第53話 運命のくじ引き


──放課後。

林間学校実行委員と生徒会のメンバーはいつもの実行委員会を行う空き教室に集合した。

皆、いつもより目付きが鋭く、緊張しているのが分かる。


俺ももちろん緊張している。誰となっても絶対に楽しむ事は出来るはずだけど、せっかくだから夜依や葵と組たいのだ。


「──それではいよいよ、待ちに待った……運命の班決めを行いたいと思います。」


声が震えるほど緊張した実行委員長が進行をし、会は始められた。


まず初めに、何人で班を組むのかを考え、6クラスで生徒会が2人、実行委員が1人のため、3人班で6組の班を作る事に決定した。


「それで……どうやって決めますか?」


続いてはどうやって班を決めるのかの話し合いで、皆はそれぞれ意見や主張を言い、話し合った。

そして、運命に従うという事で“くじ引き”に決定した。


そうと決まれば、早速俺はくじ引き作りに取り掛かった。なぜ俺が作るのかと言うと、単純な不正対策である。


くじは適当な無字の紙に1〜6の番号を3つずつ、人数分用意し、ダンボールで作った即席のくじ箱の中に入れた。


これで中身をシャッフルして……即席くじ引きの完成だ。


「よし!」

「完成しましたね……では、軽くルール説明を挟みます。

くじの交換は不可。引くのも一発勝負。もし優馬君と同じ班になれなくても文句は言わない。恨まない。妬まない。というルールにします。それでは、まず初めに優馬君がくじを引いてください。」


実行委員長が丁寧にルール確認をした後、俺にくじの順番を譲った。


「…………っ。了解。」


俺はくじの前に立つ。視線が俺に集まる。


「ふぅ……」


軽く深呼吸して目をつぶり、くじを感覚で選ぶ。時折腕を動かし、くじを見極める。まぁ、初っ端なので見極めるも何も無いけど……一応、重要な事なのだ。


よし……俺はくじを1つ決め、中を開くと、


「──俺は3番ですね。」


俺のその一言で皆の狙う番号は定まったようだ。


「3番、3番よ。お願いっ!」

「狙いは3番それ以外有り得ないッ」

「頼むぅー!」

「お願いぃぃっっ!!!」


皆、自分に喝を入れて続々とくじを引いていった。

くじは俺以外の皆で一斉に開けるそうなのでまだ誰と同じ班なのかは……分からなかった。


☆☆☆


3番……3番。優馬くんと同じ班になれる確率は明らかに低い。

……だけど1パーセントでも可能性があるのなら充分すぎる程の確率だ。そう思いながら葵は手を合わせて祈っていた。


後もう少しで葵の引く番が来る。


もし……優馬くんと一緒の班になれたら、絶対に楽しいと思う。今の幸せな記憶が過去の辛い記憶を凌駕する程だと思う。


だからお願いします!!神様、仏様。どうか優馬くんと同じ班にして下さいっ!!


葵の……心臓の動機が激しくなる。

とうとう葵がくじを引く番になったのだ。


なんでだろうか。ただくじを引くだけなのに、この結果で葵の運命が変わるかもしれないという謎の緊張があった。


葵には滅多に訪れない“幸運”……だけど今こそ運命を自らの手で掴むんだ!!


葵は強い決意を持ってくじを引いた……


☆☆☆


葵がくじを引き終わり、次は夜依がくじを引く番になった。


別段、夜依は優馬と同じ班になりたくは無かった。

なので、どうしてここまで周りは本気になれるのか疑問にすら思っていた。


だが、夜依は最近男についての認識を改めた。

男は男でも、まともな男はいるのだと。


夜依の知る男は……思い出すだけで虫唾が走る程、害虫のようなものだった。


そんなヤツらと比べれば、優馬など天と地の差もある。本性を隠している?のかもしれないが、今の所は大丈夫であろう。


だから、別に同じ班になっても構わない……と、若干は思ってはいる。


……でも、いつかは男を拒絶しなければならない時が来る。夜依の多いなる目的の為に。


まぁ、その事は置いておいて……優馬と同じ班になる確率は明らかに低いので、まず同じ班になる事は無いだろう。


だから、少しは安心している。


夜依は立派なフラグを建設しながら、くじを引くのであった。


☆☆☆


全員がくじを引き終わり、遂に発表の時。

俺は固唾を飲んで皆を見守る。


「──それでは、くじを開いて中の数字を確認してください!」


重みのある実行委員長の言葉で、皆は一斉にくじを開く。


「来い来い来い来い来い来い来い来い来いッ!」

「大丈夫、3番が来るのはこの私なのだから。」

「落ち着け……大丈夫、自分を信じて……」


などと、この瞬間に全てを掛ける皆を見ながら、俺は結果を見守る。


くじの……結果はすぐに分かった。


「うわぁぁぁ4番だぁっ!!」

「私は6番だった……」

「あーあ、運に見放されたよぉぉ、1番だぁ。」


やはり、後り2枠しかない俺と同じ班の数字。そうそう当たるはずも無く、ほとんどが膝を着いて崩れ落ちた。


その中で……2人。立つ人物がいる。


「──はわ、はわっっっ!!!!????」

「──え、嘘でしょ……有り得ない。おかしい。」


それは“葵”と“夜依”であった。


「や、やったぁぁ!!!」

「はぁぁぁっ……」


葵は珍しく大きな声を出して感激し、夜依は大きなため息をして頭を抱えていた。


「もしかして、葵と夜依が俺と同じ3番のくじを引いたのかな?」


結果はもう分かり切っているけど、一応聞く。


「そうですっ!!」

「…………」


葵はすごく嬉しそうに頷いたが、夜依は何も言わなかった。どうやら、周りの絶望する女の子と同じくらい絶望しているのだろうか?


葵も夜依も相当驚いていたようだけど……俺もしっかり驚いていた。なぜなら、まさか俺が一番班を組みたい人との組み合わせだったからだ。


素直に嬉しい。林間学校は最高に楽しめそうだ。


「はい……それでは残りはちゃちゃと決めて下さい。ついでにやる役割も一応決めておいて下さいね。」


明らかに声のトーンが1段階下がり、だるそうに話す実行委員長。周りの絶望している皆も、ほとんどが聞いている様子は無い。もう、どうでも良くなったのだろう。


まぁ、いい。取り敢えず俺達は俺達で、班の役割を決めておこう。


「えーと、役割って……班長と点呼係と保険係の3つだけど……2人はどれかやりたい役割とかはある?」


俺は……仕事が楽そうな保険係とかをやりたいんだけど、2人はどうなんだろう?


「私は別にどんな役割だろうと構いません。」


若干、嫌そうに言う夜依だったが…………


「──わ、私は……“班長”をしてみたいです!!」

「え!?」


……葵は完全に俺の予想を超えた。


「え……え!?本当に葵は班長になりたいの?班長って色々と大変だと思うよ?」


葵の性格的にそういうのはしないと思っていたけど……?


「大丈夫です。少しだけですが私も……頑張ってみたいんです!!」

「そっか。」


俺は葵の熱意を聞き、班長を任せる事にした。


「じゃあ、よろしく頼むよ、葵班長。」

「よろしくお願いします。」

「はい、任せてください!!」


よし、じゃあ……


「俺は保健係をするから、夜依は点呼係を頼むよ。」

「はいはい、分かりました。」


……こういう感じで、俺らの班決めは終わった。

あと、もう少しで林間学校が始まる。本当に本当に楽しみだ。

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