第30話 罰ゲーム!?


真面目に授業を受ける俺。

1日でも早く、学校を休んでいた分を取り戻したいと思っていたからだ。


昼休みも昼食をババっと食べ、黙々と1人で勉強をした。雫は、由香子達や他の人達と一緒に食べていたようだ。所々、聞き耳を立てると……どうやら話の内容は俺との関係性についてで固定されていた。


俺が口を滑らせたのが悪いんだけど、まだ内緒っていうことなのに何処と無く皆察していて、雫には悪い事をしたな。


午後の授業も集中して受け、多分休んでいた分の遅れは取り戻せたんじゃないだろうか。


──放課後。日も徐々に沈みかけてそろそろ夕方になりかけている。


「よし。部活の先生に挨拶しに行くか。」


俺は昼休みに、寝て回復した奈緒先生から、今日か明日の放課後に雫と一緒に部活の顧問の先生に挨拶に行くようにと言われていたのだ。


俺はテンションが高めに呟いて席を立つ。

そして、雫の元まで行く。


雫は少しだけ忙しそうにプリントをまとめていた。


「雫、部活の顧問の先生に挨拶に行くよ!奈緒先生から話は聞いてるでしょ?」

「……ええ。聞いてるけど、今日は学級委員会があるから無理だと思う。私は明日行くから、優馬は先に行っておいて。」

「そうなの?分かった。」


そういえば、今日は委員会がある日だったっけ。

俺が所属している生徒会は無いらしい。


「……じゃあ行くね。もしかしたら遅くなるかもしれないから、私の事を待たないで先に帰ってていいからね。」

「あいあい。分かった。」


待たなくてもって……俺は待つけどね。まだ雫の事が心配だし、下校中にイチャイチャしたい。


雫を見送った事だし……俺も行くか。確か……部活の顧問の先生は“若宮”と言う名前だった。


もう部活動が始まっていて、職員室にはいないかもしれないけど、取り敢えず行って探してみよう。


そう思い、俺は教室から出ようとした時…………


───バァンッッ!!


勢いよく教室のドアが開かれ、2人の来訪者は勢いよく入って来た。


「うおっッ!!!びっくりした…」


いきなりだったし、教室に俺1人しかいなくて油断していた事もあってかなり俺はビビった。


「…………って!」


俺はこの2人の来訪者のうち1人は顔見知りだった。


「空……先輩?」


そう、来訪者の1人はこの学校の生徒会長、そして俺の唯一の男の先輩である大地先輩の姉である空先輩だった。


もう1人は始めて見る人で茶髪ロングの髪をヘアピンでとめている。かなり清楚でお嬢様だと分かる。その人は常にニコニコしていてとても優しそうで大らかな雰囲気だ。可愛いと言うよりお姉さんという感じかな…


空先輩は俺の事を目視で確認すると、ニヤリと笑った。嫌な笑だ。どことなく何かを察した俺は瞬時に距離を離そうと思ったが……

俺よりも早く動いていた空先輩ともう1人の人が俺の両腕をガッチリと掴んだ。


「ちょ!?何するんですか空先輩?」


瞬時に両腕を塞がれ戸惑う俺。


空先輩は何も言わずに、もう1人のニコニコ笑顔の人と2人で俺の事を引きずって運ぶ。なに!?どこかに運ばれるの!?なんで!?


──数分、どこに運ばれるのか分からない恐怖と、なんで空先輩達がこんなことをしたのかとずっと考えていた。本気の力で暴れれば、抜け出す事も可能かもしれないけど、その後の報復とかがヤバそうだったので素直に従って運ばれた。


ある場所へ連れてこられた俺は椅子に座らされる。


落ち着いて辺りを見渡すと、まるで校長室のような……高そうな家具が多く置いてある部屋でその部屋の真ん中に俺は座らさせていた。


回りには空先輩や生徒会のメンバーだと思われる女の人達がいて熱い目線を食らう。同じクラスの夜依は……いないみたいだ。少しホットしたような……そうじゃないような……


「えっと?何で俺はここに連れてこられたんですか?ちょっと意味が分からないんですけど?」


俺が連れてこられて、誰も一言も喋らなかったので俺から話を切り出し、空先輩に伺う。


「まずは、ようこそ神楽坂 優馬!我が城、生徒会室へ!」


声を張り上げ、元気よく言う、空先輩。

完全に生徒会を私物化してる感じだ……


「ようこそです。私は生徒会副会長、3年生の白金 椎名しいなって言います。よろしくですぅ。」


空先輩に続いて俺を空先輩と一緒に運んだニコニコ笑顔の人が言った。その人は生徒会副会長だったらしい。正直……そうには見えなかった。


「それでだ!私は大変激怒している。

なぜだか優馬、お前には分かるか?」


そう言われ、俺は少しだけ考えてみる。だけど……思い当たる節が無い。


「わからないです…………でも俺に謝罪できることがあったら謝罪したいです。」

「フン、謝罪なんていらない。なぜならお仕置きをするからだ!?」


そう言って空先輩はこの学校の女用の制服を取り出した。雫達が着ている物と同じやつだ。そして、その後ろにはメイク道具らしきものが大量にトレイに入っているのが見えた。


「っ……!?」


それを見て、俺が今から何をされるのかは大体予想が着く。


……俺の男としての尊厳があれを着たら失われると本能が察知した。


俺は瞬時に頭を逃走モードに切り替え、全神経を逃走にだけ使う。

だが、俺の目の前まで迫っていた生徒会メンバーが既に俺の事を囲っていて逃げる隙間を埋めた。これでは逃げる事が出来ない。


女の子1人相手ならば余裕で逃げ切れるが、5人も6人も居れば話は違う。いくら鍛えている俺であったとしてもだ。


「優馬君は忘れちゃったですかぁ?月曜日に生徒会で臨時の委員会があったんですよぉ。案外大事な連絡とかがあった委員会だったのに、それをすっぽかしたのはどこの誰でしたっけ?せっかく空ちゃんが伝えに行ったのに……だから空ちゃんは怒っているんですよ。」

「あっ!!!」


確かに月曜日、空先輩が来てそんなことを言っていた気がする。でも、その時は雫を助けに行ったからなぁ。完全に記憶の彼方に行っていた。


「すいません。でも……」


雫の事は深く言えないけど、弁明はさせて欲しい。

だが、俺の声は空先輩の声で打ち切られる。


「──今さら謝っても遅いっ。椎名、皆、やるぞ。」

「はいっ。空ちゃんのお手伝いですぅ。」

「「「わかりました。」」」


空先輩が女物の制服をヒラヒラと俺の目にチラつかせながら、ジリジリと近付けてくる。

椎名先輩がメイク道具を両手いっぱいに持ち、はぁはぁ言いながら近付いてくる。

5~6人生徒会メンバーは俺を抵抗させないように抑える。男を無力化させる方法を知っているのか……女の体をフルに使用して止めてくる。これでは無理に動かせない。

残った生徒会メンバーは抵抗する事が出来ない俺に近付き、制服をスルスルと上手に脱がしていく。随分と慣れた手つきでまるで何回もやったことがあるかのようだ……


「うわぁぁぁ、やめてくれぇぇ!!!女装は嫌だぁぁぁぁぁぁ。」


俺は精一杯の声で叫んだ。だけど誰も動かす手を止めてはくれなかった。


☆☆☆


気が付いた時には俺はメイクをされ、ウイッグを付けられ、女用の制服を着せられていた。


「うぅ。」


まさか俺が女装する事になるとは思いもしなかった。男としての大事な何かを失った気がする。


ようやく解放され、すぐさま両手で顔を隠す。恥ずかしくて死にそうだったからだ。


これで笑われるのだろう。写真を撮られネットで拡散されるのだろう。あぁ……最悪だ。悪夢だ。


そんな負のオーラに俺が包まれていた俺だったが……


「ま、まさかここまで似合うとはね……予想外過ぎた。」

「そうだねぇ。私もビックリ仰天だよ。彼は女装の才能があるよぉ。」

「「「か、可愛いっ。」」」


周りの女の子達は次々に俺のことを「可愛い」と言っている。どうせ似合わなすぎてお世辞を言っているんだろうな。だって俺は男なんだ似合わないに決まっている。そうであって欲しい。


「ほらほら、優馬君も見てみるといいよぉ。」


俺は羞恥を我慢し、顔から手を離し、頭を上げて椎名先輩の手鏡を覗く。


「………………ん!?誰だよ。この可愛い女の子は

………俺、なのか?」


手鏡に写った“女の子”を見て、俺は素直に感想を言ってしまった。


手鏡には茉優に良く似た黒髪の可愛い女の子が椅子に座っていた。これが女装した俺なんだろう……か?なんでだよ……俺、男なんだよ?

男のくせに女装が似合う。それだけで精神的ダメージだった。


「なんだ、つまらん。こんなにも似合うんだったら……もっとマニアックな服を持ってくれは良かった。」


空先輩は後悔しながら、ため息を吐いた。

ため息を吐きたいのはこっちなんですけど……と言ってやりたい。


俺は立ち上がる。スカートだからか、足元がスースーし落ち着かない。それに、ウイッグの髪も首にあたり違和感しか無い。


「一応ね、女装はまたするかもしれないから今日やったメイクの簡単なメモを渡しておくねぇ。元から整った顔立ちで、とってもメイクしやすかったですよぉ。」


そう言って椎名先輩が俺の手にメモ用紙をいれてきた。いや、二度と俺は女装はしないんですけど……


早く着替えてメイクを落としたい。こんな服、1秒でも早く脱ぎ去りたい。


「早く、着替えたいんで俺の制服返して下さい。」


俺は今すぐにでもいつもの姿に戻りたかった。落ち着くズボンを履きたかった。


「──あ、そうだ!いい事、思いついたぞ。」


でも、俺の言葉なんて空先輩は完全無視。

ニヤリと意味深な笑いを見せると、俺から脱がせた制服を紙袋に仕舞った。えっと、すごく嫌な予感が……


「女装は優馬にとってお仕置にはならなかったようだな。なので、これから罰ゲームにするぞ。」

「え!?いやいや、もう俺は精神的ダメージをビシバシ受けて限界なんですからね!?これ以上はキツいです!」


お仕置→罰ゲーム!?それなの無いでしょ。おかしいでしょ。理不尽でしょ。


「いーや、まだお前の顔には余裕がある。という事で、明日の朝登校するまで女装をすること。これを罰ゲームとする。」


俺は大きく息を吸い込み、解放する。


「はぁぁぁぁぁっッッ!!!!さすがにそれは酷すぎます。家には家族がいるんですよ!?こんな姿見せたら軽蔑されます。いいから俺の制服を返してください。」


必死に訴える。もう、先輩後輩関係ない。

ドSが過ぎる。


「もう無理ですよぉ。空ちゃんは1度決めたことは最後まで押し通すモットーだからねぇ。」

「そういう事だ!諦めろ。」


空先輩はポンポンと俺の頭を撫でてきた。無性にイラッときた。俺はこの先輩は一生敬えないかもしれないな。


「…………うぅ。というか委員会活動しなくていいんですか?生徒会って学校で1番忙しいんじゃないんですか?こんなことをやっていていいんですか、生徒会長?」


生徒会は忙しくて大変なはず。こんな俺で遊んでいる暇なんて無いはずだ。


「私がそんな無能な生徒会長だと思っているのか?

生徒会に回された仕事は全て私が終わらしておいたから大丈夫だ。」


空先輩は自信満々に後ろにある大量のチェック済みの書類を親指で指して言った。


「という事で罰ゲーム執行開始だ!

そして、今日の生徒会はこれにて終了。優馬は朝一で生徒会室に来いよ。時間厳守。もし遅刻したら1ヶ月その姿だと思え。」

「そ、そんなの無いですよ!理不尽ですよ!」


続々と生徒会の人達が帰っていく中、俺はただただ絶望したのであった。

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