第36話 体力測定
俺は雫達と一緒に昼ご飯を食べていた。
雫は俺の前、雫の隣には由香子、俺の隣には春香という席を2・2で向かい合わせにして座っている。
雫と由香子は同じ中学校同士で元から仲が良かったが、俺が知らないうちに春香とも2人は仲が良くなっていた。どうやら俺繋がりで仲良くなったらしい。
「ねぇねぇ、そろそろ林間学校だよね~~楽しみだよねぇ。」
由香子が楽しそうに林間学校の話題を出す。
「あぁ!そうだね♪そういえば再来週に林間学校があったね、忙しくてすっかり忘れてたよ♪」
春香が興奮気味で言う。雫は無言で頷くだけだが、頬が少しだけ赤くなっているので楽しみなのだろう。
1年生の初の学年行事。それが林間学校だ。
2泊3日の泊まりで、自然を満喫し楽しむのとクラスの人達と協力して過ごす事で仲を深めるというのが今回のコンセプトだ。
前々(入学前)から興味がそそられる行事だったため、それなりに調べていた。
すると突然、
「雫~ちゃんと春香~ちゃん、林間学校の班は一緒に組まない~~?」
「……ええ。」
「おっけーだよ♪」
俺がいるこの場で班が早速班決めが開始された。
いきなりで声を出せなかったが、俺もすかさず「混ぜて」と言おうとしたが、その前に春香の質問で遮られた。
「──優馬君は誰と班を組む予定なのかな♪」
春香のその質問に……教室が一瞬にして静寂となった。そして俺の声がよく通る環境となった教室で、謎の圧力が俺の背中に集中する。
「うっ、」
今言ってはダメな気がした。うん。やめておこう。
すぐにそう判断した俺は……
「うーんっと。まぁ、仲がいい人と俺は組みたいかな。」
名前とかは一切出さずに軽く言葉を濁して言った。
これならば嫉妬とか色々な事が軽減されるだろうと思ったのだ。
春香の突発で軽率な質問を無事に乗り切れた俺は1つため息をついた。
「……そうなんだ。でもまぁ、多分優馬は女子達全員の取り合いだから。クジ引きとかになるんじゃない?」
「えー、なんか俺が商品みたいな感じでいい気はしないなぁ。」
「まぁまぁ、しょうがないでしょ~~
優馬君は“男の子”で“特別”なんだからね~~」
「そそ♪すごいんだからね!」
「はぁ……」
俺はどちらかと言うと特別扱いが嫌いだ。だって特別だと普通の人とは平等に扱ってくれないし、正当に見てもくれない、ハッキリ言って自由になれないのだ。
俺の今後の目標に“特別扱いされない人間になる”とメモしておく。
そう話をしているうちに昼休みの時間も無くなってきていたので、俺は残りの弁当を早めに口に運んだのであった。
☆☆☆
次の授業は体育だ。
俺はトイレでぱぱっと体育着に着替えて、体育館に行く。今日は前回やった体力測定の途中をやるそうだ。体育測定は今後の評価に少なからず関わってくるので精一杯頑張ろうと決めていたので気合いもやる気も十分だ。
「今日もよろしくね優馬君♪」
体育着姿の春香が俺の背中をつんつんとつついて話し掛けて来る。春香とは、今後の体育の授業はペアを組むと約束してたんだっけな。
「うん。よろしくな春香。」
その後、春香と一緒に濃厚な準備体操をし、体育の先生の説明を聞き早速体力測定を開始した。
今日は50メートル走or20メートルシャトルランの選択、長座体前屈、上体起こし、立ち幅跳び、ハンドボール投げする。
──いくらなんでも1時間の内に種目を詰め込み過ぎである。
俺と春香は単純に早く終わり疲労も少ない50メートル走を選択した。
「さぁ、早速始めて行こうか。」
「うん♪」
俺も春香も気合を入れながら移動した。
──本日1回目は立ち幅跳び。
「っおおっ!!」
「やぁっ!」
どちらもすごい熱気、迫力を醸し出して跳躍する。
そのガチさに周りのクラスの子達は唖然とするが俺達は一切気にしない。
「よっし!」
「ぁーぁ。」
結果は俺のギリギリ勝利だった。
──次はハンドボール投げ。
「うらぁぁぁ!」
「やあぁぁぁ!」
俺は思いっきり全神経を投げる力へと変えて投げるが……野球部である春香には敗北した。流石に投げる動作を常にしている春香には勝てなかったのだ。
──次は……長座体前屈。
男女での長座体前屈は非常に目のやり場に困った。
何故なら春香は俺に負けないと、全力で腕を伸ばすため正面から座って記録をする俺の目に……胸の谷間がチラチラと見えるのだ。
「…………っっ。」
指摘は……まぁやめておこう。春香は全力でやっているのだ。精神攻撃は次の測定に支障をきたすかもしれないしな。そう配慮をしてあげた。うん。配慮、配慮。
……結果は俺の敗北だった。予定外の動揺による影響だ。
──次の上体起こしは……
「ほっ、ほっ、ほっ……」
春香はリズム良く、スピーディに上体起こしをする。俺は春香の足を動かないようにしっかりと支えているのだが……
「うぅっ……」
俺は罪悪感でいっぱいになる。だって……春香とは密着度がこれまでに無いほどMAXだし、春香が起き上がってくる度に顔が急接近して唇が重なりそうだし、全力でやっているため服が少し肌けて下着が見えたりしたからだ。
くっ……今回も、春香の圧勝だった。
──後は50メートル走だけだ。
外に移動した俺と春香は軽く走って体に走る準備をさせていると、
「優馬君♪」
「ん、どうしたの春香?」
少しだけムズムズしながら春香は俺の名前を呼んだ。
「今のところ体力測定の結果は五分五分だよね♪」
「まぁーそうだね。」
俺が勝ってるのは前回の分も合わせて握力測定、立ち幅跳び、反復横跳びの3つ。春香が勝ってるのはハンドボール投げ、長座体前屈、上体起こしの3つ。別に狙ってたりはしないけど、たまたま五分五分であった。
「この50メートル走で決着が着くよね。だからさ……賭けをしようよ!」
「賭け?」
春香はニヤっと可愛い笑みを見せると……
「勝者は敗者に好きな命令を1つ下すことが出来る何て……どうかな♪」
好きな命令…………って一体どこまでの範囲なんだろう。俺と頭の中でちょっとだけいやらしい事を想像してしまう。
「もちろん、優馬君は気にすると思うから先に言っておくけど、相手にする命令は限度と節度をしっかりと守ってすること♪そうじゃないと、私と優馬君の関係がギクシャクしちゃうかもしれないしね♪」
これは春香の俺に対しての配慮だろう。うん。ありがとう。頭の中で一応お礼は言っておく。
「了解。それでいいよ。じゃあいざ尋常に勝負ってとこだね。」
俺も何となく勝負みたいな事はしていたけど、少し物足りないと思っていたのだ。友達の春香だし、酷い命令はされないと思うので俺は深く考えること無く了承した。
「うん、負けないよ、これだけは絶対に♪」
す、すごいやる気だ。これまでヘラヘラしていた春香だったがいきなり真剣な表情になり、オーラが変わった。そこまで俺に命令をしたい事があるのだろうか……
では、一体どんな命令を俺はされるのだろうか。今更だがこの賭けを受けた事に若干後悔してきたかもしれない。
冷や汗が少しだけ出てくる。さっきまでは無かった緊張感が出てきたからだ。
俺と春香は50メートルのスタートラインに立ち、クラウチングスタートの構えをとる。
俺は唾を飲み込んだ後、しっかりとゴールを見据える。そして俺は速いと、俊足だと想像する。頭の中にあるイメージを体と心に連動させる。
よし……勝てる。俺は勝てるんだ。
「──位置についてよーい………………ピッ!」
体育の先生がスタートの笛を鳴らした。
同時にスタートした俺と春香。
行けっ!走れ、回れ俺の足ッ!
いくら春香が野球部で走るのが速いと言っても身体能力、体の大きさ的に俺の方がやや有利なので、俺が負けるはずがない。俺は残りの体力を全て足に収束させ、全力で地面を蹴る。
スタートして数秒の勝負が50メートル走。少しの差だが、俺が春香より前に出ている。行ける。まだ体力は残っているし、このペースで行けば……勝てる。
短距離走において少しでも差が開いてしまえば、そこから覆して勝つ事は難しい。ほぼほぼ勝ちを確信した俺は気持ち的に楽だった。
「──はぁはぁ、言ってなかったけどさ。
私が勝ったら命令は“優馬君とデートをする”だ
よ♪」
突然。春香が俺の隣でそう囁いてきた。
「えぇっ!?」
ダメだとは分かってはいた。だけど、本能的に俺は春香の方を向いてしまった。それが敗因になる事も知ってはいたのに……
「チャンス♪」
俺が油断し、スピードが落ちた所を狙っていた春香が一瞬にして俺の事を抜き去った。そのまま独占状態で突っ走る。
も、もしかして……俺の事を惑わせたなっ!
「く、くっそぉ!」
少し遅れて体勢を立て直した俺は焦りながら春香を追うが……春香は既にラストスパート状態に入っており、追い抜かせないまま春香がゴールラインを走り切り、勝負は終わった。
「はぁはぁ、せ、せこいよ。勝負中に俺を惑わせてくるなんてさ。」
俺は息を整えながら愚痴を吐く。
「ん?勝負は勝てばいいんだよ♪それにね、私の独り言に勝手に反応して気をそらした優馬君が悪いんだよ♪」
汗まみれの春香だが、勝利した優越感に浸っているのだろう。ずっとニヤニヤしたウザイ笑顔だ。
「うぅ。そんな酷いよ。」
俺は項垂れる。単純な走る勝負であれば俺が勝っていたからだ。
まぁ、俺が勝手に惑わされた事が悪いって言われたら、そうなんだけどね……
「それじゃ、命令ね♪
今週の土曜日に私とデートをして下さい♪」
顔を真っ赤にしながら誘ってくる春香。俺は頭をかきながら、「あー、はいはい。了解ですよぉ。」と言ったのであった。
これで1年生の体力測定が全て終了した。
結果は俺は学年2位、そして春香は1位というものだった。
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