第162話 ボス令嬢は親切だった

「褒めていません!」

ボス令嬢、麗華れいか様が両手を腰に当てて吠えた。

麗華れいかさんが声を荒げるなんて…。」

「いつもなら、はしたないと窘める側なのに…。」

千寿ちず佳寿かずが驚きつつ指摘する。


「失礼、取り乱してしまいましたわ。エマさん、いくら初めてでもこのままではいけません。私と一緒に練習しましょう。お名前だけは美しく書けるようにならないといけません!」

「それに関しては、私も麗華れいかさんの言う通りだと思うわ。」

「私も。」

千寿ちず佳寿かず麗華れいかに賛同した。


――― きらり。獲物を捕らえたボス令嬢、麗華れいかの目が光った。

「それでは、私の家に集まってお稽古しましょう。」

「うん、ありがとう麗華れいかちゃん!」

「うん、ではなく、はい!」

「はい!」

「ちゃんではなく、さん!」

「どうして?」

「エマさん?」

「どうして、ちゃんはダメなのですか?」

「‥‥。」

ボス令嬢、麗華れいかは答えられなかった。


「ちゃんでよろしいわ、大人になったら直すのですよ。」

「うん、麗華れいかちゃん!」

「うん、ではなく、はい!」

「はい!」


「すごいわエマさん…。」

「麗華さんが自分のペースを乱すなんて…。」


今日、初めてボス令嬢のボスの皮が剥がれそうになった。

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