第92話 パーティ


車に乗ること30分くらい。19番さんによるとそろそろ会場に着くらしい。会場に着く前にお母さんに今日は帰るのが遅れるという連絡をしておいた。連絡をして置かないと家中大騒ぎになるからだ。お母さんからはすぐに返事が来て、理由を聞かれたけど今の状況を言葉で説明するのが難しかったので既読無視をした。後でちゃんと言葉で伝えておこう。


「所で、今日はどこでパーティが行われるんですか?」

「今回の会場は高級ホテルです。」


19番さんの言葉に俺は驚いた。


「高級ホテル……!?あ、そう言えば俺、お金全然もってないですよ!もしかして参加料とか払わないといけないんですか?」


高級ホテルって言うくらいだから相当高いはず。どうしよう……今手持ちに3000円しかないんだけど。


それにホテルってもしかして1泊でもするの?


「いえ、神楽坂様は招待客ですのでお金を払う必要は無いです。」

「そうですか……良かった。」


もし、参加料を払わなければならなかったら俺はパーティには参加出来ていなかった。そしてあの豚野郎がキレていただろう。

俺はホットし、肩をなでおろした。


ふぅ、危ない危ない。これからはそういう細かいところも考えておかないとな。


そして俺が乗った車は豚野郎が待つ会場に到着した。


☆☆☆


ホテルはとても大きな高層ビルのようで宿泊施設としては完璧な場所と言えるだろう。19番さんに貰ったパンフレットを見ると地下にはレジャー施設も設備されているらしい。まぁ、遊びに来たわけじゃないから遊ばないけどね。


そう言えば俺って制服姿だけどパーティには相応しい格好なのかな?まぁ、これが俺の唯一の正装だからこれでしかパーティには望めないんだけどさ……


俺は19番さんに案内されホテルの大ホールに来た。


大ホールはホテルの階層の1つを全てぶち抜き、大きな空間としている。ここで宴会や披露宴などが行われるのだろう。


会場は様々な料理が並べられパーティの準備をウエイトレスさんがせっせとやっていた。


その会場を見渡して食べたい料理を探していると、のしのしと床が体重で軋む音が聞こえてきた。その音はどんどんこちらに近づいてくる。


「おー、来てくれたんだね?久しぶりじゃないか神楽坂くん。」


そう愉快にブヒブヒと笑いながらそいつは言ってきた。


来たな……特殊な性癖を待つ豚野郎め。


今日のこいつの格好は正装を頑張って着てきた豚だった。まず、タキシードを着ようとしているんだけどパツパツで前と同じように服から腹が溢れ出していた。上着はも両手を通しただけで、ズボンの方は履いているなと思ったら、何とか肉の圧縮を生地で抑えている状態で今にも破けそうだった。蝶ネクタイも何とかつけようと頑張ってはいるが、首周りの余分な肉が邪魔をしてしっかりと付けられていなかった。


こんな姿を見たら誰だって正装を頑張って着てきた豚にしか見えないと思う。


「どうも。今日はパーティに招待してくれてありがとうございます。」


俺は作り笑いをしながら答えた。


「今日はこのホテルは貸切だ。誰の邪魔も入らない。だから存分に楽しんでいくといいさ。今日キミは素晴らしい日を迎えることになるんだね。」

「あ、…はい。」


いくらこいつの主催のパーティだとしてもここは高級ホテルだ。だったらおいしい料理があるはずだ。それで楽しんでいけという意味だろうな。


「へー、富田さ~ん。こいつが言ってた童貞野郎ですか?」

「ほぉ、確かにイケメンだ。別に羨ましいとは思わないけど。」


豚野郎の後ろから2人の声が聞こえた。


誰が童貞だ!確かに女性経験は全く無いけど……それは言っちゃいけないやつだぞ。


俺は少しだけ気にしていることを言われたので、声を出して怒ろうかと思った。だけど、2人の姿を見ると俺は驚愕した。


「もしかして男!?ですか?」

「そうさ、ボクの男友の公貴きみたかくんと天海てんかいくんだよ。今回も来てくれたんだね。ボクは嬉しいよ。」

「おうよ。富田さんが主催するパーティはすげぇ面白いからな。来るに決まってるだろ?」

「そうそう、最近退屈してたから良い暇つぶしになる。それに毎回招待状を送ってくるのは富田さんなんですからね。」


公貴と言う人はガリガリに痩せこけているけど口調は荒い。年齢は30代前半ぐらいに見える。初対面の俺に対して童帝と口走ったのでかなり印象は悪い。


天海と言う人は中年男性のようだ。かなりの厚底のメガネをかけているのが特徴的だ。豚野郎のことをさん付けで呼んでいることから豚野郎よりは歳が低いとわかる。


2人の言動からして豚野郎とは相当息があっているように見えた。そしてパーティは何度か開催されているようだ。


「あ、神楽坂 優馬と言います。今日はよろしくお願いします。」

「おぉ、よろしくな。」

「宜しく。」


一応挨拶をしておいた。第一印象は良好なはずだ。


それにしても驚いた。まさか新たに2人の男と会う事になるとは……


「それじゃあ招待者はこれで全員が集まったからパーティを始めるよ!」


豚野郎の開始の言葉でパーティが始まった。


☆☆☆


んー、今のところは普通の小さなパーティだな。

俺は3人から少しだけ、距離をとって観察をしていた。


パーティ会場には沢山の豪華な料理が並べられ立って食べるスタイルのようだ。


ていうか4人で食べるには料理が多すぎやしないか?っていうくらいどんどんどんどん料理が運ばれてくる。


俺以外の3人は料理に見向きもせずにワインを片手に話を続けている。


今のところ別に変なところは無いけどまだまだ油断大敵だな。


「神楽坂くん。キミもこっちに来て有用で素晴らしい話をしようじゃないか!」

「あ、はい……」


俺は豚野郎に呼ばれたので仕方がなく話に参加した。


でも3人の話は金の話や女のどの部位が好きなのかとかの18禁の話ばかりだった。そのため俺はほとんど会話に参加できなかった。だけど豚野郎がたまに俺にも聞いてくるから困る。曖昧にして受け流したけど。

そんな感じで俺を除く3人は、18禁の話でどんどん盛り上がっている。


「じゃあそろそろこのパーティのシメの時間にするとしようか!」


豚野郎はワインを置いて大声で言った。


「おう、待ってたぜ。」

「そろそろだとは思っていたぞ。」


豚野郎に続き、2人も盛り上がる。


シメってなんの事だろう?パーティというものにはシメというものがあるのか。あ、それって料理とかかな?さっきから全然食べていなかったし。


だけど俺とは全く予想が違うものが始められた。


あんなに沢山あった料理をウエイトレスさんが片付け始めたのだ。


「え、どうして?まだまだ料理は沢山あったのに。」

「料理?あんな安物、ボクが食べるに値しないんだよ。それにボクは野菜が嫌いなんだ。野菜を見ただけで食欲は失せてしまったよ。それに今は違う欲が勝ってしまってるしね。」

「はぁ、」

「神楽坂くんはまだ1人も妻がいないから余った人を選択するといいよ。今日はボクの妻を貸してあげるから。いやー特別な男の童帝を卒業する日に立ち会えるとは……ボクは感謝感激だよ。」

「へ!?」


それってつまり………


料理が無くなると大ホールはすごくすっきりした空間になった。


「じゃあ見せ合うとしますか。」


豚野郎は指パッチンをした。大ホールには4人しかいないためその音は思ったより大ホールに響いた。


その音と共に女性が大勢入ってきた。


「!?」


なんて格好してるんだよ!


女性達は赤、緑、白のネグリジェを着ていて胸元には番号が書かれた名札をつけていた。

ネグリジェは所々の部分が薄く透けていて女性の体のラインをよく強調させていた。


その女性達は様々なタイプの女性がいた。

俺よりも歳下に見えまだ幼さが残る小さめの女の子や、俺と同い年くらいの子、逆に歳をとって一層美が磨かれている女性もいた。

それに髪型や、胸の大きさ、メガネや、クール系かキュート系など一人一人が特徴的な個性を持った女性達だった。


全部でざっと50人くらいで、一気に大ホールの人口密度が上がった。


どうしよう。目のやり場にものすごく困るんだけど。俺は女性達の顔だけを見て、それより下の方は絶対に見ないように心がけた。


でも……あれ……どうしてだろう。この女性達、その全てが目が死んでる。絶望?いや、もう諦めているのか?

と感じた。


なんでそんな無表情で悲しそうな顔をするんだよ。絶対に笑顔でいた方がいいのにどうしてだよ。


「公貴くんのは緑で天海くんのが赤だね。ボクのは白だよ。この女達はね全部ボク達3人の妻なんだよ。」

「!!」


ま、マジかよ。この50人くらいの女性は全て3人の妻だと?ってことは一人約16人以上は妻がいるってことだと?いくらなんでも多すぎないか?もし俺にもそれぐらいの数の妻がいてもそんなに構い切れないと思う。


でも圧倒的に白いネグリジェを着ている人が多い。ってことは豚野郎が1番妻を持っているのだろう。


「さすが富田さんだね。当たりの女しかいない。」

「今回は沢山集めたと思ったのにそれを超えてくるとはさすがとしか言いようがないな。悔しいぜ。今回は勝てると思ったのによ。」


2人は豚野郎を尊敬の念を送っているようだ。

どこが尊敬するのか俺にはこれっぽっちも分からなかったけどね。


「じゃあトレードしようか。前回は天海くんの妻を数人気に入って貰ってしまったからね。だから今回は天海くん好みの女を多く集めたんだよ。」

「おぉ、さすが富田さん。わかってますね。じゃあ白の10、14、16、21番と赤の7、18番でお願いしますよ。」

「あ、天海に狙っていたやつ取られたぜ。しょうがねぇな。じゃあ白の4~6、8~11までと緑の7、15、19を頼むぜ。」


2人はネグリジェの色と名札の番号を言った。


何をしてるんだろう。


「じゃあ楽しんできてね。返却はいつでもいいからね。男の嗜みを存分に味わってくるといいよ。」

「おうよ。富田さんも、うちの妻を壊さないようにしてくださいね。よく壊しちゃうんだから。」

「そうそう、もし壊れたら賠償金を払ってもらうしか使い所が無くなる。要注意ですからね。まだまだ使い所はあるんですから。」


そう言って2人は指定した女性を後ろに連れて大ホールを出て行った。


「あのー」

「なんだい?神楽坂くん。」

「2人は何をしに行ったんですか?あれって富田さんの妻も混じってますよね?」

「あー、そう言えばルール説明をしていなかったね。うっかりしていたよ。」

「ルール説明?」


なんだそれ?何かのゲームってこと?


「ボク達はね、妻トレードに絶賛ハマっているんだよ。」

「妻…トレード?」

「名前の通り、相手の妻と自分の妻をトレードするんだよ。そして思う存分自分の欲望、日頃のストレスをぶつけるんだよ!」

「な………んだよそれ。」


俺は豚野郎の説明を聞いて声を荒げた。


そんな女の子を道具みたいに扱いやがって、だから周りの女の子は目が死んでいたのか……許せない。こういう奴らがこの世界の至って普通の男の価値観で、女の子達の天敵なんだな。


俺は怒りで拳に力が入った。唇をかみ締め、強く豚野郎のことを睨みつける。


「まぁ、まだ子供のキミにはよく分からないかもしれないね。まぁ、いいさ。1回試しに経験してみるといいよ。だから今日キミを招待したんだ。スッキリするし、病みつきになるはずだよ。そうだ、特別に今回はボクのお気に入りを貸してあげるよ、19番こっちに来い。」


豚野郎は手を2回ポンポンと叩き、呼んだ。


「はい。」


19番って、あの19番さんか。


彼女は呼ばれてすぐに俺の目の前まで来た。

彼女もこの妻トレードというクソみたいな企画に参加していたようだった。


19番さんも他の女の子達と同じように白いネグリジェ姿に身を包んでいて、すごく魅力的だった。か、かわいい。というかエロい。


俺は視線を下にずらしてあまり見ないように心がけた。


「今日、神楽坂くんの相手をしろ。」

「わかりました。」


19番さんは従順に従った。


「今日はよろしくお願いします……神楽坂様。」

「ちょ、ちょっと。」


彼女は俺の事を引っ張って行った。


「早速参りましょう。」

「楽しんでくるといいよ。1人で物足りない時はまたここに戻ってくるといい。まだまだ残っている女共はいるからねブヒヒッ。」


容姿にぴったりな、豚のような笑い声を最後に聞いて俺は大ホールから退室した。


「ちょっと離してください!俺はまだあの豚野郎にっ!」

「少し静かにして下さい。そんな発言がもし彼の耳に入ってしまったら、周りの人達に迷惑をかけることになってしまいますよ!」

「くっ!」


俺は19番さんの助言で暴言を吐くのをやめて素直に19番さんに引っ張られて行った。


え?今からどうするんだろう………

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