と一緒。
「ソイツらは俺がヤるから、いいよ」
アンダが?
わたしは疑問符を浮かべる。
「評判下がるんじゃない?優等生クン」
「そんなの簡単に揉み消せる」
わおー!
拍手でも送りたくなるくらいシンプルで横暴だねえ。さすが御曹司様。
「それはそうと」
藤堂冷がごちる。
「渋谷」
「なあに」
素っ気なく答えて藤堂冷を見つめる。ほんっと整った顔してるな。むかついてくる。
「おいで」
くいくいっと人差し指を曲げてわたしを呼ぶ。嫌な予感。
「やだよ」
「大丈夫だから、ほら」
何が大丈夫なのよー。
わたしは警戒心MAXで藤堂冷を睨み付けた。が。それすらも面白いのか、口元を弛めている。奴の三日月型に細められた目を見たら誰だってわかると思うが、心底この状況を楽しんでいる。
「早く」
首を傾けた奴の黒髪がさらりと揺れた。
歯ぎしりをしながら、わたしは藤堂冷に、手を伸ばしたら届く距離にまで近付いた。コイツに弱みさえ握られてなければこの距離からフルボッコなのにねえ。
「………」
「で、なに……っ!」
窓のサッシに腰掛けていた藤堂冷が、流れるような動きで立ち上がりわたしの腰を抱き寄せた。
「はは」
藤堂冷は悪戯な笑みを浮かべている。
「っ……楽しそうでなによりだわあ」
青筋を立てながら見上げる形で睨み付ければ、近付く人形みたいな綺麗な顔。まさか。
「んっ」
ひとつ、ふたつ、短くキスが降ってくる。
神様、これは日頃の悪行が影響してるんですか。
意識を反らすように努めてみても、やっぱり無理。恥ずかしいし~。
思わず目をきゅっと閉じる。
藤堂冷がまた笑ったのがわかった。
ああ、腹立つ。
完全にペースはコイツに呑まれている。
キスも
遊ぶようなくすぐったいものばかりで、身を捩れば
前髪をかきあげられた。
「 」
何か呟いたから
瞑っていた目を薄く開ける。
あ。後悔。
この前と同じ、蕩けるような甘い色の瞳。
慈しむような、目付き。
戸惑うわたしを他所に、そのままそっと額に口付けられた。
暴力少女 ひなた @skr10111
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