第156話 狸のケーキ

「なるほど……こうやってパーツを揃えて組み立てるんだね。」

唄子さんがネットでキャラケーキの作り方を真剣に見ていた。


器用になんでも美味しく料理する唄子さんにも苦手なことがある。

唄子さんには絵心がなかった。

致命的に無かった。

誰でも描ける富士山を描いた時、『抽象的だね、棟方志功に影響を受けたの?』と真面目な顔で聞かれて以来、人前で絵を描いた事はない。

そんな唄子さんなのでチョコペンで絵を書くなんて考えられない。


でも丸いケーキに別に作ったお目目めめや耳などのパーツを乗せるくらいなら簡単そうに思えた。

「材料はあるし、早速作ってみようかね。」


――― まずは真っ白なショートケーキを作って…。ミルクチョコでタレ目を作る。

チョコが固まったら真っ白いケーキに乗せて…あ!ちょっとずれた!でも充分パンダに見えるね!

ふふっお茶の時間が楽しみだね、エマちゃん達の喜ぶ顔が眼に浮かぶよ。


「ただいまです!」

「おかえり、エマちゃん、デイモン、ジジ、マリーちゃん。おやつがあるから手を洗っておいで。」

2人と2匹が大喜びで手を洗いに行った。


「唄子ちゃん!おやつください!」

「はいはい、今日はショートケーキだよ。」

「わあ!かわいい!」

「唄子さんは器用ですね!」

「食べるのがもったいないわ〜。」

「切るのが可哀想なんだぜ。」


「そ、そうかい?」

思った以上の好感触に照れまくる唄子さん。


「狸のケーキ可愛いです!」

「見事に狸の特徴を捉えていますね!」

「狸さん可愛いわ。」

「狸なんだぜ!」


「………じゃ、切るよー。」

棒読みだったが平常心でやり過ごした。

狸のケーキは大好評だった。

ちびっ子達がまた作ってねと大はしゃぎだった。



――― もう狸でいい。

このレシピは狸のケーキとして定番にしよう。

唄子さんは立ち直り、切り替えた。


――― 狸なら狸色にするべきだね…。

前回は真っ白なショートケーキが土台だったが、今回は狸色…チョコレートケーキが土台だ。


どこからどう見ても狸だ。

自信を持って出した。


「わあ!熊さんのケーキ!」

「唄子さんの動物ケーキは素晴らしいですね!」


新たな誤解が生まれた。

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