第144話 ちよ子はこっち!

「ちよ子ちゃん!」

愛娘の名前を呼びながら抱きつくヒース。

「父さん、いらっしゃい!」

「唄ちゃんにそっくりなお耳が可愛い〜!」

熊耳と尻尾以外はヒースにそっくりなのだが、ラブラブな奥さんに似た部分がひときわ可愛く思えるようだ。


「母さん、おじいちゃん、お茶を入れたから、どうぞ。」

冷えた指先を温めるように両手で湯呑みを包むヒースの顔が優しい。

「唄ちゃんとちよ子ちゃんとキース君に囲まれて僕は幸せだなあ。」

こんなにストレートに喜ばれて3人も嬉しくない訳がない。

朱雀すざくも2人が来るのを楽しみにしていたのよ。」

「お正月に休むためには仕方ないよね。夜には帰るから。」

ちよ子とヒースが朱雀すざくの不在を詫びる。


朱雀すざくは源氏族の首長で、一族全員をお正月に休ませる為、年末は特に忙しい。

「弟のひかるさんは朱雀すざくさんの補佐だろう?」

先ほどの自由な様子を思い出す唄子。

ひかるさんもサボっているわけじゃないのよ。どうしてもお出迎えしたくて昨夜は徹夜でお仕事を片付けたのですって。」

「それでも今日、不在にするなんて!って父さんは怒っていたけど。サボる気になった叔父さんを誰も止められないから。」

ちよ子とキースがニコニコ顔で語る。

朱雀すざくの苦労が偲ばれる。


ちなみにヒースはちよ子を溺愛しているが、頑固親父のように朱雀すざくとの結婚を反対したりはしなかった。

「ちよ子ちゃんが幸せなら僕も嬉しいよ。」

と心から祝福した。

婿との関係が良好で何よりだ。


「ねえ、あの熊さんのぬいぐるみ!」

飾り棚にお座りするぬいぐるみに気づいたヒースが嬉しそうだ。

「ちよ子が生まれた時にヒースが職人に頼んで特別に作ってもらったんだよね。」

唄子さんも嬉しそうだ。

「うん、ちよ子ちゃんにそっくりな熊さんが欲しくて無理いったなあ。ちよ子ちゃんが気に入ってくれて毎晩一緒に眠るのが可愛くて!」

「ヒースったら、熊とちよ子を間違えたふりして、ちよ子をからかっていたよね。」

「朝、起こしに来てくれるのは良いんだけど、私じゃなくて熊を揺さぶってくるんだから。」

「そうそう。そっちは熊!ちよ子はこっち!って怒るちよ子は可愛かったけど、しょっちゅう同じ事を繰り返すんだから…。」

思い出して怒るちよ子と唄子。

「いやあ、注文通りにちよ子ちゃんのお耳にそっくりなものだから、そりゃあ間違うよねえ!」


「…わざと間違えて、ちよ子をからかっていたんじゃなかったのかい?本気で間違えていたのかい!?」

「うん!」


あれ?ちよ子ちゃんと唄ちゃんがちょっと冷たいな…何故だろう?と首を傾げるヒースだった。

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