第112話 雫の家
席替えも終わり、今日の学校は終了した。
そして今日は久しぶりに俺は部活に顔を出した。
俺はかなりの間部活を休んでいた。
実質幽霊部員のようなものだったかもしれない。
俺もできる限り行きたかったんだけど、怪我とかがあったから行けなかったんだよね………
部の顧問の若宮先生と部の人達にこれまで休んでいて悪かったと初めにきちんと謝り、久しぶりに部活に参加することが出来た。
部の人達は怒ること無く戻ってきてくれて良かったと喜んでくれた。
部活動の方は俺が休んでいた間もあまり変わっている様子は無かった。
先輩はまだ部活を辞めずに残っていてギリギリまでサッカー部に残っていると決めたらしい。
他の部活では引退している先輩もちらほらいるというのにサッカー部は誰1人辞めることなく残っていた。
先輩たちはサッカーが純粋に好きなんだろうなと共感出来た。
だから俺も先輩がしっかりと有終の美を飾る事ができるようにサポートしていきたい。
俺が休んでいる間の夏休みに大きな試合があったらしいんだけどそれを見れなかったのが少し悲しいな。結果は接戦で最後の最後に点を決められてライバル校に負けたらしい。
そして俺は今のところ、部の皆さんがサッカーをするのを見ているだけだ。
なぜならまだ俺は病み上がりに近いからだ。サッカーボールは今足の調子が優れないので蹴ることも出来ず、左手には障害があって雫と椎奈先輩がやっているマネージャー仕事を手伝おうと思っても事情を知る雫が気を使ってしまうって逆に作業効率が下がってしまっていた。そのためマネージャー仕事は雫と椎奈先輩に任せていた。
なので俺は練習を見ていることしか出来なかった。
あぁ……ちょっとつまらないな。
皆が真剣にサッカーに取り組んでいるのを見ると俺もやっぱり動きたいと体が疼く。今はダメだけど完全に完治したらサッカーをしたいなぁと思った。
雫は俺が休んでいた間もきちんと部活に行っていたらしくマネージャーとしてチームにすっかりと馴染んでいた。
今では椎奈先輩に頼られる右腕のようなものになっていた。
俺もできるだけ参加できるようにして早くチームに馴染みたいなと思った。
まだ、男だからという大きな心の壁が部の人達と俺にはある気がする。だからその壁を取り払えるようにこれから頑張って行かなくちゃならないな。
☆☆☆
「ふぅ、なんか久しぶりの部活で疲れたなぁ。」
と、俺はため息を吐いた。
まぁ、別に動いている訳じゃないしマネージャーとしての仕事もさほどしていた訳じゃないけど、なまり切ったこの体では十分大変で疲れた。
今は部活帰り、サッカー部の人達と別れ雫と2人きりで下校中だ。
雫も少し疲れていてだるそうにしていた。
そういえば2人で一緒に帰るのは久しぶりな気がする。最近は夜依もいたからだね。
「……それで、体の調子はどうなの?」
心配そうに聞いてくる雫。やはり俺のケガの具合を知っている分、気を使わせてしまっているのだろう。
「大丈夫だよ。ケガは完治したし、体の痛みも無いよ。今日の部活で多分明日は筋肉痛だと思うけどね。」
俺は笑いながら返した。
「……そう。ならいいけど。無理だけはしないでね。」
雫はまだ俺の事を心配しているようだったけど……
大丈夫だよ。自分の体の事は自分が1番よく知っているから、無理なことは無理だと判断できるし、自分でできないというのも分かっているつもりだ。それに俺には信頼出来る人がいっぱいいるからその人達に頼ればいいんだしね。だから安心して欲しい。
「あ、そうだ。話は変わるけど、雫は体育祭のアンケートはもう書いたの?」
俺は今日配布されたプリントの事について雫に聞きたかった事があったのを思い出したので雫に聞いた。
体育祭は来月だけど、この学校の体育祭は少し特殊なのかそれが普通なのか分からないけど、やりたい、やってみたい種目や、チーム分け、場所など細かいところまで毎年生徒たちが1から決めるらしく、俺が聞いたのはそのアンケートの事だ。
俺は体育祭の競技にはあまり参加することは出来ないらしいと予め言われてしまったけどすごく楽しみにしている。
別に競技には参加できなくても応援することは出来るからだ。体育祭の醍醐味は応援と言っても過言では無いので別に競技に参加することが出来なくても十分熱くなれると思う。
「……まぁ、書いたけど。まだ第1回目のアンケートなんだからそこまで本気で取り組まなくてもいいでしょう?」
本気の俺に対し雫はあまりやる気では無さそうだ。
そのためアンケートはあまり悩まずに軽く書いたそうだ。
「ちょっと参考にしたいから見せてくれない?」
俺はやりたい競技などがまだ決められていなかった。
俺がやりたい競技はあるんだけど、なにせ参加する事が出来ないし、どんなものが適当でいいのか分からなかった。
「……別にいいけど。」
そう言ってカバンからそのプリントを取り出して見せてくれた。
「ふーんなるほどね。」
俺が迷っていたやりたい競技の欄に雫はクラス対抗リレーと書いていた。
なるほどクラス対抗リレーはクラス全員が参加出来て、燃える戦いになっていいな。それにクラス全員ということは俺も出れるかもしれない。そんな淡い希望が持てる競技だったので俺も雫のと同じにしよう。
まだ、俺の家に着くのには時間がかかりそうだ。
なので続けて違う話をする。
「それで、雫は今回の席はどうなの?」
「……どうって、最悪の一言よ。」
どストレートに言う雫。
雫が言ったのは今日行われた席替えで夜依と隣の席になったという事だろう。
一応雫と夜依の2人は俺の婚約者なんだけどなぁ……
2人には仲良くして欲しい。
やっぱり早急にこの問題を解決しなきゃならないや。そう決めた俺であった。
そんなこんなで俺の家に着いた。
「じゃあまたね。」
「……ええ。」
雫は俺と別れて、雫はスマホを見ながら歩いて行った。
俺も門を潜り、家の中に入ろうとした時大変な事に気づいた。
「あ、やばい、これ雫に返してないじゃん。」
雫から借りていたプリントを俺は返していなかった。体育祭の話の後すぐに雫と夜依ことでの重要な事を考えていたのですっかり忘れていた。
明日返しても期限まではまだ時間があるから雫は怒らないと思うけど、まだ別れたばかりだしすぐに追いつけると思った。
「待って雫!!」
俺は急いで家に持ち物を置き身軽になると家から飛び出し、雫が歩いて行ったであろう道を追おうとする。
だけど、俺は走れないので早歩きぐらいのスピードしか出せなかった。
だけど十分間に合うはずだ。
「──どうしたの優馬、そんなに慌てて。」
俺が向かおうとすると、誰かから呼び止められた。
「ん?」
俺は振り返り声を掛けてきた相手を確認する。
「あ、おかえり夜依。」
やっぱり夜依だった。
夜依は部活終わりで少し疲れ気味の表情をしていて、右手には使い込まれてボロボロな竹刀を持っていた。
夜依は剣道部に所属していて毎日せっせと頑張っている。剣道部は昔からやっていたらしく、前までは自分の心と身体を極めるためとにやっていたそうだけど、これからは周りの人々を(特に俺の事を)守るためにこれからも続けて行くそうだ。
なんて言うんだろうか、ちょっと汗まみれの夜依はなんか色気みたいなものが出て可愛かったので、直視することが出来なかったのは俺の中での内緒だ。
「ただいま……だけど、優馬は何をしているの?」
「雫から借りていた物を返し忘れてたんだよ。だから今から返しに行くんだよ。」
「そう。あ、そうだ、私も行っていいかしら?」
「う、うん。別にいいけど。」
現在進行形で雫と夜依の仲は良いとは言えない。それに今日の席替えで相当ピリピリしているはずなのに、そんな状態で、夜依を雫の元に連れて行っていいのか……少し俺は心配だった。
「別に大丈夫よ。雫と優馬が話している時は距離を取っておくから。」
「あぁ、そう。」
いや、別に離れなくてもいいんだけどね。逆に俺は近くにいてもいいんじゃないかと思った。
あぁ、でも近くにいたら喧嘩に発展するかもしれないし、なんだかもどかしい気持ちになった。
「行きましょ、早く行かないと追いかける距離が増えるわよ。」
持ち物を家の敷地に置いた夜依言った。
「う、うん。そうするよ。」
俺と夜依は雫が歩いて行った方向に向かって歩き始めた。
「そう言えば優馬は雫の家を知ってるの?」
「え?いや、知らないけど……あ、でも家が近いとは聞いたよ。」
俺がそう言うと夜依は疑問の表情を浮かべた。
「おかしいわね。私が知る雫の家は優馬の家とそれなりに距離がある場所にあると記憶しているけど……」
「え!?」
俺は声を出して驚いた。
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