第29話
四本目の煙草を揉み消し、ブレンドコーヒーを飲み干してしまったのだけれど、まだ出社するまでには時間があって、『ロッテリア』に入ってもうすぐ一時間ほどになる。このあいだ志水さんが「そんなに早く来るんなら 家でゆっくりしてれば良いじゃん」と言ったけれど、家でゆっくりするのと『ロッテリア』でゆっくりするのとでは気分が違って、しかも、最寄りの駅の近くでゆっくりするのではなく、仕事場に近い場所でゆっくりすることに意味があって、家でネクタイを絞めるときに切り替えた気分を、もう一段仕事に向けて切り替えるのにはこの場所が最適なのであって、去年から始めたこの習慣を止めることはなかなか難しい。
本を読んだり、その日の仕事の準備をしたり、次の休みの計画を立てたり、『ロッテリア』に入るまでどうやって時間を潰そうか考えていても、席に着き周りの人たちの話し声を聞いているだけでも時間は潰せるし、今日も(風がなければ)太陽が出て来て過ごし易い日になりそうだと考えていて、この習慣を持つまでは天気の良し悪しなんて出勤時の代田橋駅までの道のりでしか問題にしなかったのに、(「こんな良い天気の日に仕事なんてしていたくない」と思うことが多いけれど)こういったことを考えるようになって、(抽象的で漠然としているけれど)心が豊かになったような気がして、余裕もあるし、以前は急いで電車に乗って、遅刻しないように時間を気にしながら動いていたのだけれど、今では電車内で足を踏まれても苛立つことはなくなったし、やっぱり、朝『ロッテリア』でゆっくりすることが生活に必要なのだと思う。(トイレに行くために財布と携帯電話を持って席を立った)
生活に必要なことは他にも沢山あるだろうし、他の人なら洋服を買うこととか、夜眠る前に本を読むことだとかがそういうもので、毎朝出勤前に『ロッテリア』に来ることはお金もかかるけれど、それで精神が安定するなら必要だと思うし、(誰に言い訳しようとしているかはわからないけれど)煙草も精神安定剤として必要になるのだから、許して欲しい。
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