どうしてこうなった!

ラッコonドッグ

第1話どうしてこうなった

 朝。

 睡眠十分で天気も清々しいほど快晴だ。

 これ以上ない最高をの目覚めだった。

 そう、自分が寝ていたベッドの左右を見るまでは。


 ………


 ……


 …


「ぬわあああああああああああああ!?」

 こんなベッタベタな叫びは人生初だ。

 いや、しかし。 しかしだ。

 自分が寝ていたベッドで川の字を作るように下着姿の女の子が二人も同衾していたら、誰だって叫ぶだろう。

 例に漏れず自分も素っ頓狂の叫びをしてしまった。

「チッ、うっせーな。 まだ寝てろよ……」

 左で寝ている健康そうに日焼けした小柄な女の子が舌打ちと共に悪態をついてくる。

「睡眠不足は美容に悪いですから、まだ寝ていましょうねー……」

 右で寝ている胸が大きくて女性にしては比較的身長が高い女の子も私物なのかイルカの抱きまくらを抱いたまま『まだ寝ていろ』と言ってくる。

 状況が理解出来ずに思考が完全にフリーズしているところにドタバタとを廊下走ってくる音が聞こえてきた。 それも2つ。

「やったか弟よッ!?」

 1つ目の足音は兄である。 兄の草壁静馬。

「どっち!? どっちだった!?」

 もう1つの足音は姉である草壁明日香。

 正直、何がなんだかわからない。

 古い雑誌に書かれていたという『インド人を右に』くらい意味がわからない。

「兄ちゃん、姉ちゃん。 状況が全く理解出来ないので説明をお願いします」

 兄と姉が互いに顔を見合わせて何かを頷いている。

 正直なところ不安しかないので2人だけで通じるコミュニケーションはやめてほしい。

「何、難しい話じゃない。 この2人は兄ちゃんと姉ちゃんが選んで連れてきたお前の許嫁だ」

 全く意味がわからない。

「で、どっちとしたの!? ちなみに私が連れてきたのはおっぱいの大きい蓮花川舞ちゃんね」

「俺が連れてきたのは若月麻里奈さんだ。 お前好みかと思ったんだがどうだ?」

 全く意味がわからない。 もう一度言うぞ? 全く意味がわからない。

 もしかしたら自分は宇宙人に拐われて、兄と姉に化けた宇宙人に洗脳されているのかもしれない。

 むしろそうであってほしい。

「とりあえず、今目が覚めたので何もしていません。 していないはずです」

状況がつかめなさすぎて思わず敬語が出てしまった。

 そういうと兄と姉は外人も真っ青になるくらいのオーバーリアクションで驚いたようなジェスチャーをしてきた。

「真逆、弟よ!? お前、この据え膳に何もしなかったというのか!?」

「姉ちゃんびっくりだよ! 信之がこんな根性なしだなんて思ってもいなかった!」

 あ、今更ですが自分、草壁信之といいます。 どうでもいいんだけれども。

「だからうるせーって言ってんだよッ!」

小柄な方、すなわち兄が連れてきたという若月さんとやらが睡眠を妨害されたことでキレだしたようだ。

「時間見ろよ、時間! まだ7時じゃねぇかッ! しかも今日は日曜だぜ!? こんな時間に起きるのは老いぼれかクソ社畜だけだっつーの!」

全国のサラリーマンにごめんなさいしないといけないような事を叫びだしたが、とりあえず今はおいておこう。

だって問題が何一つ解決していないんだもん。

「早起きは三文の得と言うぞ? 早く起きればその日に使える時間が増えるというものよ」

「そのとーりよ! ヤッテないっていうなら今から自己紹介でもしてお昼からデートと洒落込んでいいじゃない!」

「チッ……、一理ありやがるな」

いや、0.01理もないんだけど。

そもそもなんでこの人はこんな乗り気なの? 犬でも猫でもハムスターでもいいから自分でもわかるように教えてほしい。

「デートに行くなら私も起きますねー……」

寝ぼけ眼をゴシゴシとこすりながら逆サイドの蓮花川さんとやらものっそりと起き出してきた。

「待って、待って! 僕の意思とか意見とかはどこいったの!?」

兄と姉は小馬鹿にしたように同時にフンと鼻をならした。

つくづく思うけど、双子って二卵性双生児でもこんなシンクロするもんなんだろうか。

「いいか信之。 俺と明日香は少々特殊な業を負っていて、子供は望めんのだ」

「草薙家の血を絶やさないために信之が結婚して、子供を作るしかないの」

特殊な業というのは兄と姉が同性愛者ということだろう。

割とどっちも洒落にならないエピソードがあるから、あまり語りたくないということはわかる。

だからといって自分が結婚して子供を作る必要があるのだろうか。

「そういうわけだから自己紹介行きますねー」

ベッドから出てきて持参のイルカを抱いたまま蓮花川さんが自己紹介を始めた。

「私は蓮花川舞。 実家は養蜂場をやってるわー」

見たところ自分より身長は少し高そうだ。

自分が170cmだから恐らく170半ばといったところだろうか。 女性ではかなり身長は高い方になりそうだ。

「んじゃ、俺もだ。 俺は若月麻里奈。 実家は漁師で帰ってこれる場所って意味合いでマリナってイカした名前を貰ってるぜ」

蓮花川さんの隣に立つと小さいと思っていた身長が余計に小さく感じる。

下手すれば150cmを下回っているんじゃないだろうか。

「とりあえず、だ。 俺と舞はお前の嫁になりにきたってわけだ。 これからよろしくたのむぜ!」

「お願いしますねー」

待ってほしい。 いや、待ってくださいお願いします。

こちとら学生の身分で、いきなり嫁候補と名乗る人物が二人も現れたら思考が追いつかない。

「えっと……。 とりあえずお友達から……?」

そういうと兄と姉から同時に後頭部をひっぱたかれた。


どうしてこうなった。

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